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ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98

マルケヴィッチ指揮 ラムルー管弦楽団 1958年11月20日~24日録音

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [1.Allegro non troppo]

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [2.Andante moderato]

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [3.Allegro giocoso]

Brahms:Symphony No. 4 in E Minor, Op. 98 [4.Allegro energico e passionato]


とんでもない「へそ曲がり」の作品

ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。

 この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
 形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
 それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。

 
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。

 この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。
 冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!

 それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
 新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?

 控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。


喧嘩上等

あらためてマルケヴィッチとラムルー管のコンビは凄かったと思わせてくれる一枚です。

楽譜に忠実とか、作曲者の意図に忠実などと言うことはよく言われることですが、それは何も考えずに音符を音に変換して垂れ流すことと同義であるはずがありません。
確かにこの作品には老境をむかえたブラームスの深いため息や苦い諦観がにじみ出していることは事実です。
しかし、そう言う「前提」をもとに「スコア」を検討するのと、スコアの徹底的な「検討」をもとにそう言う「解釈」に至るのとでは、見た目は似ていてもその本質において全く異なった営みだと言わざるを得ません。

最初から結果ありきで、適当に予定調和的に事を進めて、最後は「はいこうなりました」と言われても、聞き手の方は「はい、分かりました」とはならないのです。

もっとも、「今日はブラームス、明日はマーラー、そして来週は別の町でバルトークを振るモンね!」等という稼業ならば、ある程度は「予定調和的」にやっていかないと身が持たないのでしょう。
それが指揮者として飯を食っていくために避けられないのならば、過剰なまでにコンサートが溢れるなかで何という貧困化が進行していることでしょうか。

ここでのマルケヴィッチには、そう言う「予定調和」などはどこを探しても見つかりません。

スコアを通して彼の目に映ったブラームスの姿は、若い頃のファーストシンフォニーにおいても、そしてこの老境のなかで書き上げたラストシンフォニーにしても、本質的には何の替わりもないと映じたのです。そして、スコアがその様に語りかけるならば、それを現実の形に変換することに何の躊躇いもなかったのです。

それは、鈍な聞き手が「あのー、これって1番じゃくなて4番なんですが・・・」などと阿呆のようなことを言ってきたとしても、そんな事は知ったことではないのです。
何故ならば、第4番のシンフォニーとはこのような音楽であることをスコア自身が語りかけたのですから。

マルケヴィッチとラムルー管は第1楽章からアクセル全開です。
その豪快で強靱な響きは世に言われる渋い4番のイメージとはかけ離れていますし、その恐ろしいまでの推進力に満ちた音楽は青春の鬱屈をぶちまけたファーストシンフォニーのように響きます。

第2楽章にはいると、少し落ち着いた感じになって一瞬はホッとするのですが、それもつかの間で、あっという間に感情は爆発して「突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です」などと言うような柔な世界はどこかへ吹っ飛ばしていきます。

そして、最終楽章の「パッサカリア」からは「深くにじみ出す諦念の苦さ」などはどこを探しても見つかりません。
逆に、そこにあるのは、いささか言葉が悪くて恐縮なのですが「どっからでも、かかってこんかい!」と大阪弁でまくし立てるような「喧嘩上等」のファイティングポーズとスピリットです。フッと鬱屈した感情がよぎる場面がないわけではないのですが、それも一瞬のことで再びファイティングポーズをとるのです。

それは、自分のことを時代遅れの男と馬鹿にしながらも「敬して遠ざけよう」とする世の姿への皮肉などと言うようなものではなくて、未だに世に抗って戦い続ける男の姿が刻み込まれていることをマルケヴィッチは見たのです。

それにして、そんなマルケヴィッチに文句も言わずについて行ったラムルー管も見事なものです。
いや、「あんなラムルー管(^^;」でもいうことを聞かせて引っ張っていったマルケヴィッチこそが凄いのでしょうか?

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