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ルドルフ・バルシャイ(Rudolf Barshai)|ヘンデル:ヴィオラと管弦楽のための協奏曲(偽作)(Handel:Viola Concerto in B Minor)
ヘンデル:ヴィオラと管弦楽のための協奏曲(偽作)(Handel:Viola Concerto in B Minor)
ルドルフ・バルシャイ指揮&ヴィオラ:モスクワ室内管弦楽団 1959年録音(Rudolf Barshai:(Viola)Rudolf Barshai Moscow Chamber Orchestra Recorded on 1959)
Handel:Viola Concerto in B Minor [1.Allegro moderato]
Handel:Viola Concerto in B Minor [2.Andante ma non troppo]
Handel:Viola Concerto in B Minor [3.Allegro molto]
偽作でも素晴らしい!!

この曲はヘンデルが書いたものではなく、20世紀のフランスのヴィオラ奏者・作曲家であるアンリ・カサドシュ(Henri Casadesus, 1879?1947)による「偽作」であることが現在では判明しています。
1924年、カサドシュは「ヘンデルの未発表の楽譜を発見し、自分がヴィオラと管弦楽のために編曲した」という体裁でこの曲を出版しました。
当時は、ヴィオラの独奏レパートリーが非常に不足していました。また、古い時代の埋もれた名曲を発見して世に出すブームもあり、カサドシュはあえて大作曲家の名前を借りて発表したと言われています。
クライスラーが古い作曲家の名前を借りてヴァイオリン曲を書いたのと似たケースです。
とはいえ、聞いてもらえば分かるように、ヘンデルの名前は借りているものの、作品としての完成度は非常に高く、バロック風の気品とロマン派的な瑞々しさが絶妙に融合しています。
- 第1楽章:Allegro moderato
力強く、どこか哀愁を帯びた主題で始まります。
ヴィオラの深みのある低音から華やかな高音までがバランスよく使われており、バロック音楽らしいカッチリとした推進力があります。
- 第2楽章:Andante ma non troppo
一転して、非常に美しく牧歌的な楽章です。
ここでは伴奏のフルートとファゴットがソロ・ヴィオラと優しく会話を交わすように響き、温かみのある穏やかな空間を作り出します。
- 第3楽章:Allegro molto(ロ短調)
軽快で躍動感あふれるフィナーレです。
ヴィオラが細かく速いパッセージを小気味よく刻み、技術的な聴きどころも満載です。
短調ですが、暗さはなく非常に爽快な終わり方をします。
クラシック音楽の歴史において「偽作」と判明した曲は演奏されなくなることも多いのですが、この曲は例外です。
現在でもヴィオラの重要なスタンダード・レパートリーとして、ウィリアム・プリムローズをはじめとする往年の大ヴィオラ奏者たちも好んで録音を遺しました。
ヘンデルの真作ではないと分かってもなお、「ヴィオラという楽器の魅力を最大限に引き出した」楽曲として色褪せない魅力を放ち続けています
作曲家の最高の代弁者
バルシャイはボロディン弦楽四重奏団の創設メンバーであり、室内楽の何たるかを骨の髄まで知る演奏家でした。
ボロディン弦楽四重奏団で培った「全員が同じ解釈、同じイントネーション、同じボウイングの圧力を共有する」という室内楽の極意を、そっくりそのまま20~30人規模のアンサンブルに適応させようとしたのです。
彼はモスクワ音楽院の優秀な若手らで結成したオーケストラのメンバーを個別に、あるいは徹底的な夜間リハーサルを通じて鍛え上げました。(うーん、なんて怖い!)
その結果、スコアのすべての内声部までが完全に透けて見えるような透明度の高い響きと、一糸乱れぬ完璧なボウイング、そして驚異的に精密なイントネーションを実現しました。
彼らの演奏は、いわゆる西欧的な「優雅で軽快な室内楽」とは一線を画していました。
バロックや古典派の作品であっても、ボウイングのアタックは極めて深く、引き締まった筋肉質な響きを持っています。
リズムの切れ味は極めて鋭く、強音における集中力や推進力は、まるで一つの巨大な弦楽器が鳴っているかのような強靭なエネルギーを放ちました。
しかしながら、彼らの来日公演に接した日本の聴衆の多くは、そのような演奏に大きな戸惑いを覚えたようです。
何しろ、あの吉田秀和でさえ「音が凄いほどに整然としていればいるほど、きいているこちらの耳は、心は、何か金属の棒か、針をあてられたように、痛む。」と述べていたのです。
当時は、ベームのモーツァルトを取り上げて、「引き締まった、リズムの躍動の鮮やかな、透明な線の音楽」と述べていたのですから、それもまた無理もないことだったのかもしれません。
さらに、吉田はマリナーとバルシャイを俎上に上げて比較しながら、マリナーとアカデミー室内管弦楽団が提示したモーツァルトの姿にこそ「価値のある新しさを見いだした」と述べていました。
今から見れば悪い冗談としか思えません。
そして、1970年代に入ってピリオド演奏というムーブメントが高まってくると、今度はモダン楽器による緻密な統制という形で時代の先取りしていたとも言われたものです。
それもまたも甚だしい勘違いだと言わざるを得ません。
おそらく、バルシャイほど、そういうムーブメントが主張する様式から遠い存在はいなかったはずです。
彼は自らの演奏について、後年こう語っています。
「音楽において最も重要なのは、演奏家が前面に出ることではない。作曲家が聴衆の心に直接語りかけるための、完全に透明な窓になることだ」
「楽譜に忠実な演奏」が「作曲家の最高の代弁者」になるためには、どれほどの壁があるかを、今もなお私たちに語りかけてくるようです。
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