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クーセヴィツキー(Serge Koussevitzky)|ラフマニノフ:ヴォカリーズ, Op.34 No.14 (管弦楽版)(Rachmaninoff:Vocalise, Op.34 No.14)
ラフマニノフ:ヴォカリーズ, Op.34 No.14 (管弦楽版)(Rachmaninoff:Vocalise, Op.34 No.14)
セルゲイ・クーセヴィツキー指揮 ボストン交響楽団 1945年4月24日録音(Serge Koussevitzky:Boston Symphony Orchestra Recorded on April 24, 1945)
Rachmaninoff:Vocalise, Op.34 No.14
紡ぎ出し書法
ヴォカリーズと言えば、歌詞を伴わずに母音のみによって歌う歌唱法の事をいいます。しかし、一般的に「ヴォカリーズ」と聞いて思い浮かべるのはその様な普通名詞としてではなくてラフマニノフの「ヴォカリーズ」という固有名詞の方でしょう。
それほどに、固有名詞が普通名詞を凌駕するほどにラフマニノフの「ヴォカリーズ」は知れ渡っています。
「ヴォカリーズ」は、それに先行して「13の歌曲集」作品34が存在します。その歌曲集は1913年に出版されたのですが、さらに新しい1曲として追加されたのが「ヴォカリーズ」です。ですから、ラフマニノフの作品34は「14の歌曲集」となっています。
ですから、最初は先行する「13の歌曲集」と同じくピアノ伴奏だったのですが、その後管弦楽など多様な形に編曲されてより多くの人に知られるようになっていきました。
聞いてみれば分かるように、この作品はロシア音楽ならではスラブの憂愁が色濃くにじみ出させています。
しかし、そのスラブ的な憂愁は一定の旋律に続いてあたかも糸がそこから紡ぎ出されるように細かい旋律が現れてきて、最終的には息の長い旋律を導き出すという技巧が駆使されています。
これはバロック時代によく使われた「紡ぎ出し書法」とよばれるものだそうです。
そう言われて聞いてみれば、なるほど延々と息の長い旋律が続いているだけという単純な音楽でないことに気づかされます。そして、その紡ぎ出す最初の旋律はグレゴリオ聖歌の「怒りの日」の歌い出し部分が使われているらしいです。
そして、20世紀的な変化球は一切用いずに、全体的には古典的な佇まいを保ちながら民族的な情緒をたっぷりと聞き手に味合わせるとは、さすがはラフマニノフです。
甘さに引きずられることなく
私はこのラフマニノフの「ヴォカリーズ」という作品はどうにも好きになれませんでした。
しかし、その好きになれない理由が「作品」そのものにあるのではなくて「演奏」の側にあることをこの録音は教えてくれました。
なぜ好きになれなかったのかと言えば、延々と歌い継がれる旋律ラインが美しいことは美しいのですが、どこかメリハリがなくてしばらく聞いていると飽きてくるのです。
さらに言えば、その美しさに身をゆだねすぎて、音楽全体がどこかグダグダになっていくような雰囲気もつきまとうのです。
しかし、、そう言う不満が「作品」にではなくて「演奏」にあることをこの録音ははっきりと教えてくれるのです。
おかしなたとえですが(^^;、どんなに美味しいうどんの麺でも、それをグダグダになるまで煮込んでしまえばまずくなるのは理の当然です。
そして、まずくなる責任がうどんの麺にではなくて、そこまで煮込んでしまった料理人の方にある事は明らかなのです。
つまりは、ほとんどの指揮者がこの作品を煮込みすぎているのです。
おそらく、十分すぎるほど甘い音楽というのは、クーセヴィツキーのように本質的に素っ気なさを内包したような指揮者の方が相性がいいのでしょう。
甘さに引きずられることなく、気合いを入れて(あちこちからクーセヴィツキーのうなり声が聞こえてきます)キッチリと造形してるが故に、逆にこの作品が持っている本当の「甘さ」が浮き彫りになっているのです。
古い録音ですが聞く価値は十分にあります。
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