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バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番ニ長調 BWV1050

カール・シューリヒト指揮:チューリヒ・バロック・アンサンブル 1966年5月録音



Bach:Brandenburg Concerto No.5 in D major, BWV 1050 [1.Allegro]

Bach:Brandenburg Concerto No.5 in D major, BWV 1050 [2.Affettuoso]

Bach:Brandenburg Concerto No.5 in D major, BWV 1050 [3.Allegro]


就職活動?

この第1番だけがいささか盤面の状態が悪くパチパチ・ノイズがかなりのります。まあ、それも味わいのうちとお考えください。(^^;

順調に見えたケーテン宮廷でのバッハでしたが、次第に暗雲が立ちこめてきます。楽団の規模縮小とそれに伴う楽団員のリストラです。

バッハは友人に宛てた書簡の中で、主君であるレオポルド候の新しい妻となったフリーデリカ候妃が「音楽嫌い」のためだと述べていますが、果たしてどうでしょうか?
当時のケーテン宮廷の楽団は小国にしては分不相応な規模であったことは間違いありませんし、小国ゆえに軍備の拡張も迫られていた事を考えると、さすがのレオポルドも自分の趣味に現を抜かしている場合ではなかったと考える方が妥当でしょう。

バッハという人はこういう風の流れを読むには聡い人物ですから、あれこれと次の就職活動に奔走することになります。

今回取り上げたブランデンブルグ協奏曲は、表向きはブランデンブルグ辺境伯からの注文を受けて作曲されたようになっていますが、その様な文脈においてみると、これは明らかに次のステップへの就職活動と捉えられます。
まず何よりも、注文があったのは2年も前のことであり、「何を今さら?」という感じですし、おまけに献呈された6曲は全てケーテン宮廷のために作曲した過去の作品を寄せ集めた事も明らかだからです。
これは、規模の小さな楽団しか持たないブランデンブルグの宮廷では演奏不可能なものばかりであり、逆にケーテン宮廷の事情にあわせたとしか思えないような変則的な楽器編成を持つ作品(第6番)も含まれているからです。

ただし、そういう事情であるからこそ、選りすぐりの作品を6曲選んでワンセットで献呈したということも事実です。


  1. 第1番:大規模な楽器編成で堂々たる楽想と論理的な構成が魅力的です。

  2. 第2番:惑星探査機ボイジャーに人類を代表する音楽としてこの第1楽章が選ばれました。1番とは対照的に独奏楽器が合奏楽器をバックにノビノビと華やかに演奏します。

  3. 第3番:ヴァイオリンとヴィオラ、チェロという弦楽器だけで演奏されますが、それぞれが楽器群を構成してお互いの掛け合いによって音楽が展開させていくという実にユニークな作品。

  4. 第4番:独奏楽器はヴァイオリンとリコーダーで、主役はもちろんヴァイオリン。ですから、ヴァイオリン協奏曲のよう雰囲気を持っている、明るくて華やかな作品です。

  5. 第5番:チェンバロが独奏楽器として活躍するという、当時としては驚天動地の作品。明るく華やかな第1楽章、どこか物悲しい第2楽章、そして美しいメロディが心に残る3楽章と、魅力満載の作品です。

  6. 第6番:ヴァイオリンを欠いた弦楽合奏という実に変則な楽器編成ですが、低音楽器だけで演奏される渋くて、どこかふくよかさがただよう作品です。




どうです。
どれ一つとして同じ音楽はありません。
ヴィヴァルディは山ほど協奏曲を書き、バッハにも多大な影響を及ぼしましたが、彼にはこのような多様性はありません。
まさに、己の持てる技術の粋を結集した曲集であり、就職活動にはこれほど相応しい物はありません。

しかし、現実は厳しく残念ながら辺境伯からはバッハが期待したような反応はかえってきませんでした。バッハにとってはガッカリだったでしょうが、おかげで私たちはこのような素晴らしい作品が散逸することなく享受できるわけです。

その後もバッハは就職活動に力を注ぎ、1723年にはライプツィヒの音楽監督してケーテンを去ることになります。そして、バッハはそのライプツィヒにおいて膨大な教会カンタータや受難曲を生み出して、創作活動の頂点を迎えることになるのです。


深い祈りを感じさせる演奏

このシューリヒトのブランデンブルグ協奏曲の全曲録音は随分昔に聞いて感心させられたことがあります。
しかし、こういうサイトをやっているとその録音がパブリック・ドメインかどうかと言うのも大きなポイントになってしまうと言う悪癖が身についてしまっていて、その時は初出年がどうしても確認できなかったのでそのまま忘れてしまっていました。音楽の聴き方としては邪道としか言いようがないですね。

しかし、最近になってこの録音は「Concert Hall Society(このレーベルの初出年は確認が難しい!!)」から1967年に発行されていることが確認されたので、久しぶりに聞き直してみて、やはりこれはただ者ではない演奏だと感心させられました。
ブランデンブルク協奏曲は今までにも随分とたくさんの録音をとり阿あげてきています。ざっと思い浮かぶだけでもパブロ・カザルス、カール・リヒター、カール・ミュンヒンガー、シャルル・ミュンシュ、カラヤン等々です。流石にもう十分だろう、これ以上付け加えられてもあまり聞く気が起きないという人いることでしょう。

しかし、このシューリヒトの演奏は散々にこの作品を聞いてきた人であっても、あらためて聞き直してみるだけの価値を持っています。
シューリヒトは晩年はリューマチを患っていて、演奏会では舞台の袖から指揮台まで杖をつきなが実に長い時間をかけて辿り着いたと伝えられています。それでも、指揮台に辿り着けば、それまでの衰えは微塵も感じさせない若々し音楽を聞かせて聴衆を驚かせました。
しかし、流石に病の侵攻には勝てず、1965年のザルツブルク音楽祭でウィーン・フィルを指揮したのが最後の演奏会になってしまいました。

ですから、1966年5月に録音されたこのブランデンブルグ協奏曲は、現役のコンサート指揮者としては引退した後に録音された、ある意味では遺言にも近いような演奏になっています。シューリヒトは67年の1月に亡くなっていますから、そのおよそ半年前の録音です。
この演奏は、ざっと聞いてみれば、シューリヒトらしい淡々とした、ある意味ではこれと言った何事も起こらないような演奏に聞こえます。
しかし、聞き進めていく内に、その音楽の底に深い祈りのようなものが込められていることに嫌でも気づかされます。それは、もしかしたら、音楽家としての人生を全うさせてくれた神への感謝なのかもしれません・

それは、派手なパフォーマンスからでは到底表現され得ない深い世界です。
いや、「深い世界」などと言う言葉は本当は使いたくないのですが、それでもこのシューリヒトの演奏に対してであるならば許されるような気がします。
そして、そう言うシューリヒトの感謝と祈りを現実の音にしたチューリヒ・バロック・アンサンブルにも拍手です。

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2023-01-10:笑枝





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