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ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104

(Cello)エマヌエル・フォイアマン:ミカエル・トーベ指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1928年4月30日&1929年9月29日録音(世界初録音)



Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [1.Adagio]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [3.Finale. Allegro moderato]


アメリカとボヘミヤという異なった血が混じり合って生まれた史上類をみない美人

この作品は今さら言うまでもなく、ドヴォルザークのアメリカ滞在時の作品であり、それはネイティブ・アメリカンズの音楽や黒人霊歌などに特徴的な5音音階の旋律法などによくあらわれています。しかし、それがただの異国趣味にとどまっていないのは、それらのアメリカ的な要素がドヴォルザークの故郷であるボヘミヤの音楽と見事に融合しているからです。
その事に関しては、芥川也寸志が「史上類をみない混血美人」という言葉を贈っているのですが、まさに言い得て妙です。

そして、もう一つ指摘しておく必要があるのは、そう言うアメリカ的要素やボヘミヤ的要素はあくまでも「要素」であり、それらの民謡の旋律をそのまま使うというようなことは決してしていない事です。
この作品の主題がネイティブ・アメリカンズや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説が早い時期から囁かれていたのですが、その事はドヴォルザーク自身が友人のオスカール・ネダブルに宛てた手紙の中で明確に否定しています。そしてし、そう言う民謡の旋律をそのまま拝借しなくても、この作品にはアメリカ民謡が持つ哀愁とボヘミヤ民謡が持つスラブ的な情熱が息づいているのです。

それから、もう一つ指摘しておかなければいけないのは、それまでは頑なに2管編成を守ってきたドヴォルザークが、この作品においては控えめながらもチューバなどの低音を補強する金管楽器を追加していることです。
その事によって、この協奏曲には今までにない柔らかくて充実したハーモニーを生み出すことに成功しているのです。


  1. 第1楽章[1.Adagio]:
    ヴァイオリン協奏曲ではかなり自由なスタイルをとっていたのですが、ここでは厳格なソナタ形式を採用しています。
    序奏はなく、冒頭からクラリネットがつぶやくように第1主題を奏します。やがて、ホルンが美しい第2主題を呈示し力を強めた音楽が次第にディミヌエンドすると、独奏チェロが朗々と登場してきます。
    その後、このチェロが第1主題をカデンツァ風に展開したり、第2主題を奏したり、さらにはアルペッジョになったりと多彩な姿で音楽を発展させていきます。
    さらに展開部にはいると、今度は2倍に伸ばされた第1主題を全く異なった表情で歌い、それをカデンツァ風に展開していきます。
    再現部では第2主題が再現されるのですが、独奏チェロもそれをすぐに引き継ぎます。やがて第1主題が総奏で力強くあらわれると独奏チェロはそれを発展させた、短いコーダで音楽は閉じられます。

  2. 第2楽章[2.Adagio ma non troppo]:
    メロディーメーカーとしてのドヴォルザークの資質と歌う楽器としてのチェロの特質が見事に結びついた美しい緩徐楽章です。オーボエとファゴットが牧歌的な旋律(第1主題)を歌い出すと、それをクラリネット、そして独奏チェロが引き継いでいきます。
    中間部では一転してティンパニーを伴う激しい楽想になるのですが、独奏チェロはすぐにほの暗い第2主題を歌い出します。この主題はドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして op.82-1 (B.157-1)」によるものです。
    やがて3本のホルンが第1主題を再現すると第3部に入り、独奏チェロがカデンツァ風に主題を変奏して、短いコーダは消えるように静かに終わります。

  3. 第3楽章[3.Finale. Allegro moderato]:
    自由なロンド形式で書かれていて、黒人霊歌の旋律とボヘミヤの民族舞曲のリズムが巧みに用いられています。
    低弦楽器の保持音の上でホルンから始まって様々な楽器によってロンド主題が受け継がれていくのですが、それを独奏チェロが完全な形で力強く奏することで登場します。
    やがて、ややテンポを遅めたまどろむような主題や、モデラートによる民謡風の主題などがロンド形式に従って登場します。
    そして、最後に第1主題が心暖まる回想という風情で思い出されるのですが、そこからティンパニーのトレモロによって急激に速度と音量を増して全曲が閉じられます。




録音史を語る上では貴重な一枚

何も今さら、こんな化石のような録音をアップしなくてもいいだろうという声が聞こえてきそうです。おまけに、ここでのフォイアマンの演奏は彼にとっても不本意なものであったことも確かなのです。つまりは、どう考えても彼の名誉になるような録音ではないのです。
にもかかわらずあえてアップしたのには理由があります。それはクラシック音楽の録音の歴史を考える上で、これは非常に貴重な資料だからです。

まず一つめの理由は、これがドヴォルザークのチェロ協奏曲にとっては世界最初の録音だと言うことです。つまりは、実際のコンサートに通ってこの作品を聞いた人もいるでしょうが、その数は限られています。おそらく、ほとんどの人にとってこの作品を実際の「音」として耳にしたのはこの録音が最初だったはずです。
つまりは、ドヴォルザークのチェロ協奏曲はまさにこのような「音楽」として多くの人が耳にすることになったのです。

ところが、この録音を実際に聞いてみると、両端の第1楽章と第3楽章のテンポ設定がとんでもないことになっています。
とりわけ第1楽章のテンポ設定は異常と言うしかないほどの速さで駆け抜けていきます。
一般的にこの楽章は15分程度におさめるのが常識的なのですが、ここではわずか12分あまりで駆け抜けています。
また、最終楽章もそこまで酷くはないのですが、それでも10分半ほどで駆け抜けているのは他には聞いたことがないテンポです。通常は12分~13分程度が常識的なテンポでしょうか。

それと比べれば、第2楽章に関しては10分半ほどですから、これもかなり速い部類にはいるのですが、それでもシュタルケルの56年録音ではこの程度のテンポで弾ききっていますからそれほど違和感は覚えません。それどころか、フォイアマンは天性のメロディーメーカーであったドヴォルザークの「歌」を自らの中で見事に咀嚼して、その歌を見事に歌い上げているので、聞いているときにはそれほど早いという感じは受けません。つまりはそれほどまでに歌が濃厚なのです。

もっとも、テンポ設定というのはそれぞれの演奏家の裁量にゆだねられる部分が大きいのですから、この早すぎると思われるテンポ設定がフォイアマンの意志であるならば、私ごときがとやかく言う筋合いではありません。しかしながら、最初に少しふれたように、この録音はフォイアマンにとっては「かなり不本意」なものだった可能性があるのです。
その証拠となるのが、別テイクの録音といが一部残っている第1楽章と第2楽章です。

それがこの録音です。
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 第1楽章
(Cello)エマヌエル・フォイアマン:ミカエル・トーベ指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1928年1月27日 or 4月30日


Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [1.Adagio]




これはかなり常識的なテンポ設定です。
さらには第2楽章に関しても以下の通りです。

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 第2楽章
(Cello)エマヌエル・フォイアマン:ミカエル・トーベ指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1928年1月27日 or 4月30日


Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]




しかしながら、何故かこの真っ当なテンポ設定の録音は使われず、採用されたのはとんでもない快速スピードの録音の方でした。問題はそれが、フォイアマンの意志であったかどうかなのですが、おそらくそれは明らかにファイアマンではなくてレコード会社の方の意志だったでしょう。
何故ならば、このテンポ設定からは、何とか各楽章を2枚のSP盤に押し込もうという意志が透けて見えるからです。そして、そう言うレコード会社のビジネス的観点の方が演奏家の芸術的な思いよりは上回っていたことがはっきりとした証拠によって裏付けられる貴重な録音なのです。

おそらく、こういう別テイクの録音がSP盤の時代に残っていたというのは希有の例だと思うのですが、もしかしたらフォイアマン自身の不本意な思いを形として残しておきたいという思いがあったのかもしれません。
なお、もう少し後の時代になるのですが、第2楽章だけの別録音が残っています。

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 第2楽章
(Cello)エマヌエル・フォイアマン:フランク・ブラック指揮 フランク・ブラック場管弦楽団 1940~1941年録音


Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]




他のチェリストと較べればそれでも早めのテンポ設定なのですが、フォイアマンならではの濃厚な歌い回しが刻み込まれています。その濃厚さ故に、決して早いと感じさせないのが逆に凄いといえるかもしれませんし、まさにその歌い回しこそにフォイアマンの価値があるともいえます。

世のなかには、SP盤時代のとんでもなく速いテンポ設定の演奏を珍重して持て囃す人もいるのですが、その大部分は演奏家の解釈に基づく真っ当な演奏ではなくて、限られた収録時間しか持たないSP盤の中に詰め込もうとしたレコード会社のビジネス的観点によって出来上がった録音であることが多いのです。
ですから、SP盤時代の「とんでも盤(通称ト盤)」には注意が必要なことをこの録音は証拠を突きつけて教えてくれると言うことで、録音史を語る上では貴重な一枚なのです。

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