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ベルリオーズ:幻想交響曲


ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1954年11月14・15日録音


ベートーベンのすぐ後にこんな交響曲が生まれたとは驚きです。

ユング君はこの作品が大好きでした。「でした。」などと過去形で書くと今はどうなんだと言われそうですが、もちろん今も大好きです。なかでも、この第2楽章「舞踏会」が大のお気に入りです。

 よく知られているように、創作のきっかけとなったのは、ある有名な女優に対するかなわぬ恋でした。
 相手は、人気絶頂の大女優であり、ベルリオーズは無名の青年音楽家ですから、成就するはずのない恋でした。結果は当然のように失恋で終わり、そしてこの作品が生まれました。

 しかし、凄いのはこの後です。
 時は流れて、立場が逆転します。
 女優は年をとり、昔年の栄光は色あせています。
 反対にベルリオーズは時代を代表する偉大な作曲家となっています。
 ここに至って、漸くにして彼はこの恋を成就させ、結婚をします。

 やはり一流になる人間は違います。ユング君などには想像もできない「しつこさ」です。(^^;

 しかし、この結婚はすぐに破綻を迎えます。理由は簡単です。ベルリオーズは、自分が恋したのは女優その人ではなく、彼女が演じた「主人公」だったことにすぐに気づいてしまったのです。
 恋愛が幻想だとすると、結婚は現実です。そして、現実というものは妥協の積み重ねで成り立つものですが、それは芸術家ベルリオーズには耐えられないことだったでしょう。「芸術」と「妥協」、これほど共存が不可能なものはありません。

 さらに、結婚生活の破綻は精神を疲弊させても、創作の源とはなりがたいもので、この出来事は何の実りももたらしませんでした。
 狂おしい恋愛とその破綻が「幻想交響曲」という実りをもたらしたことと比較すれば、その差はあまりにも大きいと言えます。

 凡人に必要なもは現実ですが、天才に必要なのは幻想なのでしょうか?それとも、現実の中でしか生きられないから凡人であり、幻想の中においても生きていけるから天才ののでしょうか。
 ユング君も、この舞踏会の幻想の中で考え込んでしまいます。

なお、ベルリオーズはこの作品の冒頭と格楽章の頭の部分に長々と自分なりの標題を記しています。参考までに記しておきます。

「感受性に富んだ若い芸術家が、恋の悩みから人生に絶望して服毒自殺を図る。しかし薬の量が足りなかったため死に至らず、重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見る。その中に、恋人は1つの旋律となって現れる…」
第1楽章:夢・情熱

「不安な心理状態にいる若い芸術家は、わけもなく、おぼろな憧れとか苦悩あるいは歓喜の興奮に襲われる。若い芸術家が恋人に逢わない前の不安と憧れである。」

第2楽章:舞踏会

「賑やかな舞踏会のざわめきの中で、若い芸術家はふたたび恋人に巡り会う。」

第3楽章:野の風景

「ある夏の夕べ、若い芸術家は野で交互に牧歌を吹いている2人の羊飼いの笛の音を聞いている。静かな田園風景の中で羊飼いの二重奏を聞いていると、若い芸術家にも心の平和が訪れる。
無限の静寂の中に身を沈めているうちに、再び不安がよぎる。
「もしも、彼女に見捨てれられたら・・・・」
1人のの羊飼いがまた笛を吹く。もう1人は、もはや答えない。
日没。遠雷。孤愁。静寂。」

第4楽章:断頭台への行進

「若い芸術家は夢の中で恋人を殺して死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。その行列に伴う行進曲は、ときに暗くて荒々しいかと思うと、今度は明るく陽気になったりする。激しい発作の後で、行進曲の歩みは陰気さを加え規則的になる。死の恐怖を打ち破る愛の回想ともいうべき”固定観念”が一瞬現れる。」

第5楽章:ワルプルギスの夜の夢

「若い芸術家は魔女の饗宴に参加している幻覚に襲われる。魔女達は様々な恐ろしい化け物を集めて、若い芸術家の埋葬に立ち会っているのだ。奇怪な音、溜め息、ケタケタ笑う声、遠くの呼び声。
”固定観念”の旋律が聞こえてくるが、もはやそれは気品とつつしみを失い、グロテスクな悪魔の旋律に歪められている。地獄の饗宴は最高潮になる。”怒りの日”が鳴り響く。魔女たちの輪舞。そして両者が一緒に奏される・・・・」

節度を持った古典的な演奏


ミュンシュといえばベルリオーズのスペシャリストです。とりわけ、この幻想交響曲は彼にとっては18番中の18番ですから、数多くの録音が残されています。
その中でも、フランスが国家の威信をかけて結成したパリ管のデビュー録音として取り組まれた67年のスタジオ録音は今もってこの作品の決定盤的な位置を占めています。一時は、古楽器によるチンドン屋のような演奏がもてはやされたこともありましたが、ようやくにしてそう言う馬鹿騒ぎも沈静化してきて慶賀の至りです。

ミュンシュという人は、ずいぶん困った人だったようで、練習と本番では全く違うことをするので有名でした。それと、あのとんでもなく長い指揮棒は彼のトレードマークであり、気分が高揚してくるとその指揮棒を風車のように振り回してオケをパニックに陥れることが日常茶飯事だったそうです。
ところが、スタジオ録音だとそう言うこともおきようはずもなく、いたって行儀のよい演奏になってしまいます。67年の録音が何故に高く評価されるのかというと、パリ管のデビューを飾る録音という歴史的意義の大きさ故か、スタジオ録音であるのにまるでライブのような熱気をはらんでいるからです。これは同時期に録音されたブラームスの1番にもいえます。
それと比べると、このボストン時代のスタジオ録音はきわめて行儀のよい演奏になっています。これは62年に再録音した演奏でも同じことがいえます。そのために、あまり省みられることのなかった録音なのですが、馬鹿騒ぎだけが幻想交響曲じゃない!というスタンスをとるならば、これはこれで古典的な節度を持った演奏として十分に評価できるものは持っているといえます。
ただし、同じように馬鹿騒ぎとは無縁な演奏ではあっても、ムラヴィンスキーやクレンペラーのような凄みがないのは致し方ありません。

<録音に関する追記>

掲示板の方で、この録音はステレオ録音ではなかったのかとご指摘をいただきました。
ユング君はすっかり思いこみでモノラル録音だと決めつけていたのですが、よく調べてみると54年の録音なのですがまがう事なきステレオ録音であることが分かりました。
少し事情が入り込んでいるので詳しく書いておきます。

この録音はRCAのLIVING STEREOシリーズの中で作成されました。当時のRCAはレコード産業の将来はステレオ録音にあるとにらんで、50年代前半のこのシリーズの最初から録音はステレオで行っていました。しかし、LPレコードそのものをステレオでカッティングして再生する技術はありませんでしたので、この録音が55年に初めてリリースされたときはモノラルの形で発売されました。
その後、ウエスタン・エレクトリック社によりステレオLPレコードの技術が開発されると、RCAは58年から一気にステレオ録音のLPのリリースを始めます。最初はモノラルでリリースされたこの録音も、LPレコードのステレオ化によって、本来のステレオ録音の形で再発されたものと思われます。
ところが、このようなモノラルからステレオへの動きに乗り遅れたいくつかのレーベルは、この時期にモノラル時代の優秀録音を電気的にいじって「疑似ステレオ」という形でリリースする動きが出ました。たとえば、53年録音のフルトヴェングラーのエロイカなどは長くこの疑似ステレオ盤でリリースされ続けました。
これは実に困ったことで、モノラルの録音を疑似ステレオにすると、モノラル本来の良さがスポイルされるだけでなく、ステレオ録音として聴いてみても情けないほどの音質にしかならないという代物でした。モノラルはモノラルで聴くべきだという当たり前の状態に戻るのにその後長い時間がかかりました。

ということで、今回の件なのですが、最初はモノラルでリリースされながら、その後ステレオで再発されたと言うことで、すっかりこれも「疑似ステレオ」の一つだと勘違いしてしまったわけです。そして、疑似ステレオならば、本来のモノラルの形でアップするのが筋だろうと判断してしまったわけです。
しかし、実際は「疑似ステレオ」などではなくまがう事なき真正のステレオ録音だったのです。
最初聴いたときは、疑似ステレオにしては音の分離も広がりもすごいなと思ったのですが(^^;、人間思いこみというのは怖いものです。

ということで、3月29日の午後4時過ぎに本来のステレオ録音の形で再度アップしました。
それまでにファイルを落とされた方はもう一度落とし直してみてください。

ついにこれほどの音質を持った録音もパブリックドメインとなったのかと、感慨ひとしおです。


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