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リヒター(Karl Richter)|J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ 第4部 イエス御名の祝日「感動と賛美にひれふさん」
J.S.バッハ:クリスマス・オラトリオ 第4部 イエス御名の祝日「感動と賛美にひれふさん」
カール・リヒター指揮 ミュンヘン・バッハ管弦楽団・合唱団 (S)グンドゥラ・ヤノヴィッツ (A)クリスタ・ルートヴィヒ (T)フリッツ・ヴンダーリヒ (Bass)フランツ・クラス 1965年2月、3月&6月録音
J.S.Bach:Christmas Oratorio, BWV 248 [Part4:1.Coro - Fallt Mit Danken, Fallt Mit Loben]
J.S.Bach:Christmas Oratorio, BWV 248 [Part4:2.Recitativo (Evangelist) - Und Da Acht Tage Um Waren]
J.S.Bach:Christmas Oratorio, BWV 248 [Part4:3.Recitativo, Arioso (Chor-Sopran, Basso) - Immanuel, O Suイes Wor]
J.S.Bach:Christmas Oratorio, BWV 248 [Part4:4.Aria (Soprano) - Floイt, Mein Heiland, Floイt Dein Name]
J.S.Bach:Christmas Oratorio, BWV 248 [Part4:5.Recitativo, Arioso (Chor-Sopran, Basso) - Wohlan! Dein Name Soll Allein]
J.S.Bach:Christmas Oratorio, BWV 248 [Part4:6.Aria (Tenor) - Ich Will Nur Dir Zu Ehren Leben]
J.S.Bach:Christmas Oratorio, BWV 248 [Part4:7.Choral - Jesus Richte Mein Beginnen]
実質的には6つの教会カンタータを一つにまとめたもの
バッハがライプティッヒに移ってから11年目に当たる1734年に作曲された作品だと言われています。形式的には全体が6つの部分からなるオラトリオと言うことなのですが、実質的には6つの教会カンタータを一つにまとめたものです。ですから、この作品は全体を通して演奏することにはあまり大きな意味はなく、むしろ6つの部分を別々に演奏した方が筋が通っていると言われています。
実際、この作品の初演においても全体を通して演奏するのではなくて、1734年のクリスマスの日から翌年の1月6日にかけて6回に分けて演奏されています。
- 第1部 降誕節第1祝日用「いざ祝え、この良き日を」:1734年12月25日初演
- 第2部 降誕節第2祝日用「この地に野宿して」:1734年12月26日初演
- 第3部 降誕節第3祝日用「天の統治者よ、この歌声を聞け」:1734年12月27日初演
- 第4部 イエス御名の祝日「感動と賛美にひれふさん」:1735年1月1日初演
- 第5部 新年第1日曜日「神にみ栄えあれ」:1735年1月2日初演
- 第6部 顕現節「主よ、おごれる敵の迫り来る時」:1735年1月6日初演
オラトリオというタイトルはついていても、全体として一つのストーリーを持っているわけではないので、このスタイルが本来のものと言えるようです。
第4部 イエス御名の祝日「感動と賛美にひれふさん」
御子は生まれて8日後に割礼を受けイエスと名づけられたことが描かれます。しかし、一般的にキリスト誕生の物語は、その誕生を知った東方の博士のエピソードへとつながっていくので、この第4部はその連続性を妨げているようにも聞こえます。そう言う意味で、この第4部は特殊な立ち位置にある作品と言えるようです。
- 第36曲 合唱「ひれ伏せ、感謝もて、讃美もて」
合唱によって「感謝と共にひれ伏せ、讃美と共にひれ伏せいと高き所に居ます方の恵みの御座の前に」と救世主が到来した喜びが歌われます。
- 第37曲 レチタティーヴォ「八日みちて」
テノールが「そして八日経って、その子が割礼される日となったので、幼な子はイエスと名付けられた」と語ります。
- 第38曲 レチタティーヴォとアリオーソ「インマヌエル、おお、甘き言葉よ!/イエス、こよなく尊きわが生命よ」
バスが「インマヌエル、おお甘き言葉よ!私のイエスは私の隠れ家、私のイエスは私の生命」と御子の命名を祝うと、そこにソプラノが「イエス、私の最愛の生命よ」と被さるようにアリオーソが歌われます。
- 第39曲 アリア「答えたまえ、わが救い主よ、汝の御名はそも」
ソプラノが「私の救い主よ、あなたの御名前はこの上なく小さき種子にさえも、かの厳しき恐れを吹き込むのか」と「神と忠実なる魂の会話」を歌い上げます。
- 第40曲 レチタティーヴォとアリオーソ「ならばいざ!汝の御名のみ/イエス、わが歓びの極み」
バスが「それならば、あなたの御名のみ私の心に宿ってください」と歌うと、そこにソプラノが「イエス、私の喜び、満足、私の希望、宝そして財産」とアリオーソを歌います。
- 第41曲 アリア「われはただ汝の栄光のために生きん」
テノールがヴァイオリンの独奏だけを従えて「私は栄光ゆえあなたのみに生きよう。私の救い主よ、私に力と勇気を与え、私の心を夢中にさせてください」と歌い上げます。
- 第42曲 コラール「イエスわが始まりを正し」
「イエスよ、私の始まりを正し、イエスよ、絶えず私と共に居てください イエスよ、私の五感を治め、イエスのみ、私の熱望となり、イエスよ、私の思いの内に宿ってください、イエスよ、私の心がゆらがないように」と歌われるコラール。
リヒターにしては明るく祝典的な雰囲気が漂う演奏に仕上がっている。
リヒターのバッハと言えば真っ先に思い浮かぶのは1957年に録音された「マタイ受難曲」です。そこでのリヒターはこの上もない厳格さで厳しく、峻烈なバッハの姿を描き出しました。そして、そう言うバッハの姿はそれに続く「ロ短調ミサ」でも変わることはありませんでした。そして、そう言うバッハの姿は管弦楽組曲のような作品でも変わることはなく、鋭い響きで輪郭線がクッキリと浮かび上がらせていくリヒターのスタイルによって「バッハとは厳しいものだ」という刷り込みが出来上がってしまったのでした。
私がオリジナル楽器による演奏にどうしてもなじめなかったのは、このような刷り込みが原因だったのかもしれません。あの青白く病気のような響きで弱々しく演奏されるバッハには最後まで納得することができませんでした。
そして、そこまで彼の演奏が私を惹きつけた背景には何時までも無名時代の良き意味でのアマチュア精神が息づいていたからかもしれません。そこには、常にある種のひたむきさと清冽さが感じられたからです。
しかし、この65年に録音された「クリスマス・オラトリオ」はそう言うかつてのリヒターの演奏とは少しばかり異なった雰囲気が漂っているように聞こえます。
もちろん、キリストの受難を題材とした「マタイ」と、キリストの誕生を題材とした「クリスマス・オラトリオ」では同じ雰囲気になるはずはありません。片方は悲劇であり、片方は祝典なのですから。しかしながら、キリスト教神学においては、キリストはこの世の中にもっとも力弱いものとして生まれました。その背景には、この世の中を救うのは力強きものではなくて、もっとも力弱きものだという考えがあります。第5部の最後に歌われる「確かにそのような心の部屋は、美しき王侯の間ではなく、暗き穴ぐらである。しかし、あなたの恵みの光がわずかに差し込むや否や、それは太陽に満たされたかと思われる」という歌詞はそう言うキリスト教の根っこにあるものをよくあらわしています。
さらに言えば、このバッハの作品を辿るだけでも、キリストの誕生は喜ばれるだけでなく、権力の地位にあるものを恐れさせたことも分かってくるのです。つまりは、キリストの誕生を描くクリスマス・オラトリオは必ずしも祝典一色の音楽ではないのです。ですから、そこにはリヒター流の厳しいバッハが入り込む余地はいくらでもあるように思うのですが、そう言うかつてのリヒターの姿は後退しています。
もちろん、それはいいとか悪いとか言う話ではなくて、おそらくは彼の中にあったアマチュア精神が次第にプロの音楽家としての立ち位置へと変わっていったことのあらわれかもしれません。ですから、かつての厳しさ一辺倒のバッハよりは、このような明るさに満ちたバッハの方を好む人がいても怪しむものではありません。
それからもう一つ、福音史家を担当したフリッツ・ヴンダーリヒについてふれておく必要があるでしょう。
振り返ってみれば、彼がそのキャリアの頂点とも言うべき次期に不幸な事故によって亡くなってから半世紀以上もの時間が経過してしまいました。しかし、今もなお彼を越えるリリック・テナーは現れていないとまで言われる伝説的な存在でもあります。そう言う伝説のテノールの最良の姿の一つがここに刻み込まれていたというのは、後世のものにとってはこの上もない幸運でした。
さらに言えば、ソプラノにはグンドゥラ・ヤノヴィッツ、アルトにはクリスタ・ルートヴィヒという、素晴らしいビッグネームが結集したという意味でも、これは貴重な記録と言えます。
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