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リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調 S.124

(P)ヴィルヘルム・ケンプ アナトール・フィストゥラーリ指揮 ロンドン交響楽団 1954年6月録音



Liszt:Piano Concerto No.1 in E flat major S.124 [1.Allegro maestoso]

Liszt:Piano Concerto No.1 in E flat major S.124 [2.Quasi adagio -]

Liszt:Piano Concerto No.1 in E flat major S.124 [3.Allegretto vivace - Allegro animato]

Liszt:Piano Concerto No.1 in E flat major S.124 [4.Allgro marziale animato]




循環形式によるソナタ形式を初めて完全に実現させた作品

「ピアノのパガニーニ」を目指したリストなので、ピアノの独奏曲は数多く残していますが、協奏曲となると完成した形で残されているのはわずか2曲です。これを少ないと見るか、それともこんなものと見るかは難しいところですが、作品の認知度という点で言えばかなり落ちることは事実です。
例えば、ショパンやブラームスもピアノ協奏曲は2曲しか残していませんが認知度は抜群です。
シューマンは1曲しか残しませんでしたが、認知度ではリストの協奏曲を少し上回る雰囲気です。

しかし、実際に聞いてみると、これがなかなかに面白い音楽なのです。

たとえば、ハンスリックが「トライアングル協奏曲」と冷笑した第3楽章は、そう言われても仕方がないほどにトライアングルの響きが突出しているのですが、音響的な面白さは確かにあります。
また、バルトークが「循環形式によるソナタ形式を初めて完全に実現させた作品」と評価したように、決してピアノの名人芸ををひけらかすだけの音楽でもありません。
そう言われてみれば、冒頭の音型があちこちに姿を現すような雰囲気があるので、ある種のまとまりの良さを感じさせますし、4つの楽章が切れ目無しに演奏されるので、ピアノ独奏を伴った交響詩のようにも聞こえます。

そして、最終楽章の怒濤のクライマックスは、やはり「ピアノのパガニーニ」を目指したリストの真骨頂です。
聞いて面白いと言うことでは、決して同時代のロマン派のコンチェルト較べても劣っているわけではありません。


  1. 第1楽章:Allegro maestoso

  2. 第2楽章:Quasi Adagio

  3. 第3楽章:Allegretto vivace. Allegro animato

  4. 第4楽章:Allegro marziale animato



「主情性」に満ちた解釈という言葉を使うことが恥ずかしくなるほどの無垢さで鳴り響いている


ケンプといえば技巧よりは精神性(何ともいい加減な言葉ですが)を重視するピアニスト言われてきました。しかし、古い時代からの彼の録音を聞いてみると、それほど単純な話ではないことに気づかされます。
ケンプといえば、父親が教会のオルガニストであり、そのために幼い頃からオルガンの響きとその宗教的な雰囲気の中で育った人でした。ですから、彼の最晩年のバッハの作品集などを聞くと、そこに彼の音楽を支えた一番深い部分がきわめて自然な形で表明されているように感じるのです。
そして、その一番深い部分にあるものに対して「精神性」という言葉を多くの人は奉るのでしょうが、それはバックハウスのような「論理に根ざした」思索が生み出す「精神性」とは真逆のものであることに気づくのです。
その意味では、ケンプの音楽を「そよ風で鳴るエオリアンハープのように、心の赴くままに演奏した」と喝破したブレンデルの見識には脱帽するしかありません。

そして、この「エオリアンハープ」のような彼の特性は、音楽だけではなくて、それは彼の生き方そのものであったことにも気づかされるのです。
このケンプという「エオリアンハープ」は、人を愛し平和を愛するような風が吹けばその様に鳴り響くのですが、そこにナチスの風が吹けばナチスのように鳴り響いてしまうのです。

ただし、それは風の向きを敏感に感じとってそれに身を添わしていった連中の生き方とは本質的な部分で異なっていた事も事実です。ケンプというキャンパスは常に真っ白であって、そのキャンパスがいかように染められてもそれを素直に受け入れてしまう無垢さこそが、ケンプという人の「エオリアンハープ」的な本質だったのでしょう。
確かに、ケンプは積極的にナチスを支持し協力したわけでないことは明らかですが、それでも、ナチスを嫌って国外に逃亡した人々に対して批判的な言葉を口にしたり、ナチスの音楽特使として音楽活動に携わったことも事実です。ナチス占領下のパリでバリバリのナチス党員だったエリー・ナイなどと一緒に演奏会も行っています。

しかし、1954年には広島平和記念聖堂でのオルガン除幕式に出席し、記念演奏を行い、その録音による売上金は被爆者のために全額を寄付しました。
そして、この除幕式において次のようなスピーチも行っています。

偉大な教会人は、J.S.バッハのことを5人目の福音史家と呼びました。彼は人間の言葉は使いませんが、世界中の人が理解できます。平和の鐘の音を聞いたのち、信仰と祈りの言葉 「Dona nobis pacem(神よ平和を与えたまえ)」を胸に、平和のために戦っている人たちの仲間入りができて幸せです。
世界中の教会が鐘を響かせて、この「pax aeterna(永遠の平和)」への呼びかけに応えてくれますように!


「平和のために戦っている人たちの仲間入りができて幸せです。」という言葉がケンプという男の口から発せられた以上、それはリップ・サービスなどであるはずもなく、それは疑いもなく彼の心のもっと奥深いところから発せられたものであることは疑いようがありません。

ケンプという人は論理の人ではありませんでした。
その事を見誤ってはいけません。
幼い頃から教会に鳴り響くオルガンの響きを聞きながら育ったその魂が、そこに吹き寄せる風に従って常に真摯に鳴り響き続けたのが彼の人生であり、彼の音楽だったのです。

前置きが随分と長くなってしまいました。
リストのピアノ音楽といえば、なんと言ってもその逞しいテクニックこそが売りです。もっとも、晩年になるとそのテクニックを封印して宗教的感情にあふれた音楽を書くようになったのですが、この2曲のコンチェルトは指のまわるピアニストにとっては、その名人芸を披露するための格好のショー・ピースです。

そんな作品を、いくらテクニックの衰えがそれほど顕著ではなかった50年代前半とは言え、ケンプが録音していたとはいささかか驚きでした。
しかし、聞いてみて、「エオリアンハープ」と称された特徴がこの時期から既にあらわれていることに気づかされるのです。

ケンプにとってこの音楽は逞しいテクニックを披露するショー・ピースなどではなくて、または、そのような取るに足らない音楽と思われているものを、この「エオリアンハープ」は深い幻想性にあふれた音楽として鳴り響かせているのです。
そして、それは「主情性」に満ちた解釈などという、訳知り顔の言葉を使うことが恥ずかしくなるほどの無垢さで鳴り響かせてしまうのです。

そして、突飛な発想で申し訳ないのですが、この録音を聞いていてふと思い出したのが津軽三味線の高橋竹山でした。
竹山は撥を三味線に叩きつけるようにして迫力で勝負していた津軽三味線を、撥で弦を掬うようにして美しく響かせるようにした人でした。
ここで聞けるケンプのピアノの響きもまた、それとどこかに通ったものがあるように感じたのです。

そして、これを強靱なタッチで豪快に演奏するテクニックを持ったピアニストは何人いるでしょうが、このケンプのような繊細で美しい響きで幻想的に歌わせることの出来るピアニストは他にはなかなか思い当たらないのです。
ただし、リストの協奏曲がこのように演奏されるべきだといっているわけではないので、その点は誤解のないようにしてください。

しかし、こういう美しいリストが演奏できる人がいなくなったことは残念なことです。

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