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ヘンデル:ハープ協奏曲変ロ長調 Op.4-6(Handel:Harp Concerto in B-flat major, Op.4, No.6)

(Harp)リリー・ラスキーヌ:ジャン=フランソワ・パイヤール指揮 パイヤール室内管弦楽団 1964年1月22日録音(Lily Laskine:(Con)Jean-Francois Paillard Orchestre de chambre Jean-Francois Paillard Recorded on Januery 22, 1964)

Handel:Harp Concerto in B-flat major, Op.4, No.6 [1.Andante allegro]

Handel:Harp Concerto in B-flat major, Op.4, No.6 [2.Larghetto]

Handel:Harp Concerto in B-flat major, Op.4, No.6 [3.Allegro moderato]


オラトリオの「間奏曲」だった

この曲は独立した協奏曲としてではなく、ヘンデルのオラトリオ「アレクサンダーの饗宴(HWV 75)」の初演時に、幕間の挿入曲(間奏曲)として演奏されました。
当時の名ハープ奏者ウォルター・パウエル(Walter Powell)の腕前を披露するために書かれたと言われています。

ヘンデル自身によってのちにオルガン(またはチェンバロ)用の協奏曲としても編曲され、「オルガン協奏曲 作品4」の第6番として出版されました。
そのため、今日でもオルガンやチェンバロ、あるいは現代のピアノで演奏される機会が少なくありません。


  1. 第1楽章:Andante allegro
    全楽章の中でもっとも有名で、誰もが一度は耳にしたことがある華やかな楽章です。
    冒頭、オーケストラによって優美で気品に満ちたテーマが提示された後、ハープが滑らかにその旋律を引き継ぎます。
    全66小節のうち46小節がハープの独奏パート(またはハープ主導のセクション)で占められており、オーケストラは要所を支える役割に徹しています。
    ハープの奏でる細やかなアルペジオやトリルが、まるで宮廷の庭園を思わせる美しい世界を創り出します。

  2. 第2楽章:Larghetto
    明朗な第1楽章から一転し、哀愁を帯びた深い情緒が漂う緩端楽章です。
    ヘンデルが得意とする、イタリア風のオペラ・アリアを思わせるような、歌うような美しいメロディが展開されます。
    バロック音楽の伝統的な対位法が心地よく響き、ハープのどこか儚く切ない音色が、聴く人の心にしっとりと染み渡ります。

  3. 第3楽章:Allegro moderato
    再び明るい変ロ長調に戻り、軽快なステップを踏むようなリズミカルなフィナーレです。
    3拍子の舞曲風の軽やかなリズムに乗せて、ハープとオーケストラが楽しげに会話を交わすように進みます。
    超絶技巧で圧倒するような激しさではなく、バロックらしい節度と上品なユーモアを保ったまま、清々しく幸福感に満ちた雰囲気の中で曲を締めくくります。




ハープを「誰もが親しめる主役楽器」へと引き上げた先駆者

リリー・ラスキーヌ(Lily Laskine)は伝統的なフランス・ハープ楽派の体現者であり、当時は男性中心だったオーケストラ界において女性奏者の道を切り開いた偉大な先駆者と言えます。
1893年にパリでロシア系ユダヤ人の音楽一家に生まれまれ、1904年にパリ音楽院に入学し、名教師アルフォンス・アッセルマンに師事しました。
1909年、わずか16歳でパリ・オペラ座管弦楽団のハープ奏者に就任します。これは同楽団の歴史において、史上初めて入団を許可された女性演奏家という記念碑的な出来事でした。

1934年にフランス国立管弦楽団が創設されると、初代ソロ・ハープ奏者に就任しし、また、コメディ・フランセーズ(フランス国立劇場)の奏者としても30年以上にわたり務めました。

そして、1950年にエラート・レーベルと契約します。
フルートの巨匠ジャン=ピエール・ランパルらと共演したモーツァルトの「フルートとハープのための協奏曲」をはじめとする数々の名盤を残し、ハープの魅力を広く世界に届けました。
同時代の作曲家たちから絶大な信頼を寄せられ、多くのハープ協奏曲や室内楽曲の初演を手がけ、楽器の可能性を広げました。

経歴をざっと振り返ればこんな感じでしょうか。

リリー・ラスキーヌが生きた20世紀前半のフランスは、近代ハープの基礎を築いた名教師アルフォンス・アッセルマンの門下生たちが活躍する「フランス・ハープ楽派」の黄金期でした。
ラスキーヌと同時代に活躍した代表的な演奏家との決定的な違いは、「大衆的な親しみやすさと録音への貢献」、そして「フランス管弦楽の真髄とも言える、色彩豊かで流麗な演奏スタイル」にあります。

当時のハープは、まだ貴族的な楽器、あるいはオーケストラの伴奏楽器というイメージが強く残っていました。
しかしラスキーヌは1950年にエラートレーベルと契約し、膨大な数の商業録音を遺すことで、ハープを「誰もが親しめる主役楽器」へと引き上げたのです。

また、16歳でパリ・オペラ座に入団し、コメディ・フランセーズでも30年以上演奏した彼女は、「言葉や演劇の息遣いに合わせる力」がズバ抜けていました。
他の奏者が純器楽的な美を追求する傾向があったのに対し、ラスキーヌの演奏は非常に雄弁で、まるでハープが言葉を喋っているかのようなドラマチックで生命力に溢れた表現が特徴です。

さらに、彼女のタッチは、アッセルマンから受け継いだ「指の腹を深く使い、無駄な力を入れずに楽器を豊かに鳴らす」というフランス伝統の奏法を最も純粋に体現していました。

従来の奏法では、爪の近くや指先だけで弦を弾くことが多く、これが金属的な細い音の原因になっていました。
フランス式では、指の腹の肉厚な部分(柔らかい部分)でしっかりと弦を捉えます。
弦の振動が角張らず、ハープ特有のキツいアタック音が消え、丸みのあるふくよかで暖かい音色(ウォーム・トーン)が生まれます。

また、ハープを鳴らすために腕力で弦を引っ張るのではなく、身体の構造に逆らわない自然な弾き方を重視します。
肘を適度に上げ、手首を柔軟に保ちます。指をあらかじめ弦にセットする「プレースメント(準備)」を徹底し、弾く瞬間にだけ効率よく力を伝えます。
そのため、無駄な力みが一切抜けるため、長時間の演奏でも音が濁らず、ラスキーヌの持ち味である「水が流れるような流麗さ(レガート)」が可能になります。

さらに、フランス奏法において最も特徴的なのが、弦を弾いた直後の指の動きです。
弦を弾いた指をそのまま宙に投げ出すのではなく、手のひらの内側へ向かって素早く、丸めるように握り込みます。
これにより弦のエネルギーが100%均等に楽器に伝わり、音が空間に豊かに広がります。
ラスキーヌの演奏に見られる、一音一音の芯がはっきりしていながらも耳に心地よい響きは、この繊細な指のコントロールから生まれています。

ちなみに、アッセルマンは楽器の音域ごとの特性を数式のように美しく整理し、門下生に叩き込みました。


  1. 低音域:パワフルで丸みのある響き(伴奏や土台)

  2. 中音域:歌を歌うための最高のレジスター(主旋律)

  3. 高音域:俊敏で輝かしい響き(華やかな装飾)



ラスキーヌはこの音域ごとの鳴らし分けが天才的でした。
オーケストラやフルートとの共演時でも、自分の音がどの役割を果たすべきかを瞬時に判断し、タッチの音色を完璧に変えていたのです。

アッセルマンの技術は非常にロジカルでしたが、ラスキーヌの素晴らしさは、この厳格な技術を「全く技術を感じさせないほど自然に、音楽そのものとして響かせた」点にあります。

彼女の直弟子であるマリエル・ノルドマンは、ラスキーヌの教えを称えるコンクールを創設した際、「純粋なテクニックよりも、音楽性と表現力を最も重視する」というラスキーヌの哲学を継承しました。
フランス式の基礎が完璧にあったからこそ、ラスキーヌはあれほど自由に、エスプリに富んだ色彩豊かな歌をハープで奏でることができたのです。

この演奏を評価してください。

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