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Home|シューリヒト(Carl Schuricht)|シューベルト:交響曲第7(8)番 ロ短調, D. 759 「未完成」

シューベルト:交響曲第7(8)番 ロ短調, D. 759 「未完成」

カール・シューリヒト指揮:ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1956年6月3日~6日録音



Schubert:Symphony No.8 in B minor D.759 "Unfinished" [1.Allegro moderato]

Schubert:Symphony No.8 in B minor D.759 "Unfinished" [2.Andante con moto]


シューベルトが書いた音楽の中でも最も素晴らしい叙情性にあふれた音楽

この作品は1822年10月30日に作曲が開始されたと言われています。しかし、それはオーケストラの総譜として書き始めた時期であって、スケッチなどを辿ればシューベルトがこの作品に取り組みはじめたのはさらに遡ることが出来ると思われています。
そして、この作品は長きにわたって「未完成」のままに忘れ去られていたことでも有名なのですが、その事情に関してな一般的には以下のように考えられています。

1822年に書き始めた新しい交響曲は第1楽章と第2楽章、そして第3楽章は20小説まで書いた時点で放置されてしまいます。
シューベルトがその放置した交響曲を思い出したのは、グラーツの「シュタインエルマルク音楽協会」の名誉会員として迎え入れられることが決まり、その返礼としてこの未完の交響曲を完成させて送ることに決めたからです。

そして、シューベルトはこの音楽協会との間を取り持ってくれた友人(アンゼルム・ヒュッテンブレンナー)あてに、取りあえず完成している自筆譜を送付します。しかし、送られた友人は残りの2楽章の自筆譜が届くのを待つ事に決めて、その送られた自筆譜を手元に留め置くことにしたのですが、結果として残りの2楽章は届かなかったので、最初に送られた自筆譜もそのまま忘れ去られてしまうことになった、と言われています。

ただし、この友人が送られた自筆譜をそのまま手元に置いてしまったことに関しては「忘れてしまった」という公式見解以外にも、借金のカタとして留め置いたなど、様々な説が唱えられているようです。
しかし、それ以上に多くの人の興味をかき立ててきたのは、これほど素晴らしい叙情性にあふれた音楽を、どうしてシューベルトは未完成のままに放置したのかという謎です。

有名なのは映画「未完成交響楽」のキャッチコピー、「わが恋の終わらざるがごとく、この曲もまた終わらざるべし」という、シューベルトの失恋に結びつける説です。
もちろんこれは全くの作り話ですが、こんな話を作り上げてみたくなるほどにロマンティックで謎に満ちた作品です。

また、別の説として前半の2楽章があまりにも素晴らしく、さすがのシューベルトも残りの2楽章を書き得なかったと言う説もよく言われてきました。
しかし、シューベルトに匹敵する才能があって、それでそのように主張するなら分かるのですが、凡人がそんなことを勝手に言っていいのだろうかと言う「躊躇い」を感じる説ではあります。

ただし、シューベルトの研究が進んできて、彼の創作の軌跡がはっきりしてくるにつれて、1818年以降になると、彼が未完成のままに放り出す作品が増えてくることが分かってきました。
そう言うシューベルトの創作の流れを踏まえてみれば、これほど素晴らしい2つの楽章であっても、それが未完成のまま放置されるというのは決して珍しい話ではないのです。

そこには、アマチュアの作曲家からプロの作曲家へと、意識においてもスキルにおいても急激に成長をしていく苦悩と気負いがあったと思われます。
そして、この時期に彼が目指していたのは明らかにベートーベンを強く意識した「交響曲への道」であり、それを踏まえればこの2つの楽章はそう言う枠に入りきらないことは明らかだったのです。

ですから、取りあえず書き始めてみたものの、それはこの上もなく歌謡性にあふれた「シューベルト的」な音楽となっていて、それ故に自らが目指す音楽とは乖離していることが明らかとなり、結果として「興味」を失ったんだろうという、それこそ色気も素っ気もない説が意外と真実に近いのではないかと思われます。

この時期の交響曲はシューベルトの主観においては、全て習作の域を出るものではありませんでした。
彼にとっての第1番の交響曲は、現在第8(9)番と呼ばれる「ザ・グレイト」であったことは事実です。

その事を考えると、未完成と呼ばれるこの交響曲は、2楽章まで書いては見たものの、自分自身が考える交響曲のスタイルから言ってあまり上手くいったとは言えず、結果、続きを書いていく興味を失ったんだろうという説にはかなり納得がいきます。

ちなみに、この忘れ去られた2楽章が復活するのは、シューベルトがこの交響曲を書き始めてから43年後の1865年の事でした。ウィーンの指揮者ヨハン・ヘルベックによってこの忘れ去られていた自筆譜が発見され、彼の指揮によって歴史的な初演が行われました。
ただ、本人が興味を失った作品でも、後世の人間にとってはかけがえのない宝物となるあたりがシューベルトの凄さではあります。
一般的には、本人は自信満々の作品であっても、そのほとんどが歴史の藻屑と消えていく過酷な現実と照らし合わせると、いつの時代も神は不公平なものだと再確認させてくれる事実ではあります。


  1. 第1楽章:アレグロ・モデラート
    冒頭8小節の低弦による主題が作品全体を支配してます。この最初の2小節のモティーフがこの楽章の主題に含まれますし、第2楽章の主題でも姿を荒らします。
    ですから、これに続く第2楽章はこの題意楽章の強大化と思うほど雰囲気が似通ってくることになります。また、この交響曲では珍しくトロンボーンが使われているのですが、その事によってここぞという場面での響きに重さが生み出されているのも特徴です。

  2. 第2楽章:アンダンテ・コン・モート
    クラリネットからオーベエへと引き継がれていく第2主題の美しさは見事です。
    とりわけ、クラリネットのソロが始まると絶妙な転調が繰り返すことによって何とも言えない中間色の世界を描き出しながら、それがオーボエに移るとピタリと安定することによって聞き手に大きな安心感を与えるやり方は見事としか言いようがありません。




Deccaでのウィーンフィルとの最後の録音

この「未完成」の録音には有名なエピソードが残されています。それは、この録音を担当したカルショーが酷評を書き残しているのです。
ただし、その酷評の前提としてカルショーは最初に次のようにぼやいています、
ウィーン・フィルと上手く折り合えるようになるまでには、長い時間がかかった。ウィーンの町そのものも、とても好きになれそうになかった。なんというか、許し難い偏狭さを感じたからである。

Deccaにとってウィーンはオロフの根城であり、カルショーの活動の拠点はロンドンでした。そんなウィーンでオロフの後始末として任されたのがこの「未完成」を筆頭とした一連の録音だったのです。

彼はその鬱憤を晴らすかのように言葉を続けています。
彼はシューリヒトとはパリで仕事をしたことがあるが、ウィーンではもう老衰していたとぼやき、「未完成交響曲の第1楽章を、全てテンポの異なる11の解釈で演奏した」と述べているのです。
オーケストラがウンザリしたのは当然のことで、理事会は私に文句を言うだけでなく、チューリッヒとロンドンに電報を打って、指揮者を十分に管理できない私が悪いのだと訴えた。

まさにボロクソであり、それに続いて退屈なアリアの録音と、サロメの最終場面を指揮者としては最悪の選択であるクリップスの指揮で録音することを押しつけられたとサラにぼやいているのです。

しかし、残されたこの録音を聞いてみると、シューリヒトらしいスッキリとした見通しの良い、実に気持ちのいい演奏になっているように思われます。確かに重量感には乏しく淡泊にすぎるという見方も出来ますが、オーケストラの統率に不安定さは感じさせません。もっとも、あまりにも軽くてあっさりしすぎているという感じもするでしょうが、そう言う淡泊さの奥にシューリヒトらしいおさえた熱情も十分に感じ取れます。
しかし、カルショーはなんの根拠もなく悪口を言う人でもないので、カルショーにしてみればやっとの思いでそこまで仕上げたという思いはあったのでしょう。

しかし、カルショーのこの記述の中で少し不公平だと思うのは、もう一つ並行してモーツァルトのハフナーを録音していることにはふれていないことです。
このハフナーの録音は文句なく素晴らしい演奏であり、シューリヒトの面目躍如たるものがあります。シューリヒトはこの年の1月にモーツァルトの生誕200年記念演奏会コンサートでハフナーを演奏していますし、12月にも国連会議場での「人権デー」の記念コンサートでハフナーを演奏しています。オケはともにウィーン・フィルです。
それらは、どちらもセッション録音とは異なる実に熱い演奏で、このシューリヒトという指揮者の一筋縄ではいかない複雑さを感じとらせてくれます。

「ウィーンではもう老衰していた」というカルショーの言葉は、あれやこれやの鬱憤がたまった末の言い過ぎだったのかもしれません。
ただし、その後何があったのかが分かりませんが、シューリヒトがDeccaでウィーンフィルと録音を行ったのはこの時が最後となりました。
やはり、何らかの悶着があったのかもしれません。

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