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ハイドン:交響曲第44番 ホ短調「悲しみ」, Hob.I:44

シモン・ゴールドベルク指揮:オランダ室内管弦楽団 1958年9月22日~23日録音



Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [1.Allegro con brio]

Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [2.Menuetto - Trio]

Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [3.Adagio]

Haydn:Symphony No.44 in E minor, Hob.I:44 [4.Finale]


自分が亡くなったときにはこの交響曲のアダージョ楽章を演奏してほしい

これは、それまでにハイドンが書いた交響曲の中ではもっとも気に入っていた作品だったようで、自分が亡くなったときにはこの交響曲のアダージョ楽章を演奏してほしいと言っていたそうです。そして、実際に彼の追悼祭においてこのアダージョ楽章が演奏され、それ故にその後この交響曲には「悲しみ」とタイトルが使われるようになりました。

この交響曲の最大の特徴は短調のユニゾンが絶大な効果を発揮していることです。ホ短調という調性は当時の交響曲にはほとんど用いられた例がなく、そのドラマティックな効果は第1楽章において顕著です。
また、第2楽章ではカノンの形式が用いられているので、古い筆写譜には「カノーネ・シンフォニア」と記されているものもあるようです。

そして、「悲しみ」のいわれの元となったアダージョ楽章は弱音器付きのヴァイオリンが使われ、管楽器はほとんど姿を見せません。この楽章は長調で書かれているのですが、16分音符の3連符による流れるような旋律にはどこか厳粛な悲しみが漂っています。
それに続く最終楽章は再びホ短調に戻り、そのユニゾンの効果はより緊張感に満ちた激情を吐露しているように感じられます。

と言うことで、この作品はハイドンの「シュトルム・ウント・ドランク」の特徴をよく表す交響曲だと言えるのですが、それをハイドン自身の精神的危機と結びつけるのは明らかに間違っています。
これもまた「短調による交響曲」という実験的精神の産物と見るのが妥当です。


モーツァルト的感性で濾過されたハイドン

ゴールドベルク指揮がオランダ室内管弦楽団と録音したハイドンの交響曲もまた随分とマニアックな選曲です。そのマニアック度はモーツァルトの選曲以上でしょう。

  1. ハイドン:交響曲第39番 ト短調, Hob.I:39

  2. ハイドン:交響曲第44番 ホ短調「悲しみ」, Hob.I:44

  3. ハイドン:交響曲第57番 ニ長調 Hob.I:57


おそらく、この3曲をすぐにイメージできる人は殆どいないでしょう。ハイドンと言えばまずはザロモン・セット、それ以外ならば88番の「V字」、92番の「オックスフォード」あたり、もう少しひねったとしても45番の「告別」、49番の「受難」、さらにもう一ひねりして6番~8番の「朝」「昼」「夕」くらいでしょう。
確かに、ハイドンの疾風怒濤期の短調作品として44番の「悲しみ」はある程度イメージできる人はいるかもしれませんが、「全集」でも目指さない限りは「39番」や「57番」を単発で録音するというのは極めて珍しいのではないでしょうか。

しかし、このハイドン演奏なのですが、聞いてみれば実に面白いので困ってしまいます。ゴールドベルクというおじさんは実に変わった、そして困った人です。
その演奏を一言で言えば、ハイドンの純器楽的な交響曲を、ゴールドベルクが持つ「モーツァルト的感性」みたいなものをフィルターとして通過させたような音楽になっているのです。

よく知られていることですが、モーツァルトはハイドンのもとで音楽を学んだことがあります。そして、ハイドンはすぐにモーツァルトの恐るべき才能を見いだしたのですが、教え子であるモーツァルトはハイドンの指導に物足りなさを感じて、結局その師弟関係は長く続きませんでした。しかし、それは師であるハイドンの音楽的才能がモーツァルトの音楽的才能に及ばなかったなどという話ではありません。
モーツァルトは疑いもなくハイドンの音楽から多くのものを学んでいますし、ハイドンという音楽家を終生尊敬していました。そして、その尊敬の念はハイドンもまた同じであり、あまりにも早すぎるモーツァルトの死を聞いたときにモーツァルトへの「レクイエム」として98番の交響曲を書いています。

では、何故に音楽の師弟関係としては二人は上手くいかなかったのかというと、これはあくまでも私見ですが、ハイドンという音楽家が職人的な技を凝らした純粋器楽の音楽家だったのに対して、モーツァルトの本性はオペラにあったからではないかと思うのです。
よく言われるように、モーツァルトの音楽は音符を精緻に音に変換するだけでは抜け落ちてしまうものが多すぎます。ですから、トスカニーニやマルケヴィッチの演奏を聞いて「ああ、立派な音楽だな!」とは思っても、どこかで物足りなさを感じてしまうのです。しかし、先に紹介したゴールドベルクのモーツァルトにはその様な立派さはないけれども、「ああ、これこそモーツァルトだ!!」という安心感を持って聞くことができました。

そして、そう言う感性を持って、彼はハイドンの交響曲に臨んでいるように思えるのです。
おそらく、ハイドンの交響曲が持つ純粋器楽としての構築性を極限まで追求したのはクレンペラーでしょう。例えば、彼の手になる「104番」などを聞けば、それはもうすぐ横にベートーベンがたたずんでいる事は誰の耳にも明らかとなります。
それに対して、このゴールドベルクのハイドンはそれとは対極にあるような演奏であり、まるでそれはモーツァルトの初期シンフォニーを聴いているような思いになってしまうのです。

とはいえ、そんな聞き方は何処か違うだろうという声が聞こえてきそうなのあですが、聞き手にとっては実に楽しく、心安らかに聞けるハイドンになっていることだけは認めていただけるのではないでしょうか。

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