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ルービンシュタイン(Arthur Rubinstein)|ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18)
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18)
(P)アルトゥール・ルービンシュタイン:1963年6月25日録音(Arthur Rubinstein:Recorded on June 25, 1963)
Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18
ショパンの手によって芸術として昇華した
いわゆるウィーン風のワルツからはほど遠い作品群です。
ショパンがはじめてウィーンを訪れたときはJ.シュトラウスのワルツが全盛期の頃でしたが、その音楽を理解できないと彼は述べています。
いわゆる踊るための実用音楽としてのワルツではなく、シューマンが語ったようにそれはまさに「肉体と心が躍り上がる円舞曲」、それがショパンのワルツでした。また、全体を通して深い叙情性をたたえた作品が多いのも特徴です。
ショパンの手によってはじめてワルツと言う形式は芸術として昇華したと言えます。
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18(第1番)
この作品はショパンにとっては一番最初に出版されたワルツです。そして、ショパンのワルツの中でももっとも有名な作品だと言えるでしょう。実際、「華麗なる大円舞曲」の名にふさわしく、ショパンのワルツ曲の中でももっとも華麗で爽快な音楽であることは事実です。
全曲は低声部のワルツ・リズムの上に華麗なる旋律が歌われていきます。しかし、よく聞いてみると、彼の後年のワルツと較べれば非常にシンプルで、リズムにおいても旋律においてもあまり手の込んだことはしていません。
言葉をかれば、ワルツという「舞踏曲」のスタイルからそれほど大きく逸脱はしていないということです。
シューマンはこの作品について肉体と心が躍り上がるワルツだといいながら、それは同時に舞踏者をその波の中に深く巻き込んでいくと述べています。何とも、分かりにくい表現なのですが、つまりは、心踊らせる部分はあるものの未だ踊りのための実用音楽の枠からは抜け出しきっていないということでしょうか。
ショパンはやがてここから、実用音楽としてのワルツから次第に離れていって、時にはマズルカ的なリズムをまじえてスラブ的な民族的詩情を漂わせたり、声楽から学んだベルカント的なピアニズムなども取り入れていくようになるのです。
ルービンシュタインの「大きさ」
ルービンシュタインはショパンのピアノ曲をまとまった形で3回録音しています。言うまでもなく、SP盤の時代、モノラル録音の時代、そしてステレオ録音の時代です。そして、市場に広く出回っているのがステレオ録音の時代で、その録音を持ってルービンシュタインというピアニストの評価がなされています。
しかしながら、20代の頃から90歳を迎える直前まで現役のピアニストとして活躍した「巨人」の姿を、そのような限られた一時期だけで代表させることは大きな過ちを引き起こします。そして、老婆心ながらつけ加えれば、ルービンシュタインというピアニストはそのようなあやまりを引き起こしやすい人だと言うことです。
極めて大雑把に眺めてみれば、彼のピアニスト人生はホロヴィッツとの関わりで三分割出来そうです。
「ホロヴィッツと出会う以前」「ホロヴィッツと格闘した時代」そして「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」です。
ただし、くせ者なのは、それが単純に「SP盤」「モノラル録音」「ステレオ録音」の時代に重なっていない点です。
具体的な年代で言えば、おおむねこうなるでしょうか。
- 「ホロヴィッツと出会う以前」・・・~1937年頃(もちろん、彼がホロヴィッツと出会ったのはこれよりも前ですが、ピアノに向かう姿勢としてホロヴィッツの存在が未だに影響を与えていないと言う意味で、出会う前と表現しました。)
- 「ホロヴィッツと格闘した時代」・・・1938年頃から1960年頃まで(38年、39年に録音されたマズルカ集あたりが分岐点)
- 「ホロヴィッツにとらわれなくなった晩年」・・・1961年頃~(61年に録音されたショパンの第1番協奏曲あたりが分岐点)
ただし、この時代区分は、どこかのエライ評論家先生によって確定されたものではなく、あくまでも私の独断によるものですから、あちこちで言いふらすと「恥」をかく恐れがありますのでご注意のほどを。
この区分に従いますと、スケルツォに関して言えば、モノラル録音もステレオ録音も同じ時代に区分されます。ルービンシュタインのステレオ録音によるショパンは、その大部分が60年代以降に録音されているなかで、このスケルツォとバラードだけが1959年に録音されています。そのためか、両者の演奏のスタイルというか風情というか、そういうものはあまり変わりません。
そして、こういう単純な図式化はディテールを塗りつぶすのでよろしくないとも思うのですが、この2つの録音だけが、ステレオ録音のなかでは、その強靱さと逞しさで異彩をはなっているのですが、今回の集中的な聞き込みで自分なりに納得できました。
そして、そうなると、スケルツォに関しては無理をして古いモノラル録音を聞く必要はないと言うことになります。そして、これも図式化の誹りを免れないかもしれませんが、ワルツ集に関して言えば、63年のステレオ録音よりも53年のモノラル録音の方が好ましく思えます。53年録音が極めて優秀なモノラル録音であることも、そう言う判断を後押ししてくれます。
もちろん、その事を最終的に判断するのはそれぞれの聞き手ですから、その判断材料としてステレオ録音を紹介することは意味なきことではないでしょう。
もうホロヴィッツと張り合うのはいいとばかりに肩の力の抜けたステレオ録音期の録音に対して好意的にとらえる人もいるでしょうし、そこに技術的な衰えを嗅ぎ取って「ルービンシュタインなんて大したことのないピアニストだ」と視野の外に置いてしまう人もいるでしょう。
そして、最初にもふれたのですが、世間的にはステレオ録音期のルービンシュタインを持ってピアニストとしてのルービンシュタイン全体を評価化してしまって、どちらかと言えば否定的な捉え方をする人は少なくないのです。
ただし、LPレコードの時代には、彼のモノラル録音やSP盤時代の録音なんてほとんど目にしませんでしたし、レコード会社の提灯持ちのような評論家は新しい録音がでれば昔の録音のことなどはそっちのけで誉め倒していましたから、聞く耳のある人はそう言う評価に否定的な意見を持ったのは当然だとも言えます。
まあ、レコ芸の推薦盤などと言うものに大きな意味のあった時代を知るものにとっては懐かしい話です。
しかし、ルービンシュタインという人は、そう言う狭い範囲であれこれ言えるほど小さい存在ではありません。やはり20代から90代まで現役でステージに立ち続けた芸人魂は半端ではありません。
それ故に、3回重なっても彼の録音を全て紹介する必要があるでしょう。そして、その全体像を見渡すことによって、ルービンシュタインというピアニストの「大きさ」に気づかれる切っ掛けになればと長っています。
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よせられたコメント
2023-05-09:yk
- ルービンシュタインほど”評価”という行為が難しい・・・と言うか空しい・・・と言うか無意味なピアニストはいないように思います。それは、彼が活動した時期が極めて長かったからとも言えますが、その間に何か新しい風潮・傾向・スタイルを打ち立てた・・・と言う訳でも無く、芸術と言うよりも商業化されたクラシック・ピアノの時代に乗った(・・・とも流された?)だけとも見える(聴こえる)ものでした。
私にとって、そういった評価の難しいルービンシュタインの数多くの演奏の中でも、このワルツのステレオ録音ほどピアニストとしてのルービンシュタインの”評価”の通奏低音として何時も立ち戻り聞き入る演奏(録音)はありません。
この初出のLPジャケットからしてルービンシュタインと言うピアニストを象徴しています。いかにも19世紀の少々安っぽくさえあるプチブル・サロン風の背景に葉巻をもって、にやけた様な曖昧な微笑みを浮かべるルービンシュタイン・・・何やらヨーロッパを舞台とする60年代ハリウッド映画の一場面の様な独特の時代錯誤感を恥ずかしげも無く晒して平然と微笑むルービンシュタイン。
このLPは確か"DYNAGROOVE"と呼ばれた米国起源のRCAの新録音・LP技術の最初期の適用例でもあった点でも印象的でした・・・ショパン、サロン、大家・巨匠、ブルジョワ、大衆芸術、時代錯誤、余裕、etc. etc.・・・ソレに”アメリカの新技術”。年代的に言えば、ルービンシュタインのヴィルトォーゾ的な技術に衰えが見え始めた時期でもあり、本来なら、虚栄・虚飾、退廃、空虚、錯覚、衰退・・・と言ったものの混乱の闇鍋・・・となっても可笑しくない代物ですが、その底の底に沈潜して動じない何か得体の良く判らない確固とした”存在感”がルービンシュタインにはあって、ソウ言ったこのピアニスト独特の存在感を私はこのワルツ集に何時も感じ続けてきました・・・私にとって将にルービンシュタインだけがなし得た時代を超えた演奏です。
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