クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|カサドシュ(Robert Casadesus)|モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467

モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467

(P)ロベルト・カサドシュ:ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1966年12月8日録音

Mozart:Piano Concerto No.21 in C major, K.467 [1.Allegro maestoso]

Mozart:Piano Concerto No.21 in C major, K.467 [2.Andante]

Mozart:Piano Concerto No.21 in C major, K.467 [3.Allegro vivace assai]


ここには断絶があります。


  1. 第20番 K.466:1785年2月10日完成

  2. 第21番 K.467:1785年3月9日完成

  3. 第22番 K.482:1785年12月16日完成

  4. 第23番 K.488:1786年3月2日完成

  5. 第24番 K.466:1786年3月24日完成

  6. 第25番 K.491:1786年12月4日完成




9番「ジュノーム」で一瞬顔をのぞかせた「断絶」がはっきりと姿を現し、それが拡大していきます。それが20番以降の作品の特徴です。
そして、その拡大は24番のハ短調のコンチェルトで行き着くところまで行き着きます。そして、このような断絶が当時の軽佻浮薄なウィーンの聴衆に受け入れられずモーツァルトの人生は転落していったのだと解説されてきました。

しかし、事実は少し違うようです。
たとえば、有名なニ短調の協奏曲が初演された演奏会には、たまたまウィーンを訪れていた父のレオポルドも参加しています。そして娘のナンネルにその演奏会がいかに素晴らしく成功したものだったかを手紙で伝えています。
そして、これに続く21番のハ長調協奏曲が初演された演奏会でも客は大入り満員であり、その一夜で普通の人の一年分の年収に当たるお金を稼ぎ出していることもレオポルドは手紙の中に驚きを持ってしたためています。

そして、この状況は1786年においても大きな違いはないようなのです。
ですから、ニ短調協奏曲以後の世界にウィーンの聴衆がついてこれなかったというのは事実に照らしてみれば少し異なるといわざるをえません。

ただし、作品の方は14番から19番の世界とはがらりと変わります。
それは、おそらくは23番、25番というおそらくは85年に着手されたと思われる作品でも、それがこの時代に完成されることによって前者の作品群とはがらりと風貌を異にしていることでも分かります。

それが、この時代に着手されこの時代に完成された作品であるならば、その違いは一目瞭然です。
とりわけ24番のハ短調協奏曲は第1楽章の主題は12音のすべてがつかわれているという異形のスタイルであり、「12音技法の先駆け」といわれるほどの前衛性を持っています。

また、第3楽章の巨大な変奏曲形式もきくものの心に深く刻み込まれる偉大さを持っています。
それ以外にも、一瞬地獄のそこをのぞき込むようなニ短調協奏曲の出だしのシンコペーションといい、21番のハ長調協奏曲第2楽章の天国的な美しさといい、どれをとっても他に比べるもののない独自性を誇っています。

これ以後、ベートーベンを初めとして多くの作曲家がこのジャンルの作品に挑戦をしてきますが、本質的な部分においてこのモーツァルトの作品をこえていないようにさえ見えます。


セルの知られざる一面

海賊盤の音源を持ってくるのはセルに対して申し訳ないような気もするのですが、それでもスタジオ録音とは違う姿を垣間見ることが出来るのは貴重です。
もちろん、その「違うところ」が記録として残ってしまうことをセルは良しとしないことはよく分かっているのですが、それでも「見られないものが見られる」事への誘惑にはあらがえないのです。

まずは、なんと言っても、低声部の響きがこのコンビによるモーツァルトは思えないほどに分厚いのです。いや、モーツァルトでなくても、ここまで分厚く低声部をならしているスタジオ録音は聞いたことがありません。
ましてや、それがモーツァルトであれば、常に白磁を思わせるような透明感に満ちた世界が展開されるのが常でしたから、そのようなスタジオ録音の響きとは大きな落差があります。

(P)ロベルト・カサドシュ:ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1966年12月8日録音


ただし、定期公演のライブ録音ですから、録音のクオリティに関しては問題があります。それがどこまでこのコンビの響きを捉え切れているかは疑問です。とりわけ、この日の録音のクオリティは芳しくありません。

ですから、この低声部の分厚さはこのコンビにしては「異常」なのですが、その「異常」は録音のクオリティが足をひっぱている可能性は否定できません。
それでも録音の方向性によって全く異なる響きになるとも思えないので、やはりこの日のモーツァルトはかなり分厚めの響きで演奏されたことは間違いないようです。

また、スタジオ録音では管弦楽曲のピアノパートを演奏しているようなカサドシュも、ここでは肩の力を抜いてかなり自由に振る舞っているように聞こえます。

セルという男は、独奏楽器が主役になる協奏曲においてもその美学は貫きたい人だったので、ピアニストもまたセルの美学にあわせることを求めました。
世間的には決して評価の高くないカサドシュをセルが重用したのも、まさにそのような理由によるものでした。

スタジオ録音で聞くことのできるカサドシュはいつも清楚で淡々と演奏していて、常にスタイリッシュで、「俺が俺が」と前面に出ていく灰汁の強さがほとんど感じられない人でした。
ところが、ここで聞くことのできるカサドシュは肩の力を抜いて楽しそうに演奏していて、ピアノパートつきの管弦楽曲と言われることもあったスタジオ録音とは様子が随分違います。

ただし、結果として、常に完璧と言われたセル&クリーブランド管の響きとは違って、バランス的には崩れている場面が頻出します。
頻出するのですが、おそらくモーツァルトの音楽には絶対必要だと思われる管楽器の美しい響きが前面に出てくるという美点も感じます。
それは、時にはハッとするほどに美しい場面をあちこちでつくり出しています。

つまりは、セルもまた気心の知れたカサドシュとの共演と言うこともあって、おそらくは手綱をかなり緩めて、ソリストとオケにゆだねている部分が大きかったのでしょう。
しかしながら、それはセルの美学から言えば本線をずれたスタイルであったことは間違いありません。

しかしながら、長年にわたるセルの聞き手としては、それ故に、セルの知られざる一面としてどうしても紹介したくなってしまうのです。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



3239 Rating: 5.1/10 (135 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-10-02]

J.S.バッハ:幻想曲 ハ短調 BWV.562(Bach:Fantasia and Fugue in C minor, BWV 562)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

[2025-09-30]

ベートーベン:合唱幻想曲 ハ短調 Op.80(Beethoven:Fantasia in C minor for Piano, Chorus and Orchestra, Op.80)
(P)ハンス・リヒター=ハーザー カール・ベーム指揮 ウィーン交響楽団 ウィーン国立歌劇場合唱団 (S)テレサ・シュティヒ=ランダル (A)ヒルデ・レッセル=マイダン (T)アントン・デルモータ (Br)パウル・シェフラ 1957年6月録音(Hans Richter-Haaser:(Con)Karl Bohm Wiener Wiener Symphoniker Staatsopernchor (S)Teresa Stich-Randall (A)Hilde Rossel-Majdan (T)Anton Dermota (Br)Paul Schoffler Recorded on June, 1957)

[2025-09-28]

エルガー:コケイン序曲 Op.40(Elgar:Cockaigne Overture, Op.40)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962年5月9日&8月27日録音(Sir John Barbirolli:The Philharmonia Orchestra Recorded on May 9&August 27, 1962)

[2025-09-26]

ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60(Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major ,Op.60)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1962年1月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on January, 1962)

[2025-09-24]

フォーレ:夜想曲第3番 変イ長調 作品33-3(Faure:Nocturne No.3 in A-flat major, Op.33 No.3)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-09-22]

ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op. 51-2(Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2)
アマデウス弦楽四重奏団 1955年2月11日~12日&14日録音(Amadeus String Quartet:Recorde in February 11-12&14, 1955)

[2025-09-20]

エルガー:序曲「フロワッサール」, Op.19(Elgar:Froissart, Op.19)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年7月14日~16日録音(Sir John Barbirolli:New Philharmonia Orchestra Recorded on July 14-16, 1966)

[2025-09-18]

バッハ:トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV.564(Bach:Toccata, Adagio and Fugue in C major, BWV 564)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

[2025-09-16]

メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 Op.54(Mendelssohn:Variations Serieuses, Op.54)
(P)エリック・ハイドシェック:1957年9月20日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n September 20, 1957)

[2025-09-14]

フランク:天使の糧(Franck:Panis Angelicus)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)