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リヒター(Karl Richter)|ヘンデル:オルガン協奏曲第5番ヘ長調 op.4-5, HWV.293
ヘンデル:オルガン協奏曲第5番ヘ長調 op.4-5, HWV.293
カール・リヒター指揮&オルガン カール・リヒター室内管弦楽団 1959年録音
Organ Concerto in F major, HWV 293, Op.4-5 [1.Larghetto]
Organ Concerto in F major, HWV 293, Op.4-5 [2.Allegro]
Organ Concerto in F major, HWV 293, Op.4-5 [3.Alla siciliano]
Organ Concerto in F major, HWV 293, Op.4-5 [4.presto]
ヘンデル:オルガン協奏曲
日本でオルガンと言えば小学校の教室にあった足踏みオルガンを思い出すのですが、あれは「リード・オルガン」と呼ばれる種類のもので、ヨーロッパで一般的な「パイプ・オルガン」とは基本的に楽器の構造が異なります。さらに、クラシック音楽の世界でオルガンと言えば、これまた一般的には教会などに据え付けられている巨大なパイプ・オルガンを連想するのですが、実はあんな巨大なものだけがパイプ・オルガンだというわけではありません。
一般的にはパイプ・オルガンには以下の3種類があるそうです。
- 大オルガン
- ポジティブオルガン
- ポルタティーフオルガン
この(1)の大オルガンが教会やコンサート会場に据え付けられている巨大なオルガンに相当します。
そして、(3)の「ポルタティーフオルガン」とは街中で大道芸人が膝の上に乗せて演奏しているオルガンに相当します。
この二つは大きさという点では随分と違いはあるのですが、音を出す仕組みは同じなのでともにパイプ・オルガンの仲間とされています。
問題は(2)の「ポジティブオルガン」と呼ばれるもので、これは言ってみれば「移動可能な小型オルガン」のことで、大きさは机程度のものが一般的です。中には結構大きなものもあるようなのですが、それでも幾つかの部分に分解できるようになっているので持ち運びが可能というのがポイントだそうです。
このポジティブオルガンはヘンデルの時代には宗教曲の通奏低音用オルガンとして用いられたり、サロンでの演奏用に使われて大流行したそうです。また、裕福な一般家庭にもかなり普及したようです。
と言うことで、こんな事を何故につらつら書き連ねてきたのかというと、このヘンデルのオルガン協奏曲はそういう「ポジティブオルガン」を想定して書かれていると言うことを確認しておきたかったからです。さらに念押しをしておくと、この協奏曲では教会などに設置されている巨大なパイプオルガンは想定されていないと言うことです。
言うまでもなくヘンデルもまたバッハと並び称されるオルガンの名手でしたから、彼はこれを自分の演奏会で自らがオルガンを演奏して披露しました。しかし、バッハがその腕前を教会で披露したのに対して、ヘンデルは自らの演奏会で披露したのです。さらにいえば、その作品はオラトリオの幕間における「息抜き」のための音楽として披露されたのです。
ヘンデルにとって重要な作品はあくまでも「オラトリオ」であり、聴衆もまたそれを求めていました。しかしながら、そう言う宗教的な題材をもとにしたヘビーな作品を何の休憩や息抜きも無しに聞き通すのは大変なので、幕間にヘンデル自らがオルガンを演奏して拍手喝采を浴びたのでした。そして、その人気に目をつけた出版社が作品番号4と作品番号7として計12曲をまとめたのです。
ただし、詳しいことはよく分からないのですが、ヘンデルの才能は「即興演奏」にあったので、その出版譜には「ここは即興で!」みたいな事が書かれてあるので、楽譜を見て演奏するしか能のない演奏家には手も足も出ない代物だというのをどこかで聞いたことがあります。
- オルガン協奏曲第1番ト短調 op.4-1, HWV.289
- オルガン協奏曲第2番変ロ長調 op.4-2, HWV.290
- オルガン協奏曲第3番ト短調 op.4-3, HWV.291
- オルガン協奏曲第4番ヘ長調 op.4-4, HWV.292
- オルガン協奏曲第5番ヘ長調 op.4-5, HWV.293
- オルガン協奏曲第6番変ロ長調 op.4-6, HWV.294
- オルガン協奏曲第7番変ロ長調 op.7-1, HWV.306
- オルガン協奏曲第8番イ長調 op.7-2, HWV.307
- オルガン協奏曲第9番変ロ長調 op.7-3, HWV.308
- オルガン協奏曲第10番ニ短調 op.7-4, HWV.309
- オルガン協奏曲第11番ト短調 op.7-5, HWV.310
- オルガン協奏曲第12番変ロ長調 op.7-6, HWV.311
大まじめでシリアスな演奏
リヒターの初期録音なのですが、さすがに時代を感じてしまいます。
聞けば分かるように、リヒターが使用しているオルガンはかなり大きなもののようで(おそらくは据え付け形の大オルガン?)、オーケストラの方もそれにあわせてかなり分厚めの音を響かせています。「室内管弦楽団」と記されていてもその規模はかなり大きいように推察されます。
しかしながら、ヘンデルは持ち運び可能な小型のオルガンを想定してこの作品を書いています。ですから、オケの方もそう言う音量の小さなオルガンを想定して弦楽器に弱音器を装着するように指示しているところもあるほどです。
ですから、これはかなり困った「解釈」と言うことになります。
さらに言えば、この作品はオラトリオの幕間のための気晴らしの音楽なのですから、何もこんなにもシリアスに、そして大まじめに対峙しなくてもいいと思わずにはおれません。
もっとも、それでもそうせずにはおけないのがリヒターという男なのでしょう。
そして、驚かされるのは、そうのように向き合って大まじめに演奏すれば、それに答えてくれるだけの内容をこの作品が持っていた事ををリヒターが教えてくれるという事実です。
もしかしたら、この演奏を聴いて一番驚くのは作曲者であるヘンデル自身なのかもしれません。
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