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ベートーベン:序曲「レオノーレ」第3番 Op. 72b

カレル・アンチェル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年9月録音を再生する

Beethoven:Leonora Overture No.3 in C major, Op.72b


彫琢の限りを尽くした作品

ベートーベンは生涯にたった一つの歌劇しか残しませんでしたが、そのたった一つのために9年もの歳月を費やしています。そして、その改作のたびに彼は新しい序曲を作曲しましたので、後世の私たちはなんと幸いなことに合計で4曲もの素晴らしい管弦楽作品をもつことで出来たのです。
その改作の履歴と序曲の関係を簡単に振り返っておきましょう。


  1. 「レオノーレ」序曲第1番(1805年)
    この作品はベートーベンの死後に遺品の競売に際して発見されたもので、実際に歌劇の序曲として演奏されたことはありません。おそらくは1805年に作曲されたものと思われリヒノフスキー邸で試演もされたようです。
    しかし、作品そのものが歌劇の序曲としては軽すぎると言うことでベートーベン自身も不満があり、さらには周辺の人々も好意的ではなかったためにお蔵入りになってしまったようです。
    なお自筆楽譜には「性格的序曲」としか記述されていないのですが、フロレスタンのアリアの引用などがなされていることから、間違いなくフィデリオの序曲として考案されたものと思われます。

  2. 「レオノーレ」序曲第2番(1805年:第1版)
    フィデリオの初演はナポレオンの軍隊がウィーンの町を占領する中で行われたために成功をおさめることは出来ず、わずか3日で上演は打ち切られます。
    それは、フランス語しか解さないフランスの兵士が聴衆の大部分を占める中でドイツ語による歌劇を上演したのですからやむを得なかった結果だと言えます。
    今日、「レオノーレ」序曲第2番と呼ばれる作品は、この初演の時に使用された序曲です。ですから、フィデリオの序曲としてはこの作品はわずか3日にしか演奏されなかったことになります。

  3. 「レオノーレ」序曲第3番(1806年:第2版)
    初演の大失敗を反省して、3幕だったフィデリオを2幕構成の作品に大改訂し、さらに序曲の方も大幅に改訂してほとんど新作といっていいほどの作品が生み出されます。それが今日、「レオノーレ」序曲第3番と呼ばれる作品です。
    この作品はその後フィデリオ序曲が作曲されることで歌劇の序曲としてのポジションは失うのですが、純粋に管弦楽作品として見ても傑出した作品であるために、今ではコンサート・レパートリーとして演奏されるようになっています。
    さらには、マーラーが始めたと言われているのですが、聴衆へのサービスとして第2幕第2場の前に演奏されることが一つの習慣として定着しています。(最近は原点尊重と言うことでこのサービスをカットする上演も増えてきているようです)




息を止めて一気に駆け抜けていくような音楽

ほんの軽い気持ちで聞いてみたのですが、その凄まじさには圧倒されてしまいました。
もちろん、ベートーベンの音楽というのはそう言う「凄まじさ」を内包してるモノが多いのですが、それでも、これほどまでの集中力を持ってパワーを爆発させた演奏も珍しいのではないでしょうか。

アンチェルの録音はそれほど多く聞いてきたわけではないのですが、それでも静けさの漂う純度の高い音楽を追究した人というイメージはありました。
そう言うアンチェルが、このようにパワー漲る直進性にあふれた演奏をしていたという事にいささか驚かされました。

そう言えば、フリッチャイの録音を取り上げて、読みようによってはフルトヴェングラーの猿真似をしたと誤解を招きそうなことを書いてしまったのですが、それでもあそこではフルトヴェングラーを思わせるような深くて大きな呼吸が息づいていたことは事実です。
それと比べれば、このアンチェルの演奏は息を止めて一気に駆け抜けていくような音楽です。たとえてみれば、無酸素運動系の限界に挑戦したような演奏なのです。

ですから、この早めのテンポは、それでもおそらくは限界でしょう。
これよりも少しでも遅くなれば、息を止めたまま駆け抜けることは不可能だったはずです。

そして、その結果として、フリッチャイでは音楽は内へ内へと沈み込んでいたのとは真逆で、アンチェルの音楽はひたすら外に向かってエネルギーを放出していくのです。そして、やや強めのアタックで外へと放射していく音楽に接すると、ふとピアニストのアニー・フィッシャーの顔が浮かんできました。

フィッシャーはハンガリー。アンチェルはチェコですし、両者の間には何の接点もないとは思うのですが、不思議なほどに共通点を感じてしまう演奏だったのです。

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