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ドヴォルザーク:交響曲第3番 変ホ長調 作品10(B.34)

イシュトヴァン・ケルテス指揮 ロンドン交響楽団 1966年10月11日~12日録音



Dvorak:Symphony No.3 in E-flat major, Op.10 (B.34) [1.Allegro moderato]

Dvorak:Symphony No.3 in E-flat major, Op.10 (B.34) [2.Adagio molto, tempo di marcia]

Dvorak:Symphony No.3 in E-flat major, Op.10 (B.34) [3.Finale. Allegro vivace]




ドヴォルザークにとっては人生の転換点に位置した交響曲

1番と2番の交響曲がセットのように相前後して創作されたのと同じように、続く3番と4番の時を接して生み出されています。
最初の二つの交響曲の背景にはヨゼファ・チェルマークへの初恋が込められていたとするならば、この二つの交響曲にはかなわなかったその恋への悲しみを通り抜けてヨゼファの妹であったアンナを妻として迎え入れた喜びが反映しています。

確かに、音楽と個人的な生活を結びつけるのは安易にすぎることは事実です。
とりわけ、ベートーベン以前の時代にあっては音楽家というのは基本的には「職人」でしたから、そこに個人的な感情が絡みつくことは基本的にはありませんでした。彼らは自分のおかれた環境には関係なく、注文主からの求めに応じて、それに相応しい音楽を生み出すだけでした。
しかし、ロマン派の作曲家においては、その様な個人的な感情をベースにすることをそれほど憚らなくなったような気がします。

もちろん、「音楽のこの部分が新しく妻を迎えた喜びが反映している」とか、「この短調への突然の転調には愛する子供を失った悲しみが込められている」みたいな「一対一対応」になるはずはないのですが、それでも音楽全体を貫く感情や雰囲気というものがその時々の個人的感情をベースとして成り立っていることはそれほど珍しいことではありません。特に、ドヴォルザークという音楽家はそう言う感情がわりあい素直に音楽に反映する人だったように思われます。

この第3番の交響曲は、1873年3月に、賛歌「白山の後継者たち」の初演が大成功をおさめた直後から創作に取りかかっています。
この賛歌の成功によって自信を得たドヴォルザークはアンナの両親に結婚の同意を取り付けるのですが、その様な明るい気分がこの交響曲にはあふれています。そして、速筆のドヴォルザークらしく、1873年3月29日から創作に取りかかったこの交響曲は7月9日には完成させています。

しかしながら、その様に一気呵成に完成させているのですが、それでもこの交響曲には初期の二つの交響曲以上にリストやワーグナーからの影響が明瞭に刻み込まれています。
オーケストラの規模はより拡大され、感情の起伏は大きくて劇的な性格も強まっています。第2楽章の「Adagio molto」が葬送行進曲風になっているのは明らかにワーグナーからの影響を感じさせます。

そして、最後の「Allegro vivace」では一転して希望に満ちた明るい音楽となっています。この楽章の主要主題は後の「ユモレスク」を連想させる音楽になっているのも興味深いところです。

ドヴォルザークはこの交響曲の完成によって、当時のウィーンを中心とした音楽語法を取り入れた作曲技法に自信を深めたはずです。さらに、アンナとの結婚によって家庭的な安定を得たことも自身となったのか、ついにオーケストラのヴィオラ奏者という職を捨てて作曲家として生きていくことを決心します。
そう言う意味でも、これはドヴォルザークにとっては人生の転換点に位置した交響曲だったと言えます。


  1. 第1楽章:Allegro moderato

  2. 第2楽章:Adagio molto, tempo di marcia

  3. 第3楽章:Finale. Allegro vivace



リズム感の良さと造形の確かさが音楽に素晴らしい生命感を与えている


ドヴォルザークの交響曲と言えば第9番「新世界より」だけが飛び抜けて有名です。そして、美しい旋律のあふれている第8番とブラームス的な佇まいをみせる第7番がそれに続きます。
それ以外の6番以前の交響曲と言うことになると、さて、知識としてそう言う作品があることは知っていても実際に聞いたことがあるという人は少ないのではないでしょうか。
実際、コンサートのプログラムにのることはほとんどありませんし、録音の数も7番以降の作品と較べると桁違いに少ないというのが実態です。

ただし、ヨーロッパではここまでひどい選別はされていないようで、とりわけ中欧の国々ではそれなりに6番以前の交響曲もコンサートのプログラムにのるんだよという話は聞いたことがあります。

少しばかり録音の歴史を調べてみたのですが、第9番はすでに1920年代に初録音があったようです。
第8番は1935年、第7番は1938年にそれぞれターリッヒとチェコフィルとのコンビで初録音されていますし、第6番の世界初録音は1938年のヴァツラフ・ターリヒ指揮(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団)によるものらしいです。
ただし、5番以前の交響曲については初録音がいつであったのかはよく分かりませんでした。

と言うわけで、ドヴォルザークの交響曲の全容を多くの人にはじめて提示したのが、このケルテスとロンドン響による全集録音であったことは間違いありません。

ケルテスとロンドン響は以下のような順番でこの全集を完成させています。


  1. 交響曲第8番 ト長調 作品88(B.163):1963年2月22日~26日録音

  2. 交響曲第7番 ニ短調 作品70(B.141):1964年3月5日~6日録音

  3. 交響曲第5番 ヘ長調 作品76(B.54):1965年12月6日~10日録音

  4. 交響曲第6番 ニ長調 作品60(B.112):1965年12月6日~10日録音

  5. 交響曲第3番 変ホ長調 作品10(B.34):1966年10月11日~12日録音

  6. 交響曲第4番 ニ短調 作品13(B.41):1966年10月14日~17日録音

  7. 交響曲第9番 ホ短調 作品95(B.178)「新世界より」:1966年11月21日~12月3日録音

  8. 交響曲第2番 変ロ長調 作品4(B.12):1966年11月21日~12月3日録音

  9. 交響曲第1番 ハ短調 作品3(B.9) 「ズロニツェの鐘」:1966年12月1日~3日録音



最も有名な「新世界より」が随分後回しになっているのは、すでにウィーンフィルとの録音がカタログにあったからです。
あらためてケルテスの指揮による録音で初期、中期の作品を聞いてみると、「無視」されてしまうほどつまらない音楽ではないことはすぐに分かります。

そして、もう一つ面白いと思ったのは、6番以前の交響曲に関しては5番と6番、3番と4番、1番と2番を2曲ずつセットにして録音をしていることです。
これは、決して営業上の理由で、売れそうにもないマイナー作品をセットにしたというような下世話な理由ではありません。

そうではなくて、ドヴォルザークの初期の交響曲は、習作期としての1番と2番、世間で認められるために古典派やロマン派の交響曲の成果を積極的に取り入れた3番と4番、そして作曲家としてようやくにして認められることでボヘミアの民族的な色彩を色濃く打ち出した5番と6番というように区分されるからです。

その様なドヴォルザークの作曲家としての成長と発展を意識して全集を仕上げたところに、この録音にかけたケルテスの意欲が読み取れます。
ただし、誤解されやすいのですが、彼は決して「お国もの」としてドヴォルザークの交響曲に取り組んだわけではありません。

ケルテスはハンガリー出身の指揮者ですから、厳密に言えば民族的出自はマジャールです。日本人の感覚からすればこういう中欧圏の国々はどこも同じように見えてしまうのですが(^^;、チェコのドヴォルザークとは距離的にはお隣でも、その精神の愛用は随分と異なるのです。
ですから、何となく中欧圏の出身なので「お国もの」なのかと思ってしまうと、とんでもない勘違いを招いてしまいます。

だいたい、ハンガー出身の指揮者って、名前を数え上げるだけで一つのイメージが出来てしまうほどであり、そのイメージは牧歌的なボヘミアの風情とはほど遠いのです。
フリッツ・ライナー、ユージン・オーマンディ、ジョージ・セル、ゲオルグ・ショルティ・・・ですからね・・・。(^^;

ただし、ケルテスはそこまで独裁的でもなければ恐くもありません。
しかし、「民族的情緒」という実体不明のあやふやなものに寄りかかって、アンサンブルや造形の曖昧さを胡塗するような音楽とは遠く離れた位置にあります。たとえば、ドヴォルザークお得意の甘くロマンティックな旋律などはその甘さに引きずられることなく、実に伸びやかで清潔な佇まいを崩すことはありません。

しかし、それでも、ひたすら直線的で厳しい造形を目指した同郷の恐い先輩方とは違って、かなり思い切った曲線的な表情付けで濃厚な音楽を聞かせてくれる場面もあった人でした。セルにしても、ライナーにしても、彼らがこういう民族的な色彩が濃い音楽を取り上げると、その色合いを見事なまでに脱色をして国籍不明のコスモポリタンな音楽に仕立て上げてしまうのですが、そう言う生き方とは明らかに異なります。
それは、活動の本拠がアメリカかヨーロッパかと言うことが大きく影響しているのかも知れません。

しかしながら、弾むようなリズム感の良さと造形の確かさはマジャールの先輩方を彷彿とさせるものがあります。このあたりの勘の良さみたいなものはマジャールの血なのかもしれません。

確かに、ドヴォルザークの交響曲全集と言えば、このすぐ後にロヴィツキの全集なども出て唯一絶対というポジションはすぐに失ってしまうのですが、それでも録音のクオリティの高さとも相まって(録音エンジニアはDeccaのKenneth Wilkinsonです!!)、未だその価値は失っていないと断言できます。

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