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カッチェン(Julius Katchen)|ベートーヴェン:ディアベリ変奏曲, Op.120(Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120)
ベートーヴェン:ディアベリ変奏曲, Op.120(Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120)
(P)ジュリアス・カッチェン 1953年録音(Julius Katchen:Recorded on 1953)
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [Theme. Vivace]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [1. Alla marcia maestoso]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [2. Poco allegro]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [3. Listesso tempo]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [4. Un poco piu vivace]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [5. Allegro vivace]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [6. Allegro ma non troppo e serioso]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [7. Un poco piu allegro]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [8. Poco vivace]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [9. Allegro pesante e risoluto]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [10. Presto]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [11. Allegretto]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [12. Un poco piu moto]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [13. Vivace]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [14. Grave e maestoso]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [15. Presto scherzando]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [16. Allegro]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [17. [Allegro]]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [18. Poco moderato]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [19. Presto]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [20. Andante]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [21. Allegro con brio ? Meno allegro]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [22. Allegro molto, alla Notte e giorno faticar di Mozart]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [23. Allegro assai]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [24. Fughetta. Andante]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [25. Allegro]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [26. Piacevole]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [27. Vivace]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [28. Allegro]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [29. Adagio ma non troppo]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [30. Andante, sempre cantabile]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [31. Largo, molto espressivo]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [32. Fugue. Allegro]
Beethoven:Variations Diabelli in C major, Op.120 [33. Tempo di Minuet moderato]
ベートーベン以降のロマン派の作曲家たちの前に立ちはだかる作品
ベートーベンは若い頃を中心に数多くの「ピアノのための変奏曲」を作曲しているのですが、その後も折に触れてこの形式によるピアノ曲を残しています。その中でも、とりわけ重要であり、しかしながら最後まで聞き通すにはかなりの忍耐を強いられるのが「ディアベリ変奏曲」でしょう。
「ディアベリ変奏曲」は、作曲家で出版業も営んでいたアントン・ディアベリからの依頼によるものでした。しかし、その依頼はいささか変わったもので、ディアベリは自らが作り出した主題を基にした変奏曲を50人の作曲家に1曲ずつ依頼し、それを最後は自分の手で一つにまとめて長大な作品に仕上げようと企画したのです。
依頼したのは当時の売れっ子作曲家たちで、その中にはカール・チェルニーやフランツ・シューベルト、さらには当時11歳だったフランツ・リストもいたようです。そして、当然のことながらその中にベートーベンが含まれていたことは言うまでもありません。
しかし、ベートーベンはそういう依頼には全く興味を示さず、いくつかの変奏をスケッチした時点で放置してしまいます。当然のことながらベートーベンだけでなくそのほかの有名作曲家たちもほとんど本気では取り組まなかったようです。
ところが、どうしたわけか凡庸の作曲家であるディアベリが作り出した「陳腐で単純」なテーマ、ベートーベンの言葉を借りれば「靴屋の継ぎ皮」のようなテーマにある日突然興味がわいてしまったのです。
ベートーベンは「ミサ・ソレムニス」の作曲を成し遂げると、放り出したままのディアベリの主題による変奏曲のスケッチがふと目に留まったのでした。そして、彼はその陳腐なテーマの中にある種の可能性が潜んでいることに気づき、思わず知らずという感じで変奏曲を再び書き始めたのです。
「変奏」とは一般的には「ある旋律のリズム、拍子、旋律、調子、和声などを変えたり、さまざまな装飾を付けるなどして変化を付けること」とされています。しかし、ベートーベンの「変奏曲」というジャンルにおける探求を跡づけていくと、「変化をつける」などと言う範疇に留まらないことに気づかされます。
いや、確かに最初は、オペラなどから拝借した旋律を面白おかしく変化させて聴く人の耳を楽しませる所からスタートしています。しかしながら、その到達点である「ディアベリ変奏曲」を聴くとき、そこには面白おかしく変化をつけて聴く人の耳を楽しませるなどという姿勢は吹き飛んでいます。
それでは、そこでベートーベンは何をしようとしたのかといえば、それは主題が内包する可能性を徹底的に汲み尽くすことでした。
一般的に、変奏曲というジャンルはおおむね、「装飾変奏」「性格変奏」「対位法的変奏」の3つのタイプに分類できるそうなのですが、「ディアベリ変奏曲」はこの分類で行けば言うまでもなく「性格変奏」に分類されます。
この変奏はテーマの一部だけを変奏し、拡大し、繰り返したりして次々と発展させていくものです。
ですから、肝心のテーマにそれに耐えうるだけの可能性が必要です。ですから、「ディアベリ」の主題はベートーベンによって多少の手直しがされているのではないかと疑ってしまうのですが、どうやらそういうことは一切していないようです。
改めて繰り返しますが、ディアベリによって示された「テーマ」は実に単純で陳腐なもののように見えました。しかしながら、外面的には「陳腐で単純」に見えたテーマの中に豊かな可能性をかぎつけたのがベートーベンの天才でした。
そのテーマが単純であるがゆえに、それを様々な音楽的スタイルの中においてみることが可能であり、そのスタイルによってはディアベリのテーマはほとんど姿を消しているように見えながらも、それもまた主題の可能性を最大限に追求した結果であるような音楽になっているのです。
そして、その最後の到達点と若い頃の作品を並べてみれば、ベートーベンという音楽家がその生涯においてどれほど長い距離を歩いたかが分かるのです。
ベートーベンにとって「ピアノ・ソナタ」という形式は常に実験の場であったのですが、「ピアノのための変奏曲」はそれ以上に実験的な場だったのかも知れません。そして、その実験的性格ゆえに、例えば「ハ短調変奏曲」と呼ばれることもある中期の作品などには作品番号を与えなかったのかも知れません。
「ディアベリ変奏曲」はベートーヴェンの最後のピアノ変奏曲であり、彼のこれまでの変奏技法が駆使された集大成であり、この「性格変奏」を代表する作品だといっていいでしょう。ベートーベン以降のロマン派の作曲家たちも変奏曲といえばこの「性格変奏」に挑んでいくのですが、彼らの前には常にこの「ディアベリ変奏曲」が立ちはだかっていたのでした。
偉大な先人を持つというのはしんどいことです。
1度の人生でその3倍の人生を生きた
カッチェンにはもう一つモノラル録音による「ディアベリ変奏曲」が存在していることに気づきました。「ディアベリ変奏曲」みたいな長尺物はステレオ録音だけあれば十分、わざわざモノラルで聞きなおしてみたいとは思わないよ、という方も少なくないでしょう。
しかし、一人のピアニストの軌跡を追う上では、あるべきものはきちんと紹介しておくのもこういうサイトの役割でしょう。
それから、もう一つ、全曲をスムーズに聞けるように変奏曲単位ではなくて全曲を一括してファイル化してアップしてほしいという要望もありました。分からないのではないですが、このサイトは意外とピアノを学習している方もよく使っていただいています。そういう方にとっては変奏曲単位できけるのはありがたいようなので、それもあわせてご理解ください。
カッチェンは音楽的にはサラブレッドとも言うべき環境の中で育ちました。
一族の大部分が音楽の先生や演奏家であり、弁護士だった父もアマチュアの域を超えるほどのヴァイオリニストだったそうです。そんな環境の中で、ピアニストだった祖母がカッチェンにピアノを教え、音楽院の先生だった祖父が理論を教えたそうです。
おかげで、わずか10歳でモーツァルトのピアノ協奏曲第20番を演奏会で弾いてデビューするという早熟の天才でした。
まあ、ここまではこの世界ではよくある話です。驚きのはここからです。
弁護士だったカッチェンの父は正規の教育をきちんを受けるべきだという信念を持っていたようで、彼はその父の信念に沿って音楽学校には進まず、普通の高校からHaverford Collegeへ進学します。専攻は哲学と英米文学だったようで、彼はこのカレッジの4年の過程を3年で終えて、なおかつ首席だったそうです。当然その間はピアニストとしての活動は一切行わなかったのですが、「知的好奇心を育ててくれたことで、レパートリーとしてより精神的な面でチャレンジングな作品への関心を持つようになった」と彼は肯定的に語っています。
また、子供時代のカッチェンは水泳選手や卓球選手として活躍し、家でピアノの練習をしていないときは庭で野球をするのが大好きだったそうです。昨今のステージママが聞けば卒倒しそうな話ですが、彼は平気でボール運動を楽しんでいたようです。
このことが彼の常人とは思えないパワフルな演奏活動の基礎を築いたと言えそうです。
カッチェンと言えば、「知的なブルドーザー」と言われることがよくあります。
彼の音楽に対するアプローチは感性よりは理詰めの知的な構成を特徴としていました。しかし、そう言うアプローチから想像されるようなか弱さは微塵もなかったのがカッチェンというピアニストの特徴でした。
タッチは力強くクリアで、音量もたっぷりある聞き映えのするピアニストだったようです。この特徴は彼がどの様な作品に足しても貫き通したスタイルでした。
まさに、感じるのではなく考え、その上でその音楽の魂を突き詰めるタイプの典型とも言うべき存在でした。
さらに凄いのはそのスタミナで、彼は1日12時間の練習を平然と続けたそうです。
コンサートにおいてもベートーヴェンの第3番にラフマニノフの第2番、さらにブラームスの第2番の3つのピアノ協奏曲を一気に演奏したり、シューベルトのピアノソナタ第21番、ベートーヴェンのディアベリ変奏曲を弾いた後でアンコールとしてベートーヴェンの熱情ソナタ全楽章を演奏する・・・なんて言うことをちょくちょくやったようです。
聴衆は大喜びか、吐き気がしたかのどちらかでしょうが、まあすさまじいスタミナです。
そんな超人ピアニストだったカッチェンだったのですが、わずか42歳で肺ガンのためにこの世を去ってしまいます。しかし、それでも多くの人は「1度の人生でその3倍の人生を生きた」と評したのでした。
ということをまさに表している。彼が4月に亡くなった時、カッチェンは42歳ではなく、126歳だったんだ。」と語ったほどです。
歴史にイフはありませんが、彼がもう少し長く活動を続ける事が出来ていれば、ピアニスト業界の絵地図も随分変わったものになったことでしょう。
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