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シューマン:ピアノ協奏曲 Op.54

(P)フリードリヒ・ヴューラー:ヘルマン・アーベントロート指揮 ベルリン放送交響楽団 1956年3月13日録音



Schumann:Piano Conserto in A minor Op.54 [1.Allegro affetuoso]

Schumann:Piano Conserto in A minor Op.54 [2.Intermezzo]

Schumann:Piano Conserto in A minor Op.54 [3.Allegro vivace]


私はヴィルトゥオーソのための協奏曲は書けない。

 クララに書き送った手紙の中にこのような一節があるそうです。そして「何か別のものを変えなければならない・・・」と続くそうです。そういう試行錯誤の中で書かれたのが「ピアノと管弦楽のための幻想曲」でした。

 そして、その幻想曲をもとに、さらに新しく二つの楽章が追加されて完成されたのがこの「ピアノ協奏曲 イ短調」です。

 協奏曲というのは一貫してソリストの名人芸を披露するためのものでした。
 そういう浅薄なあり方にモーツァルトやベートーベンも抵抗をしてすばらしい作品を残してくれましたが、そういう大きな流れは変わることはありませんでした。(というか、21世紀の今だって基本的にはあまり変わっていないようにも思えます。)

 そういうわけで、この作品は意図的ともいえるほどに「名人芸」を回避しているように見えます。いわゆる巨匠の名人芸を発揮できるような場面はほとんどなく、カデンツァの部分もシューマンがしっかりと「作曲」してしまっています。
 しかし、どこかで聞いたことがあるのですが、演奏家にとってはこういう作品の方が難しいそうです。
 単なるテクニックではないプラスアルファが求められるからであり(そのプラスアルファとは言うまでもなく、この作品の全編に漂う「幻想性」です。)、それはどれほど指先が回転しても解決できない性質のものだからです。

 また、ショパンのように、協奏曲といっても基本的にはピアノが主導の音楽とは異なって、ここではピアノとオケが緊密に結びついて独特の響きを作り出しています。この新しい響きがそういう幻想性を醸し出す下支えになっていますから、オケとのからみも難しい課題となってきます。
 どちらにしても、テクニック優先で「俺が俺が!」と弾きまくったのではぶち壊しになってしまうことは確かです。



アーベントロートの凄み

このレコードは中古レコードではなくて、私が若い頃に買い込んだレコードの中に眠っていました。
話はそれますが、その頃から現在に至るまで3回引っ越しをしたのですが、よくぞあんなにもかさばるアナログ・レコードを保存し続けたものだと我ながら感心します。
さらにどうでもいい話ですが、若い頃は給料は現金払いだったので、給料日にもらった給料袋はそのまま鞄の中につっこんでいて、何故か次の給料日が近くなるとその給料袋はカラに近くなっていたものです。何しろ、私が新星堂のレコード屋に顔を出すと店長がすぐに顔を出して挨拶をしてくれたものです。
もしも、途中で給料が現金払いから銀行振り込みに変わっていなければ、結婚を決めたときに貯金はゼロに近かったのではないかと思います。とは言え、結婚してからすぐに判明したのは貯金額は妻の方が何倍も多かったと言うことです。
おかげで家計管理は彼女にがになうことになり(当然にして賢明なる判断でした)、それ以後私は鵜飼いの鵜になりましたが、おかげで退職後の今も何とか暮らしていけています。

おそらくはそんな生活をおくっていた頃にこんなレコードも買い込んでいたのでしょう。
アナログ・レコードのデジタル化をこの夏にはじめたことで久しぶりに聞いてみた演奏なのですが、あらためてアーベンロートという指揮者の凄みを認識しました。

気づいてみればヘルマン・アーベントロートの録音は今まで一つも取り上げていなかったことに気づき、漸くにしてチャイコフスキーの「悲愴」だけは紹介しました。しかし、こんなにも目配りが聞いていなかったとは駄目ですね。
さらに、その次に取り上げようとしているのが協奏曲の伴奏というのですから、全く持ってよろしくありません。しかし、協奏曲の伴奏であるにもかかわらず、そこにはアーベントロートの意志が貫徹されているのでの、まあ、お許しください。

チェロ協奏曲のソリストはそれなりのビッグ・ネームであるポール・トルトゥリエなのですが主導権は疑いもなくアーベントロートが握っています。緩急、強弱の付け方はかなりユニークな感じがするのですが、それもまた確固とした信念だったようで、シューマンの作品に内包される情熱を描き出していきます。その強固な枠の中でトルトゥリエも激しい気迫を持って挑んでいます。
アーベントロートは1956年に亡くなっていますからこの録音はその前年と言うことになります。しかし、そこには「衰え」というものはほとんど感じられず、その統率力には驚かされます。そして、そのオケをコントロールする力はソリストにまで及んでいるのです。

ピアノ教曲のソリストはフリードリヒ・ヴューラーなのですが、このピアニストについてはほとんど知ることはありません。調べてみると、若い頃はシェーンベルクやヒンデミット、バルトーク、プロコフィエフなどの同時代の音楽を積極的に取り組んだようで、晩年はどちらかと言えば教育活動に尽力したようです。
この録音当時は50代ですでに軸足は教育活動に移っていた頃だったようです。そう言うこともあってか、チェロのトルトゥリエのようにアーベントロートの主観性に触発されて激しい気迫をあふれ出すと言うよりは、アーベントロートという枠の中にきれいにおさまっているような感じです。

ですから、聞いていて面白いのは疑いもなくチェロ協奏曲の方なのですが、アーベントロートの持つ強い主観性と驚くべきオケのコントロール能力を味わうにはピアノ協奏曲の方がいいのかもしれません。

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