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マーラー:交響曲「大地の歌」 イ短調

カール・シューリヒト指揮:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 (Ms)ケルステン・トルボルイ (T)カール=マルティン・エーマン 1939年10月5日録音



Mahler:Das Lied von der Erde [1.Das Trinklied vom Jammer der Erde]

Mahler:Das Lied von der Erde [2.Der Einsame im Herbst]

Mahler:Das Lied von der Erde [3.Von der Jugend]

Mahler:Das Lied von der Erde [4.Von der Schonheit]

Mahler:Das Lied von der Erde [5.Der Trunkene im Fruhling]

Mahler:Das Lied von der Erde [6.Der Abschied]

Deutcheland uber alles, Herr Schuricht !


生は暗く、死も亦暗し!

この作品にまつわる「9番のジンクス」に関してはいろんな方が語っていますし、私も別のところでふれていますからあえてここでは取り上げません。
それよりも、始めてこの作品を聴いた方は「これは果たして交響曲なのだろうか?」という疑問をもたれると思います。どう聴いたってこれはオーケストラ伴奏付きの歌曲集のように聞こえる方もおられると思いますし、それは決して誤りではないと思います。

交響曲の起源はおそらくバッハの息子たちにまで遡ることができるのでしょうが、とりあえずはハイドンが橋頭堡を築き、モーツァルトが育て上げ、最終的にベートーベンが完成させた管弦楽の形式だと言っていいと思います。(ハイドンが橋頭堡を築いてから荒野を切り開き、最終的にベートーベンが完成させた管弦楽の形式だと言っていいと思います。おそらく、モーツァルトの交響曲はその系譜から少し離れたところに花開いた世界で、それを引き継げる者はいなかったと見る方が正しいのではないかと最近になって思うようになってきました。)
そして、それ以降の音楽家たちは縦への掘り下げが行き着くところまで行ってしまったためでしょうか、今度は横への広がりを模索していきます。

声楽の導入は言うまでもなく、ソナタ形式に変わる新たな方法論が模索されたり、響きの充実を求めて管弦楽がどんどん肥大化していったりします。マーラーの前作である第8番においてはその肥大化は頂点に達しますし、方法論においてもこの大地の歌によって行き着くところまで行ったと言えます。

つまり、交響曲という形式が多様化と肥大化の果てに明確なフレームを失ってしまって、作曲家が「これは交響曲だ」と言えば、何でも交響曲になってしまうような時代に突入したと言えます。しかし、それは交響曲という形式の終焉を意味しました。
もちろん、マーラー以降も数多くの交響曲は創作されましたが、しかしそれらはハイドン、ベートーベンと受け継がれてきたクラシック音楽の玉座をしめる音楽形式としての交響曲ではなく、どこか傍流の匂いを漂わせます。私は、クラシック音楽の玉座としての交響曲はマーラーのこの作品と続く第9番によって終焉したと思うのですが、いかがなものでしょうか。

なお、大地の歌の楽章構成は以下の通りです。奇数楽章はテノール、偶数楽章はアルトが歌うようになっています。


一つの時代の相をものの見事に切り取ったような瞬間が刻みこまれている

こういう録音こそ、歴史的録音という言葉がもっとも相応しいのかもしれません。それは、まさに「歴史的」という言葉の通り、一つの時代の相をものの見事に切り取ったような瞬間が刻みこまれているからです。
事件は最後の第6楽章「告別」で起こります。

既に第2次世界大戦が勃発した1939年10月に、ナチスドイツの隣国であるオランダでマーラーの作品を演奏するというのは明らかに政治的な意味合いをもたざるを得ません。それも、当初はメンゲルベルクが指揮する予定だったのに急遽キャンセルとなり、変わりにドイツ人であるシューリヒトが代役をつとめたのです。
メンゲルベルクのキャンセルはナチスとの間でいざこざが起こることを嫌って「逃げた」のかと思ったのですが、彼は11月にマーラーの4番を指揮していますから、それはないようです。

ちなみに、フルトヴェングラーはナチスがユダヤ人作曲家の作品を演奏禁止にした後はマーラーも含めて一切演奏をしていませんから、シューリヒトの勇気は讃えられていいでしょう。そして、そう言う緊張感の中で行われた演奏会だったこともあり、それほど良好とは言えない録音の向こうからこの上もなく思い詰めたような音楽が聞こえてきます。
その締め付けられるような緊張感は最終楽章の「告別」において会場全体を覆い、そしてオーケストラが極限まで静まりかえったときに、一人の女性の声がこの上もない冷たさと非情さでその音楽を貫き通します。

Deutcheland uber alles, Herr Schuricht !




ドイツ語の分からない私でも、そしてその言葉が何を意味しているのかが分からなくても、それがナチスシンパによる嫌がらせであり警告であることは容易に感じ取れます。
それほどまでにその声には冷酷なるファナティックが宿っています。そして、その声を後押しするように何人かの口笛が響きます。

ところがこの声と口笛を「ドイツでは演奏禁止となったマーラーをオランダで指揮するドイツ人指揮者シューリヒトに対するエール」だと解釈する人もいるそうなのですが、私にはとてもついて行けない感性です。
確かに、言葉面としては「世界に冠たるドイツ帝国ですよ、シューリヒトさん」ですから、それだけ見ればいかようにも解釈は可能ですが、この音楽の中で発せられるその言葉を実際に聞けば、到底あり得ない解釈です。

ナチスの本質は暴力です。
彼らは自分たちにとって不都合なことを主張をするものを決して許さず、それを黙らせるためのもっとも手早くて効果的な方法として「暴力」を用いました。
ですから、そう言うナチスの振る舞いと前科は多くの人に知れ渡っていましたから、このようなことを続けていればナチスによる「暴力」の対象となることを警告したものだったことは容易に理解できたはずです。

そして、この「警告」の後に歌い出すのがユダヤ人であるワルターお気に入りの、ユダヤ人歌手「ケルステン・トルボルイ」だったのですから、その言葉を「勇気を讃えるエール」だと誤解するような余地はないのです。

それにしても、この女性の声は驚くほど明瞭に刻み込まれていますから(演奏時間で言うと53分40秒をこえたあたり)、おそらくは立ち上がって声を発したものだと思われます。
その視線の先にいたのはおそらくトルボルイだったのかもしれません。

ですから、讃えられるべきは、その様な状況になっても彼らは最後まで緊張感を維持して素晴らしい演奏を成し遂げたことです。
そしてその一瞬に、人のこの上もない愚かさと偉大さが交錯したのですが、何が「愚か」であり何が「偉大」であったのかを証明するために支払われた犠牲はあまりにも大きすぎました。
そして、時が経れば、再びその「愚か」さは「正義」の衣をかぶって再び挑戦を挑むのです。

そして、今日も世界中の至るところで「○○は偉大なり!」と己の信じる愚かさの神に祈りを捧げるのです。

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