クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|エーリッヒ・クライバー(Erich Kleiber)|ウェーバー:交響曲第1番ハ長調 Op.19

ウェーバー:交響曲第1番ハ長調 Op.19

エーリッヒ・クライバー指揮 ケルン放送交響楽団 1956年1月録音



Weber:Symphony No.1 in C major, Op.19 [1.Allegro con fuoco]

Weber:Symphony No.1 in C major, Op.19 [2.Andante]

Weber:Symphony No.1 in C major, Op.19 [3.Scherzo: Presto]

Weber:Symphony No.1 in C major, Op.19 [4.Finale. Presto]


若書き故のチャレンジ精神をくみ取ることが出来る

ウェーバーの交響曲というのは、おそらくは多くの人にとってはピンとこない存在でしょう。正直言って、私にとってもサヴァリッシュがバイエルン放送交響楽団と録音した一枚は記憶にあるのですが、あまりピンと来た記憶はありません。

聞けば分かるように、その交響曲はブラームスのように、ベートーベンの不滅の9曲を受け継ごうなどと言う大それた志を持った作品ではありません。
彼が書いた二つの交響曲は、ともに20歳のウェーバーが指揮者を務めていたヴュルテンベルク公爵家の管弦楽団で演奏する必要に迫られて書いたものでした。残された記録によると第1番の交響曲は1806年の12月14日に書き始めて翌年の1月2日に完成させています。続く第2番に至っては1807年1月22日に作曲を開始して1月28日には完成させているのです。
驚くべき「早書き」と言わざるを得ませんし、何処かモーツァルトっぽい雰囲気がただよいます。

実際、その交響曲はハイドンからベートーベンへとつながっていた交響曲の王道からは外れていて、その雰囲気はあとを継ぐものの無かったモーツァルトの交響曲を連想させるような雰囲気があります。

オーケストラというものはその源流を辿っていけば、コレッリあたりを源流とする弦楽器を中心とした純粋器楽を演奏する組織としてスタートしたものと、オペラの伴奏を務めるためにスタートしたものに行き着きます。純粋器楽の演奏体としては、その後ハイドンからベートーベンへと受け継がれて一つの頂点を極めました。
それに対して、オペラの伴奏を務める演奏体としての性格を持ったオーケストラを前提として交響曲を仕上げたのは間違いなくモーツァルトでした。モーツァルト演奏の難しさは書かれているスコアを忠実に再現するだけでは不十分だというところにあるのですが、それは純粋器楽と言えどもその背景にオペラ的な要素が詰まっているからであって、そのドラマ性のようなものを引き出せなければ聞くものに満足感を与えることが出来ないからでしょう。

そして、思い切った言い方を許していただけるならば、この二つの源流を持ったオーケストラが密やかに融合していく端緒を切り開いたのがウェーバーだったと言ってもいいと思います。それは、具体的に言えばあくまでも弦楽器が主役だったオーケストラ音楽における管楽器の地位を飛躍的に高めていったことです。
そして、その試みはこの若書きの交響曲においてもチャレンジが為されているように聞こえます。

しかしながら、これを書いたウェーバーは自分は交響曲のような形式よりはオペラの方にこそ向いていると自覚したのかもしれません。やはり、彼にとってオーケストラというのは純粋器楽を演奏するものよりはドラマを描き出すものとして扱う方が向いていたのでしょう。
そして、その試みは、例えばメンデルスゾーンの「夏の夜の夢」などにおいて完成されていきます。あの序曲の冒頭部分おける妖精たちが飛びかうシーンや、最後に朝陽にとけていくシーンを聞くとき、二つの源流を持ったオーケストラが融合してロマン派の次時代を担っていく全く新しいスタイルのオーケストラが誕生したことを世に告げたのです。

そして、その基礎を作ったのは疑いもなくウェーバーでしたし、彼が「魔弾の射手」で辿り着いた全く新しい管弦楽法は古典派に続く新しい時代を切り開いたものでした。
そう言う観点で、とりわけこの第1番の交響曲を聴き直せば、若書き故のチャレンジ精神をくみ取ることが出来るのではないでしょうか。


私の魂はドイツとともにある

この作品の演奏については、比較対照できるほどの視聴経験がないのであまり断定的なことはいえないのですが、それでも、エーリッヒ・クライバーがこの作品を録音してくれていたことに感謝せざるを得ません。それも、この時代としては信じがたいほどの優秀なステレオ録音として残ったのですから、「Decca」にも心から感謝したいと思います。(何人かの方からこれってモノラルじゃないの?とご指摘いただきました。はい、その通りで、これをステレオ録音だと思ったのは私の早とちりでした。それでも、この時代のものとしてはかなり良い音質であることは間違いありません)
さらに言えば、なかなかピンとくることのなかったこの作品の魅力をエーリッヒによって初めて教えてもらったような気がしました。

ただし、この録音がベルリンやウィーンのオケではなくて、ケルンのオケを使って行われたことには複雑な思いを禁じ得ません。
エーリッヒはユダヤ系ではないドイツ人としては珍しく、ナチスへの抗議としてドイツを離れた数少ない人物でした。それは、歴史的に見れば大いに賞賛に値する行動だったのですが、戦後のドイツではそう言う「勇気ある行動」をとったドイツ人に対しては陰湿な行動がとられるようになっていきました。
それは音楽の分野だけでなく、文学の分野でも同様で、例えば「反ナチ」の姿勢を鮮明にして連合国側に積極的に協力したトーマス・マンなどは「祖国ドイツを裏切った人物」のような扱いを受けました。

同じように、積極的に連合国側に協力した人物として「リリー・マルレーン」で有名なマレーネ・ディートリヒがいるのですが、1960年に念願の故郷ドイツでの公演を行ったときに「裏切り者」と罵声を浴びせられています。
それは、彼女の心に深い傷を与え、彼女は晩年のコンサートでは最後に必ず「お母さん私を許してくれますか」を歌ったという話を聞きました。

お母さん 私を許してくれますか?
お母さん まだ忘れてはくれないのですか?

お母さん 私を許してくれますか?
私のしたことを

故郷は 私を許してくれますか? 
故郷は まだ忘れてはくれないのですか?

故郷は 私を許してくれますか?
私のしたことを


涙なくしては聞けない歌でした。

エーリッヒはこれほどに酷い仕打ちは受けなかったのですが、それでも、戦後ドイツに復帰して行った演奏会には悪意に満ちた批評があふれかえりました。そんなエーリッヒに対して唯一好意的だったのはフルトヴェングラーだけだったそうです。
そして、彼は基本的にドイツでの演奏活動を縮小し、コンセルトヘボウとの活動が多くなり、ドイツではこのケルンとのオケとの活動がメインとなっていきます。
そんなエーリッヒが、このウェーバーの交響曲をわざわざスタジオ録音としてケルンのオケと取り組んだのは、「それでも私の魂はドイツとともにある」と言うことを無言の内に語っているように聞こえるのは穿ちすぎでしょうか。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



4160 Rating: 4.5/10 (48 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2021-03-12:エラム





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-11-21]

ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)

[2024-11-19]

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)

[2024-11-17]

フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)

[2024-11-15]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-11-13]

ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)

[2024-11-11]

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)

[2024-11-09]

ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2024-11-07]

ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)

[2024-11-04]

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)

[2024-11-01]

ハイドン:弦楽四重奏曲 変ホ長調「冗談」, Op.33, No.2,Hob.3:38(Haydn:String Quartet No.30 in E flat major "Joke", Op.33, No.2, Hob.3:38)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1933年12月11日録音(Pro Arte String Quartet]Recorded on December 11, 1933)