クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~



AmazonでCDをさがすAmazonでリリー・クラウス(Lili Kraus)のCDをさがす
Home|リリー・クラウス(Lili Kraus)|モーツァルト:グラスハーモニカのためのアダージョとロンド ハ短調 K.617

モーツァルト:グラスハーモニカのためのアダージョとロンド ハ短調 K.617

(Celesta)リリークラウス (Fl)ジャン-ピエール・ランパル (Ob)ピエール・ピエルロ (Vc)エティエンヌ・パスキエ (Va)ピエール・パスキエ 1955年録音

Mozart:Adagio and Rondo in C minor, K.617


モーツァルト最晩年の奇蹟のような音楽

モーツァルト最晩年の作品の一つです。作曲されたのは1791年の5月23日という細かい日付まで分かっています。彼はこの年の12月5日に世を去っていますから、この後には半年あまりの時間しか残されていなかったことになります。しかし、残された記録によると、この時に彼の体調が悪化していた様子はうかがえず、経済的な苦境を乗り切るために精力的に作曲活動を行っています。
そして、妻のコンスタンツェはその様な経済的苦境にもかかわらず、翌6月の4日からウィーン近郊のバーデンに湯治に出かけます。このような濫費癖ゆえにコンスタンツェは悪妻というレッテルを貼られるのですが、モーツァルトはそんな妻に対してあまり上品ではないけれども愛情のこもった手紙を送り、15日には彼自身もバーデンに出向いて妻を見舞っています。
そして、湯治療養中の妻の面倒を見てくれていた教会の合唱長のために一つの合唱曲をプレゼントします。

この二つの作品は何の関連もないのですが、作曲時期が近いのでケッヘル番号ではそれぞれ「K.617」「K.618」という並び数字を与えられています。しかし、そんな事よりも、この二つはともにモーツァルト最晩年の奇蹟のような音楽になっているという点こそが注目すべき共通点です。


  1. アダージョとロンド K.617

  2. アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618



ただし、「アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618」が奇蹟のような音楽であることはよく知られていますが、「アダージョとロンド K.617」の知名度は大きくありません。
その理由として、この作品は「グラス・ハーモニカ」というきわめて珍しい楽器のために作られていることがあげられます。この楽器は今ではほとんど滅んでしまっているのですが、「調律された円盤状のガラスを同心円状に平行軸に据え付けたもの」と説明されています。
分かりますか?(^^;分からないですよね。

そこで、ネット上から実物の写真を探してきました。

グラスハーモニカ

モーツァルトの時代には音域も4オクターブ(C~C''')まで拡大され、さらには演奏の名手も現れて19世紀の初め頃までは大変流行した楽器だったようです。
そして、モーツァルトのこの作品も、その様な名手の一人であるマリアンネ・キルヒゲスナーという盲目の女性と出会うことで生み出されました。

この楽器は、言ってみれば水を入れたワイングラスの縁を濡れた指でなぞれば音が出るという理屈を採用したものです。音は小さいもののその響きは精妙で天国的でした。そして、モーツァルトはその様な楽器の響きにも見せられたのか、この盲目のマリアンネのために独奏用の作品(K.356)とグラスハーモニカのための五重奏曲(K.617)を生み出したのです。

低弦楽器(ヴィオラ・チェロ)はクッションのような柔らかい伴奏に徹し、その上でグラスハーモニカと管楽器(フルート・オーボエ)が多彩な対話を交わします。
アダージョとロンドという単純な形式、複雑な和和声進行もなければ華美な装飾もないという、この上もないほどにシンプルな音楽は純化の極みといえます。そして、その純化の果てから疑いもなく神の声が聞こえてくるような気がします。


緩いけれども美しい!!

この録音ではグラスハーモニカの変わりにチェレスタが用いられています。この二つは響きという点では随分と異なりますのでいかがなものかと思われるのですが、グラスハーモニカ自身がほとんど滅んでしまった楽器なので致し方ないのでしょうか。
グラスハーモニカは構造的には鍵盤楽器に近いのですが、響き自体は擦って音を出すので弦楽器に近いような気がします。しかし、ヴァイオリンを使って代用するのは変な感じですので、もしかしたら普通のハーモニカあたりを使う方がいいのかもしれません。

しかし、そんな些細なことは脇においても、この録音は不思議な魅力を持っています。
冒頭の部分を聞いた瞬間、頭の中を「これって小学校の学芸会?」という思いがよぎります。

しかし、メンバーリストを確認するとこうなっています。


  1. チェレスタ(グラスハーモニカの代用):リリークラウス

  2. フルート:ジャン-ピエール・ランパル

  3. オーボエ:ピエール・ピエルロ

  4. チェロ:エティエンヌ・パスキエ

  5. ヴィオラ:ピエール・パスキエ




ランパルとクラウスについては説明不要、二人のパスキエはヴァイオリンのジャン・パスキエを加えて「パスキエ・トリオ」として活躍した音楽家です。オーボエのピエール・ピエルロもフランスを代表するオーボエ奏者でした。
ですから、小学校の学芸会になるはずはないのですが、何ともいえず寛いだ緩い演奏です。しかし、音楽の中間部に入ってくるとその緩さが何ともいえない美しさに満ちてきます。そして、この「美しさ」は精緻なアンサンブルの積み重ねからは生まれない性質のものであることも容易に納得させてくれます。
ももちろん、これが唯一の解でないことは事実ですが、それでもモーツァルト最晩年の奇蹟のような音楽には通常のアプローチではその素晴らしさに迫れないことを、この演奏は教えてくれます。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



2416 Rating: 5.1/10 (93 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2015-10-13:風琴屋





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-04-18]

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調, Op.85(Elgar:Cello Concerto in E minor, Op.38)
(Cello)アンドレ・ナヴァラ:サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1957年録音(Andre Navarra:(Con)Sir John Barbirolli:Halle Orchestra Recorded on 1957)

[2024-04-16]

フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1947年5月7日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on May 7, 1947)

[2024-04-14]

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」, Op.62(Beethoven:Coriolan, Op.62)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1945年6月1日録音(Arturo Toscanini:NBC Symphony Orchestra Recorded on June 1, 1945)

[2024-04-12]

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第3番 ト長調 K.156/134b(Mozart:String Quartet No. 3 in G Major, K. 156)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-04-10]

ハイドン:弦楽四重奏曲第1番 変ロ長調「狩」,Op. 1, No. 1, Hob.III:1(Haydn:String Quartet No.1 in B-Flat Major, Op. 1, No.1, Hob.3:1, "La chasse" )
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1938年6月5日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on June 5, 1938)

[2024-04-08]

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18(Rachmaninov:Piano Concerto No.2 in C minor, Op.18)
(P)ジェルジ・シャーンドル:アルトゥール・ロジンスキ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1946年1月2日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Artur Rodzinski New York Philharmonic Recorded on January 2, 1946)

[2024-04-06]

シベリウス:交響的幻想曲「ポヒョラの娘」(Sibelius:Pohjola's Daughter - Symphonic Fantasy Op.49)
カレル・アンチェル指揮:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年6月7日~8日録音(Karel Ancerl:The Czech Philharmonic Orchestra Recorded on June 7-8, 1962)

[2024-04-04]

ベートーヴェン:ロマンス 第2番 ヘ長調, Op.50(Beethoven:Romance for Violin and Orchestra No.2 in F major, Op.50)
(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:ジャン・モレル指揮 コロンビア交響楽団 1952年4月23日録音(Zino Francescatti:(Con)Jean Morel Columbia Symphony Orchestra Recorded on April 23, 1952)

[2024-04-02]

バルトーク:弦楽四重奏曲第6番, Sz.114(Bartok:String Quartet No.6, Sz.114)
ヴェーグ弦楽四重奏団:1954年7月録音(Quatuor Vegh:Recorded on July, 1954)

[2024-03-31]

ベートーヴェン:ロマンス 第1番 ト長調, Op.40(Beethoven:Romance for Violin and Orchestra No.1 in G major, Op.40)
(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:ジャン・モレル指揮 コロンビア交響楽団 1952年4月23日録音(Zino Francescatti:(Con)Jean Morel Columbia Symphony Orchestra Recorded on April 23, 1952)