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クーセヴィツキー(Serge Koussevitzky)|シベリウス:タピオラ, Op. 112(Sibelius:Tapiola, Op. 112)
シベリウス:タピオラ, Op. 112(Sibelius:Tapiola, Op. 112)
セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 ボストン交響楽団 1939年11月6日~7日録音(Serge Koussevitzky:Boston Symphony Orchestra Recorded on November 6-7, 1939)
Sibelius:Tapiola, Op. 112
シベリウスの交響曲第8番・・・???
シベリウスと言えばいつも話題になるのが、最晩年の謎の空白(最後の交響詩「タピオラ」を発表したのが1925年ですから、その空白は30年にも及びます)と、幻の交響曲第8番です。残された手紙などを見ると、シベリウスは7番に続く交響曲を創作し続けていて、一度は完成を見たものの、結局はその出来に満足できなかったためにスケッチも含めて全てのスコアをアイノラの庭で燃やしてしまった事がうかがわれます。
「交響曲第8番は括弧つきでの話だが何度も“完成”した。燃やしたことも1度ある」
しかし、反語的な言い方になりますが、私たちはシベリウスの生前にすでに第8交響曲を持っていたという人もいます。
それは、この最後の交響詩「タピオラ」を第8交響曲に見立ててもいいだろうという主張です。
実は、シベリウスは第7交響曲を最初は「交響詩」として発表する予定でした。実際、初演の時には『交響的幻想曲』として演奏され、出版の時に第7番の交響曲とされました。単一楽章と言う、ある意味では交響曲仲間の「鬼子」のような存在であっても作曲家が最終的に「交響曲」と位置づけたのですから、規模でも、その構成の緻密さにおいても譲ることのないこの交響詩「タピオラ」を第8番の交響曲と見立てたとしてもそれほどのお叱りは出ないだろう・・・と言うわけです。
ちなみに、「タピオラ」とは、森の神「タピオ」の領土という意味です。
ただし、カレワラでは、この森の神は決して姿は表さず、ただ祈りや呼びかけの中にその名が出てくるだけの存在です。
その意味では、この交響詩はそれ以外のカレワラを題材にした作品のような物語性はなく、ただフィンランドの深い森を抽象的、象徴的に描き出した作品だといえます。
冒頭の単純なモチーフが音程を変えて執拗に繰り返される中で、知らず知らず引き込まれていくあの世ともこの世とも思えぬ雰囲気が、実にシベリウスの最後の作品にピッタリです。
これを過去の遺物は言いたくない
シベリウスの音楽は何故かイギリスでは積極的に受け入れられました。そして、アメリカではクーセヴィツキーが1930年代にかなりまとまった数のシベリウス作品の録音を残して孤軍奮闘したという雰囲気です。しかし、この前史があったからこそ、戦後のステレオ録音時第になってバーンスタインやマゼールの交響曲全集へと結びついていったのかもしれません。そう言えばバーンスタインはクーセヴィツキーの弟子でした。
しかし、その先駆者たるクーセヴィツキーの音楽は今の耳からすればいかにも時代がかったものだと思われても仕方がないかもしれません。
シベリウスの音楽はその初期においてチャイコフスキーから大きな影響を受けていたことは間違いありません。しかし、次第にその影響から抜け出して、シベリウスならではの独自の徹底的に彫琢された、そして彼の言葉を借りるならば「内的な動機を結びつける深遠な論理」に貫かれた音楽世界を作りあげていきます。
そして、シベリウスの音楽にそう言うものを求めるならば(それは、当然と言えば当然なのですが)、このクーセヴィツキーのシベリウスはあまりにもチャイコフスキーの影響下にある音楽として鳴り響いています。言葉をかえれば、まるでロシア音楽のように聞こえてしまうのです。
そう言う意味では、これは過去の遺物として忘れ去られても仕方がないのかもしれません。
しかし、クーセヴィツキーは基本的に劇場の人でしたから、聞き手にとって分かりやすく、そして大きな興奮を与えることを本能的に求める人でした。そう考えれば、これほどまでにシベリウスの音楽を大きな構えで華やかに、そして時には深い憂愁を込めて演奏した人はいないかもしれません。
第2番の大きな構えと英雄的な響きは確信に溢れていますし、初演では多くの人に戸惑いを与えた第5番の終結部も実に説得力を持って締めくくっています。そして、第5番に本来は求められていた祝典的な要素にも溢れています。
そして、ともすれば難しいととらえられがちな最後の交響曲である第7番もロマン的な音楽として実に分かりやすく提示してくれています。
さらに、クーセヴィツキーはタピオラやヒョラの娘のような管弦楽作品も30年代に録音してくれています。当然の事ながら、そのアプローチの仕方は交響曲の時と変わるはずはありません。
おそらく、その背景には実演で何度も取り上げてきた自信があったのでしょう。
ヘーゲルは「哲学史は阿保の画廊」ではないと言いました。
演奏の歴史もまた同様であり、今の地点から過去を否定する事は容易です。しかし、過去を阿保の画廊として切り捨てるならば、大切なものを私たちは見落としてしまいます。そう言う意味で、これを過去の遺物とは言いたくないのです。
まあ、何といっても聞いていて面白いことは請け合いなのですから、あまり難しい理屈はこね回さないで楽しみましょう。
録音も30年代のSP盤としてはかなりの優れもので、低声部を基調としたクーセヴィツキー&ボストン響の響きがそれなりに捉えられています。
それから最後に、ここではシベリウスの交響曲の2番、5番、7番を取り上げるつもりなのですが、それ以外にも第3番も録音が残っているようです。何とか入手したいと思っています。
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