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フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwangler)|シューマン:交響曲第1番 変ロ長調 「春」作品38
シューマン:交響曲第1番 変ロ長調 「春」作品38
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年10月29日録音
Schumann:Symphony No.1 in B flat major Op.38 "Spring" [1.Andante un poco maestoso - Allegro molto vivace]
Schumann:Symphony No.1 in B flat major Op.38 "Spring" [2.Larghetto]
Schumann:Symphony No.1 in B flat major Op.38 "Spring" [3.Scherzo. Molto vivace]
Schumann:Symphony No.1 in B flat major Op.38 "Spring" [4.Allegro animato e grazioso]
湧き出でるがごとき霊感によって、一気呵成に仕上げられたファーストシンフォニー
1838年から39年にかけてシューマンはウィーンを訪れます。
シューマンにとってウィーンとは「ベートーベンとシューベルトの楽都」でしたから、シューベルトの兄であるフェルディナントのもとを訪れるとともに、この二人の墓を詣でることは彼にとって大きな願いの一つでした。
そして、ベートーベンの墓を詣でたときに、彼はそこで一本のペンを発見したと伝えられています。そして、彼はそのペンを使ってシューベルトのハ長調シンフォニーついての紹介文を執筆し、さらにはこの第1番の交響曲を書いたと伝えられています。
もちろん、真偽のほどは定かではありませんが、おそらくは「作り話」でしょう。
しかし、作り話にしても、よくできた話です。
そして、シューマンが自分を、ベートーベンからシューベルトへと受けつがれた古典派音楽の正当な継承者として自負していたことをよく表している話です。
シューマンは、同一ジャンルの作品を短期間に集中して取り組む傾向がありました。
クララとの結婚前までは、彼の作品はピアノに限られていました。
ところが、結婚後は堰を切ったように膨大な歌曲が生み出されます。そして、このウィーン訪問のあとは管弦楽作品へと創作の幅を広げていきます。
この時期の管弦楽作品の中で最も意味のある創作物である第1番の交響曲は、わずか4日でスケッチが完成されたと伝えられいます。
まさに、何かをきっかけとして、あふれる出るように音楽が湧きだしたシューマンらしいエピソードです。
彼の日記によると、1841年の1月23日から仕事にかかって、26日にはスケッチが完成したと書かれています。そして、翌27日からはオーケストレーションを始めて、それも2月20日に完成したと記録されています。
まさに、湧き出でるがごとき霊感によって、一気呵成に仕上げられたのがこのファーストシンフォニーでした。
しかし、この交響曲をじっくりと聞いてみると、明らかにベートーベンから真っ直ぐに引き継いだ作品と言うよりは、この後に続くロマン派の交響詩の嚆矢という方がふさわしい作品となっています。
おそらく、そんなことは私ごときが云々するまでもなく、シューマン自身も気づいていたことでしょう。
それ故に、この後に続く管弦楽作品では苦吟することになります。
第2番の交響曲は完成はしたものの納得のいく出来とはならずにお蔵入りとなり、晩年になって改訂を加えて第4番の交響としてようやく復活します。
ハ短調のシンフォニーはスケッチだけで破棄されています。
その他、例を挙げるのも煩雑にすぎるのでやめますが、結局はこの第1番の交響曲以外は完成を見なかったのです。
私ごときが恐れ多い言葉で恐縮ですが(^^;、この事実は複雑な管弦楽作品をしっかりとした構成のもとで完成させるには、未だ己の技法が未熟なことを知らしめることになったようです。
そして、その様な未熟さを克服すべく創作の中心を室内楽へと転換させていくことになります。
シューマンの交響曲はとかく問題が多いと言われます。
彼の資質は明らかに古典派のものではありませんでした。交響曲だけに限ってみれば、ベートーベンの系譜を真っ直ぐに引き継いだのは彼の弟子であるブラームスでした。
それ故に、そう言うラインで彼の交響曲を眺めてみれば問題が多いのは事実です。
しかし、彼こそは生粋のロマンティストであり、ベートーベンとは異なる道を歩き出した音楽としてみれば実に魅力的です。
楽器を重ねすぎて明晰さに欠けると批判される彼のオーケストレーションも、そのくぐもった響きなくしてシューマンならではの憂愁の世界を表現することは不可能だとも言えます。
あのメランコリックは本当にココロに染みいります。
たとえば、第2楽章のやさしくも深い情緒に満ちた音楽は、古典派の音楽が表現しなかったものです。
もちろん、演奏するオケも指揮者も大変でしょう。
みんなが気持ちよく演奏できるブラームスの交響曲とは大違いです。
しかし、その大変さの向こうに、シューマンならではの世界が展開するのですから、原典尊重でみんなで汗をかく時代になって彼の交響曲が再評価されるようになったのは実に納得のいく話です。
なお、どうでもいい話ですが、シューマンはベッドガーという人の詩から霊感を得てこの交響曲を作曲したと述べています。ですから、各楽章のはじめに「春のはじめ」「たそがれ」「楽しい遊び」「春たけなわ」と記しています。
この交響曲には「春「と言うタイトルがつけられていますが、それは後世の人が勝手につけたものではなくて、シューマンのお墨付きだと言えます。
シューマンの若き時代の交響曲をかくも巨大に造形した指揮者は他には思い当たりません
フルトヴェングラーのシューマンと言えば真っ先に交響曲第4番の演奏と録音を思い出します。あれは、戦後のフルトヴェングラーのスタジオ録音としては、どう辛く見積もっても3本の指には入るほどの素晴らしいものでした。
それは、「暗」から「明」へと言う分かりやすいドラマティックな構成をもっていて、さらにこういう言い方をしてはシューマンに失礼なのですが、その構成が結構手際よく処理されているので、まさにフルトヴェングラーにとってはもってこいの作品だったと言えます。とりわけ曲の後半における異常とも言える、そしてスタジオ録音とは信じがたいほどの熱気ともりあがりを聞けば、これにかわるものがなと誰しもが納得することでしょう。
それに対して、この交響曲第1番「春」に関しては、さすがにそこまでの賛辞を送ることは出来ないのですが、それでもこの構えの大きな音楽作りはフルトヴェングラー以外では絶対に不可能だと思えます。
そして、調べてみて気づいたのですが、フルトヴェングラーの後を受けて終身の音楽監督に就任したカラヤンは、シューマンの交響曲に関してはほぼ第4番しか取り上げていません。それ以外の交響曲に関してはコンサートではほとんど取り上げていないのです。にもかかわらず、ちゃっかりと「シューマン交響曲全集」なんてのをリリースしているあたりは、さすがは商売人らしい根性です。
ただし、その演奏はどれも悪くないというのが困った話で、そのあたりがただの商売人とは違うところなのでしょう。
それと比べると、確かにフルトヴェングラーもシューマンに関しては第4番をコンサートで取り上げることが圧倒的に多かったのですが、それに続いてこの第1番も結構な回数をプログラムに入れています。そして、2番と3番はほとんど取り上げていないというあたりはこの両者ともに共通するところです。
シューマンの交響曲というのは良く「舵の壊れた船」にたとえられるのですが、やはりそう言う「労多くして効果の少ない」作品はあまり取り上げたくなかったのでしょう。
ちなみに、フルトヴェングラーのシューマンの交響曲1番の録音に関してはこのウィーンフィルとの演奏がほぼ唯一のものです。
世間では1951年の録音としては音が悪すぎるという声もあるのですが、私としては「優秀」とはいえなくても、音楽として楽しむには十分すぎるほどのクオリティを保持していると思います。
それにしても、このシューマンの若き時代の交響曲をかくも巨大に造形した指揮者は他には思い当たりません。さらには、大きさだけでなく、これまたフルトヴェングラーらしい表情付けがあって、それが十分に説得力を持っているのはさすがです。
特に印象に残ったのは、最終楽章におけるホルンの独奏です。
フルトヴェングラーはその独奏を導き出す前にオケを次第にディミヌエンドさせていって最後は完全に静止させます。そして、十分過ぎるほどの「ため」を作ってから「さあ、どうぞ!」という感じでホルン奏者にバトンを渡します。その緊張感あふれる沈黙の中から鳴り響くホルンのソロは非常に効果的です。
しかしながら、ホルン奏者の立場に立ってみれば、これほど「恐い」シチュエーションはありません。オケはウィーンフィルですから、このホルンは当然の事ながらウィンナーホルンです。ただでさえ音程を外しやすい楽器の構造をしているのですから、おそらくとっても恐かっただろうなと同情を禁じ得ません。
ちなみにこの日のプログラムは以下の通りです。
- ベートーヴェン:コリオラン序曲
- シューマン:交響曲第1番 変ロ長調 「春」作品38
- ブルックナー:交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」
何ともヘビーなプログラムであり、ホルン奏者にとっては死ぬ思いだったのではないでしょうか。(^^;
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