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バッハ:トッカータとフーガ ニ短調 BWV.565(Bach:Toccata and Fugue in D Minor, BWV 565)

(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

Bach:Toccata and Fugue in D Minor, BWV 565 [1.Toccata]

Bach:Toccata and Fugue in D Minor, BWV 565 [2.Fuga]


自由な形式によるオルガン曲の概要

バッハのオルガン作品は膨大な量に上るのですが、それらを大雑把に分ければ概ね以下の3つにぶ分類されるようです。


  1. コラールに基づく作品

  2. 自由な形式による作品

  3. 教育のための作品



コラールに基づく作品は教会オルガニストとしての本務を果たすためのものであり、約200程度の作品が知られています。
教育用の作品は、おそらくは子ども達のために書かれたと思われる作品群で、6つのトリオ・ソナタが最も有名です。

それに対して、自由な形式によるオルガン作品は、バッハという音楽家の音楽的な思考力とオルガンという楽器に対する名人芸の発露が封じ込められた作品群だといえます。それ故に、このジャンルに対する取り組みは生涯にわたって続けられ、それを辿ることでバッハという音楽家の作曲技法がいかに発展していったかが反映されています。
ただし、それらの全てを詳述する能力は私にはありませんので、概略だけでも記しておければと思います。

トッカータとフーガ ニ短調BWV565



クラシック音楽などには何の興味もない人でも、この冒頭のメロディを知らないという人はまずいないでしょう。その強烈な下降パッセージからは若きバッハのあふれんばかりの覇気を感じ取ることができます。
また、この作品の特徴として、ひんぱんに速度が変化することがあげられます。それは前半のトッカータの部分でもそうですし、中間のフーガでもその終結部ではめまぐるしく速度が変化します。この変化をどのように処理するかは演奏者に任される部分が多く、まさにオルガニストの腕の見せ所だといえます。

この作品はいつ頃作曲されたかについてはいくつかの説があり未だに確定していません。しかし、ブクステフーデやスウェーリングなどの強い影響から抜け出して、バッハらしい緊密で簡潔な様式へと脱皮をとげた作品であることは間違いありません。さらに、ヴァイマル時代(1708?1717)のバッハはオルガニストとしての名声が高まり、各地に招待されることも増えてそのための作品も数多く作られた時期なので、おそらくはそのころの作曲されたものだというのが有力です。


多彩な音色が魅力

マリー=クレール・アランはアラン家の4人兄弟の末っ子として1926年8月10日にサン=ジェルマン=アン=レーで生まれました。このアラン家というのは大変な音楽一家であり、父であるアルベール・アランはオルガン奏者兼作曲家であり、兄のジェアンとオリヴィエも同様にオルガン奏者兼作曲家でした。
ですから、彼女もまた当然のようにオルガンを父から学び、11歳の時には教会で父の手助けを始めています。そして、パリ音楽院でマルセル・デュプレにオルガンを学び、モーリス・デュリュフレからは和声学も学びました。まさにサラブレッドとも言うべき経歴です。
そして、アランは1950年にジュネーブ国際音楽コンクールでオルガン部門第2位を獲得すると、その後順調に演奏家としてもキャリアを伸ばし、その生涯において「バッハ・オルガン作品全集」を3回も録音するなどと言う偉業を成し遂げます。
まさに、フランスを代表するオルガニストであり、同時代でいえばドイツのヘルムート・ヴァルヒャと肩を並べる存在だったと言ってもいいでしょう。

しかし、そのような華やかなキャリアの中で私が注目したいのは、1971年に父が亡くなった後にサン=ジェルマン=アン=レー教区教会のオルガニストの職を引き継いだことです。そして、2011年に演奏家として引退するまでその職を務めていたことです。
おそらくこの教会オルガニストというスタンスこそが彼女の背骨だったのではないかと思うのです。アランにとってオルガンを演奏するということは、そのまま神とバッハへの信仰であり、神とバッハに仕えることだったのではないかと思うのです。

おそらく、そういう背骨がなければ、その生涯において「バッハ・オルガン作品全集」を3回も録音するなどと言う偉業はなしえなかったでしょう。
普通のオルガニストであれば、その生涯で一度は録音したいとは思ってみても、その「一度」が叶う人はほとんどいません。なぜならば、それはビジネス的に成り立つかという壁以上に、それを成し遂げるだけの献身とそれに支えるだけのエネルギーを持っているかが問われる仕事だからです。それを3度も成し遂げるというのは、神とバッハに仕えるという背骨がなければ不可能だっただろう思うのです。

しかし、面白いな思うのは、演奏そのものを聞いた時にはヴァルヒャのほうこそが「神とバッハへの信仰」にふさわしく聞こえるということです。アランの演奏はそういうヴァルヒャの演奏とはかなり趣を異にしています。

ヴァルヒャのバッハは一言でいえば重々しく聞こえます。それは言葉をかえれば「深い」ということになるのでしょうか。
それに対してアランの演奏で真っ先に驚かされるのは「多彩な音色」であり、その多様性ゆえに表現の幅が「広い」ということです。
まあ、世間一般でいえば芸術というのは「深い」ほうが価値を持ち、「華やか」というものはそれよりは一段低い価値しかないとみなされるものです。それが、神とバッハへの信仰告白であるならば、断然「深さ」のほうこそ価値あるものということになるのでしょう。

しかし、その演奏を聞きこんでいくと、ふと気づかされます。
オルガンってどうしてあのように多彩な音色を実現できるのかというごく初歩的な「はてな?」です。

オルガンというのは言ってみればリコーダーみたいなもので、空気を吹き込んで音を鳴らしています。ですから、音色などは変化するはずはないのです。

しかし、パイプ・オルガンというのは大変なもので、舞台から見えるだけでも多くのパイプが林立しているのですが、その奥に数千本のパイプが並んでいます。
その何千本ものパイプにはそれそれ一つの音程、一つの音色が割り振られているのです。
ですから、ある音色を低い音から高い音まで出そうと思えば、その音程分と音色分を掛け合わせただけのパイプが必要ということです。
具体的に言うと、ある音色を低い音から高い音まで56鍵分出したいなら56本のパイプが必要で、音色が増えれば、そのたびに56本が必要となります。出せる音域と音色を増やすほどパイプの本数が増え、楽器が巨大になるのです。そして、そういう音色の選択はストップ・レバーというものを操作して行います。

問題はその操作を譜面に合わせて精緻に作り上げていく必要があるということです。そういう音色づくりのことを「レジストレーション」と言うそうです。
オルガン奏者は演奏する会場に出向いて、実際の響きを確認しながら「レジストレーション」を行います。何しろ、パイプ・オルガンは持ち運びできませんから、一つずつ個性のあるパイプ・オルガンを相手にコツコツと積み上げていく必要があります。
そして、実際の演奏時にそういう操作を自分だけで行うことはほぼ不可能ですから、昔はストップの操作のために助手をつけていました。現在はその音色を記憶させる装置もついているので助手は必要ないそうです。

つまりは、アランの多彩な音色によるバッハというものは、ただ華やかに演奏するというだけでなく、その背景にはとてつもない献身とエネルギーが注ぎ込まれているのです。
ここで紹介している最初の全集録音だけで以下の9か所の教会が使われているのです。


  1. デンマーク セナボー:救世主教会

  2. デンマーク セナボー:聖マリー教会

  3. デンマーク コペンハーゲン:ホルメン教会

  4. デンマーク ヴァーデ:聖ヤコビ教会

  5. デンマーク オーベンロー:ニコライ教会

  6. デンマーク ミゼルファート:聖ニコライ教会

  7. デンマーク オーフス:聖パウロ教会

  8. スウェーデン ヘルシンボリ:マリア教会

  9. ドイツ シュレースヴィヒ:聖ペトリ大聖堂



その一つ一つの教会や大聖堂においてオルガンは独自の音色を持っています。その独自の音色を持つオルガンに対して一つずつ、バッハと譜面を通して真摯に向きうことによってあの多彩な音色が引き出されているのです。
華やかで豊かな色彩を描き出すためにはとてつもない献身とエネルギーがもとめられるのです。

重くて深いだけがバッハではないのです。

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