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ブラームス:ピアノ協奏曲第1番 ニ短調 作品15

(P)ヴィトルト・マウツジンスキ:フリッツ・リーガー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1953年2月6日、7日&9日録音



Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [1.Maestoso]

Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [2.Adagio]

Brahms:Piano Concerto No.1 in D minor Op.15 [3.Rondo. Allegro non troppo]


交響曲になりそこねた音楽?

木星は太陽になりそこねた惑星だと言われます。その言い方をまねるならば、この協奏曲は交響曲になりそこねた音楽だといえます。

諸説がありますが、この作品はピアノソナタとして着想されたと言われています。それが2台のピアノのための作品に変容し、やがてはその枠にも収まりきらずに、ブラームスはこれを素材として交響曲に仕立て上げようとします。しかし、その試みは挫折をし、結局はピアノ協奏曲という形式におさまったというのです。
実際、第1楽章などではピアノがオケと絡み合うような部分が少ないので、ピアノ伴奏付きの管弦楽曲という雰囲気です。これは、協奏曲と言えば巨匠の名人芸を見せるものと相場が決まっていただけに、当時の人にとっては違和感があったようです。
そして、形式的には古典的なたたずまいを持っていたので、新しい音楽を求める進歩的な人々からもそっぽを向かれました。

言ってみれば、流行からも見放され、新しい物好きからも相手にされずで、初演に続くライプティッヒでの演奏会では至って評判が悪かったようです。
より正確に言えば、最悪と言って良い状態だったそうです。

伝えられる話によると演奏終了後に拍手をおくった聴衆はわずか3人だったそうで、その拍手も周囲の制止でかき消されたと言うことですから、ブルックナーの3番以上の悲惨な演奏会だったようです。おまけに、その演奏会のピアニストはブラームス自身だったのですからそのショックたるや大変なものだったようです。
打ちひしがれたブラームスはその後故郷のハンブルクに引きこもってしまったのですからそのショックの大きさがうかがえます。

しかし、続くハンブルクでの演奏会ではそれなりの好評を博し、その後は演奏会を重ねるにつれて評価を高めていくことになりました。因縁のライプティッヒでも14年後に絶賛の拍手で迎えられることになったときのブラームスの胸中はいかばかりだったでしょう。

確かに、大規模なオーケストラを使った作品を書くのはこれが初めてだったので荒っぽい面が残っているのは否定できません。
1番の交響曲と比較をすれば、その違いは一目瞭然です。
しかし、そう言う若さゆえの勢いみたいなものが感じ取れるのはブラームスの中ではこの作品ぐらいだけです。
私はそう言う荒削りの勢いみたいなものは結構好きなので、ブラームスの作品の中ではかなり「お気に入り」の部類に入る作品です。



こんなヴィルトゥオーゾの時代があったんだ

冒頭のオーケストラの前奏を聴いて、これはもうドイツ的な泥臭さ満載だと感心させられました。そこで、指揮者を確認すると「フリッツ・リーガー」となっています。正直言って、「Who are You?」という存在だったのですが、調べてみると1949年から1966年までの長きにわたってミュンヘン・フィルの音楽監督をつとめていた人物でした。
そして、驚くのは若い時代の先生はジョージ・セルだったというのです。しかしながら、この演奏を聞く限りは、その教えは彼の中で余り大きなポジションは占めなかったようです。

それにしても、ミュンヘン・フィルの歴史を調べてみれば、前任者はハンス・ロスバウトで、後任者はルドルフ・ケンペ、セルジュ・チェリビダッケと続くのですから、印象的にはミュンヘン・フィルの歴史から削除されてしまったかのような錯覚に陥ります。
もしかしたら、それは元ナチス党員という経歴が影響しているのかもしれません。そんな、元ナチス党員がナチス発祥の地とも言うべきミュンヘンのオーケストラの音楽監督に1949年に就任したというのは驚くべき事です。

ただし、そう言う政治的な背景はひとまず脇におくとして、このブラームスのピアノ協奏曲第1番の演奏は悪くはありません。この作品に関して言えば、彼の師にあたるジョージ・セルとクリフォード・カーゾンとの競演盤が真っ先に思い浮かぶのですが、そのテイストは全く異なります。
セルの演奏は、カーゾンという大物を相手にしても、この作品が本質的に持っている交響的な性格を実現すべくピアノ・パートを包摂しようとし、それに対してカーゾンは頑なまでにそれを拒否して、その激烈な緊張感が結果としてこの作品が持っている本質をあぶり出していました。
しかし、リーガーの指揮はこの作品に必要な重厚なオケの響きは確保しながら、基本的にはピアニストのマウツジンスキを立てています。

特に、牧草の香りが漂うような「Adagio」楽章の牧歌的な響きはマウツジンスキのピアノと見事に融和して非常に美しい瞬間をいくつも聞かせてくれます。
そして、この時代のマウツジンスキはこれ以外にラフマニノフやチャイコフスキーのような、独奏ピアノにオーケストラが覆い被さってくる協奏曲をたくさん録音していますし、リストなどの高い技巧を必要とする作品もよく取り上げています。つまりは、50年代の初め頃は紛れもなくヴィルトゥオーゾ・スタイルのピアニストだったようなのです。

なお、次いでのような取り上げ方で申し訳ないのですが、ピアノ独奏曲の「ヘンデルの主題による変奏曲」もまたエネルギッシュな演奏で、あらためてこの頃までは豪快さを前面に出した芸風だったのだと再認識させられます。もっとも、そう言う芸風でなければ、このような真面目に練習を繰り返せば指を痛めかねないような難曲は取り上げないでしょう。

ところが、50年代の後半にはいると積極的にショパンを取り上げるようになり、それはヴィルトゥオーゾ・スタイルとは全く無縁の肩の力の抜けた演奏になっています。そして、その姿がマウツジンスキのスタイルとして広く認知されるようになり、世間的には「ショパン弾き」として認知されていくようになります。

そして、晩年はショパン・コンクールの審査員も務めていたのですから、その認識は広く定着していったのは仕方のないことでしょう。

そう言えば、私も彼のショパン演奏を紹介したときにこんな風に書いていました。
彼の録音を聞いて真っ先に気に入ったのは、その響きの軽さです。
実に飄々と何の気負いもなくショパンのロマンを描き出していくピアノは実に魅力的です。それは、ともすれば鍵盤をぶっ叩くことに力を注ぎすぎているカペルやホロヴィッツのピアノとは対極に位置する世界です。そして、そう言う軽やかなショパンを聴いていると、カペルみたいな若手連中に対して「何もそんな青筋たててピアノを叩くモンじゃないよ。ショパンてぇのは、こんな風に弾くモンだよ」というマウツジンスキの呟きが聞こえてきそうな気になりました。


そんなマウツジンスキにもこんなヴィルトゥオーゾの時代があったんだというのは、些か驚きでもあったのですが、逆に言えば上手く年を重ねたと言うことなのでしょう。

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