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リムスキー=コルサコフ:「金鶏」組曲

ウィリアム・スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1957年10月21日録音



Rimsky-Korsakov:The Golden Cockerel, suite [1.sar Dodon in His Palace]

Rimsky-Korsakov:The Golden Cockerel, suite [.Tsar Dodon on the Battlefield]

Rimsky-Korsakov:The Golden Cockerel, suite [3.Tsar Dodon as the Guest of the Queen of Shemakha]

Rimsky-Korsakov:The Golden Cockerel, suite [4.The Wedding and Lamentable End of Dodon]


ツァーリズムへの皮肉溢れる風刺

「金鶏」はリムスキー=コルサコフが書いた最後のオペラ作品です。原作はプーシキンのおとぎ話からとられていて、愚鈍なドドン王が、危機が迫るとそれを知らせるという金鶏を献上した占い師に翻弄されて、国を滅ぼしてしまう話です。
そして、現在からこの作品を見ればあまりピンとこないのですが、同時代の人にとっては血の日曜日事件(1905年1月9日)と、それを切っ掛けにした全国規模の反政府運動によって日露戦争に敗れたという事実を容易に想起させるストーリーです。ですから、そこには時代遅れのツァーリズム(ロシア帝国の絶対君主制体制)への痛烈な社会風刺であることは容易に察することが出来たのです。

そのために、このオペラは検閲当局から台本の書き直しを求められます。しかし、リムスキー=コルサコフはそれを拒否したために、結局この作品は彼の存命中に演奏されることはありませんでした。

それにしても、このオペラに登場するドドン王は優柔不断と愚鈍の典型のような人物であり、金鶏の言葉に右往左往し、「寝ころんで治めろ」と言われれば全てを放り投げては眠り込んで見たかと思うと、次は「気をつけろ」と言われると気乗りのしないグヴィドンとアフロンの両王子に出陣を命じます。ところが、再び「寝ころんで治めろ」と言われると再び眠り込んで見知らぬ美女の夢を見てしまったりするのです。

そして、再び金鶏が「気をつけろ」と叫ぶとドドン王は出陣するのですが、戦場に着いたときには先に派遣した軍隊は壊滅していて、両王子もまた互いに差し違えて命を落としていました。
驚いたドドン王は敵を探して大砲を撃ち込もうとするのですが、そこにシェマハの女王が4人の女奴隷を従えて登場します。
すると、その美しさにすっかり魅了されたドドン王はシェマハの女王の前に跪いて、「国も自分もお前のもの、都で一緒に暮らそう」と申し出てしまうのです。

そして、王の都に着くと、星占い師が褒美としてその女王を求めるのですが、ドドン王は星占い師の頭を打ちすえて殺してしまいます。すると、雷がとどろき、シェマハの女王が笑い始め、女王は、ドドン王を化け物と嘲り、お前もお前の馬鹿な国民も消えてしまえと叫びます。そして、金鶏が突然耳をつんざくような鳴き声で「爺の頭を突っつくぞ!」と叫びとドドン王の頭を突いて殺してしまうのです。
やがて辺りが暗闇に包まれるとシェマハの女王は笑い声とともに消え、金鶏もいなくなり、最後は民衆だけが取り残されてしまいます。

そして、幕が下りると星占い師が現れて、「お話はお終い。悲惨な結末を畏れなくてもいい。何故なら実在したのは私と女王だけ。残りは幻さ。」と告げ、観客に一礼して姿を消すというエピローグが最後に付け加えられます。

これは、どこからどう見ても、「ドドン王の愚鈍=ニコライ2世の愚鈍」と連想せざるをえないストーリーであり、ロシアに長く続いてきた皇帝崇拝の幻想は打ち砕かれはじめたことを示唆する作品だったとも言えます。

なお、リムスキー=コルサコフは、いつものようにオペラを書くとその短縮版とも言うべき「組曲」を書くのが常であり、この「金鶏」の時も以下のような作品を構想します。

  1. 序奏とドドン王の眠り

  2. 戦場のドドン王

  3. ドドン王とシェマハの女王の踊り

  4. 婚礼の祝宴とドドン王の哀れな末路と死-終曲


しかし、リムスキー=コルサコフは出来れば全曲を途切れなく演奏する単一楽章に仕上げるつもりだったようなのですが、その編曲作業に取りかかることなく急逝してしまいます。
そのために、未完成だった部分は5人組の仲間であったグラズノフと娘婿のシテインベルクによって当初の構想を受け継いで補筆、完成されました。


完璧なオーケストラ・バランス

こういう一連のロシア音楽演奏を聞かされると、スタインバーグというのは実に不思議な指揮者だと思わざるを得ません。
おそらく、これほどスラブの重みというか、憂愁というか、そう言うものと縁遠い演奏は他には思い当たりません。もっとも、そう言う中にあってチャイコフスキーの「イタリア奇想曲」のように「直線路などは存在しない」と言わんばかりの曲がりくねった演奏を展開したりするときもあるのですが、それでもその曲線路はスラブの憂愁とは異なります。

それ故にか、スタインバーグは「職人的指揮者」として認識され、手堅く作品をまとめるけれども聞くものの胸に迫ってくるものがないなどとも言われたりします。
しかし、こういうロシアの小品をまとめて聞いてみると、「手堅い」という言葉ではすまされないほどに、オーケストラの響きが完璧にコントロールされていることに気づかされます。

録音がワンポイントからマルチになることによって、オーケストラの各楽器の音量バランスは録音が終わってからのエンジニアの仕事みたいな雰囲気が一般化しました。
考えてみればふざけた話で、その結果として録音と実演とでは随分と雰囲気が変わっていて、そのある意味での「雑さ」みたいなものを「ライブゆえの熱気」みたいな言葉に変換して恥じない指揮者も少なくないのは否定しようのない事実です。

それで思い出すのは、アンセルメとスイス・ロマンド管との演奏です。
アンセルメは非常に耳のいい指揮者で、オーケストラのバランスと言うことに関しては完璧にコントロールする能力を持っていました。ところが、初来日の時の演奏はそう言う録音で聞くことのできる演奏とはかけ離れものだったので、あの素晴らしい響きはDeccaの録音マジックだったと誤解されて一気にその評価を下げてしまいました。

しかしながら、来日公演がアンセルメにとっては亡くなる直前の最悪の状態での演奏であり、衰える前のアンセルメのバランス能力の高さにはDeccaのカルショーは太鼓判を押していました。ですから、そう言う前評判に惑わされることなく、衰えたアンセルメの実演に「駄目出し」をした当時の日本の聴衆の耳は確かだったと言えます。
ボロボロの演奏であるにもかかわらず、演奏家がビッグ・ネームであるがゆえに「ブラボー」を叫んでいる昨今の聴衆よりははるかに聞く耳を持っていたと言うことです。

そして、このスタインバーグもまた、オーケストラをコントロールしてバランスを保持するのは録音エンジニアではなくて指揮者の仕事であると確信していた一人だったのです。ただし、そのバランスが常に明るめの方向を向いているので、良く言えば明るく健康的、悪く言えば「脳天気なアメリカン・サウンド」という事にはなります。

しかし、暗い情念よりはどこか明るく爽やかな雰囲気でロシア音楽が完璧に鳴り響いているというのもまた一興ではないでしょうか。
そして、彼が率いたピッツバーグ響の事をアメリカの二流オーケストラという人もいるのですが、それもまたあまりにも聞く耳がないと言わざるを得ません。
何しろ、これは録音が終わってからエンジニアがいじり回してバランスをとったものではないのですから、その実力は素直に評価されるべきでしょう。

この演奏を評価してください。

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