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Home|ヨーゼフ・カイルベルト(Joseph Keilberth)|モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調 K.504 「プラハ」

モーツァルト:交響曲第38番 ニ長調 K.504 「プラハ」

カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1955年録音

Mozart:Symphony No.38 in D maj

Mozart:Symphony No.38 in D maj

Mozart:Symphony No.38 in D maj


複雑さの極みに成立している音楽

1783年にわずか4日で「リンツ・シンフォニー」を仕上げたモーツァルトはその後3年にもわたってこのジャンルに取り組むことはありませんでした。40年にも満たないモーツァルトの人生において3年というのは決して短い時間ではありません。その様な長いブランクの後に生み出されたのが38番のシンフォニーで、通称「プラハ」と呼ばれる作品です。

前作のリンツが単純さのなかの清明さが特徴だとすれば、このプラハはそれとは全く正反対の性格を持っています。
冒頭部分はともに長大な序奏ではじまるところは同じですが、こちらの序奏部はまるで「ドン・ジョバンニ」を連想させるような緊張感に満ちています。そして、その様な暗い緊張感を突き抜けてアレグロの主部がはじまる部分はリンツと相似形ですが、その対照はより見事であり次元の違いを感じさせます。そして、それに続くしなやかな歌に満ちたメロディが胸を打ち、それに続いていくつもの声部が複雑に絡み合いながら展開されていく様はジュピターのフィナーレを思わせるものがあります。
つまり、こちらは複雑さの極みに成り立っている作品でありながら、モーツァルトの天才がその様な複雑さを聞き手に全く感じさせないと言う希有の作品だと言うことです。

第2楽章の素晴らしい歌に満ちた音楽も、最終楽章の胸のすくような音楽も、じっくりと聴いてみると全てこの上もない複雑さの上に成り立っていながら、全くその様な複雑さを感じさせません。プラハでの初演で聴衆が熱狂的にこの作品を受け入れたというのは宜なるかなです。
伝えられた話では、熱狂的な拍手の中から「フィガロから何か一曲を!」の声が挙がったそうです。それにこたえてモーツァルトはピアノに向かい「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」を即興で12の変奏曲に仕立てて見せたそうです。もちろん、音楽はその場限りのものとして消えてしまって楽譜は残っていません。チェリが聞けば泣いて喜びそうなエピソードです。


古き良きドイツのロマンティックなモーツァルト

最初の音が出てきた瞬間「野太い!!」と思って、いささか違和感を感じてしまうのはどうして?
もしかしたら、口ではピリオド演奏は否定しながらも、いつの間にかその響きに影響を受けてしまっているのでしょうか?

とはいえ、低域部をしっかりと鳴らし切ったどっしりとした響きは、例えばワルター最晩年のステレオ録音と較べてもかなりの重量級です。あのワルターのモーツァルトは、オケの響きは確かに低声部のしっかりとした響き基本としたピラミッド型の響きが特徴なのですが、全体としては内部の見通しが良くて、意外なほどにシャープな演奏に仕上がっています。それに対して、このカイルベルトの演奏は響きはどっしり、造形はごっついと言うことで、なんだかモーツァルトの優美さよりはベートーベンの剛毅さに近いような気がしてしまいます。

おそらく、こうなってしまう背景にオケのDNAみたいなものがあるのでしょう。
バンベルク交響楽団というのは、第2次世界大戦の敗北によってチェコから追放されたドイツ人によって結成されたオケです。

この「ドイツ人追放」は日本ではあまり知られていない事実です。
日本人が敗戦によって大陸から引き揚げたのは植民地支配の延長線上に起こった出来事です。しかし、この「ドイツ人追放」というのは父祖伝来の土地であったにもかかわらず、民族としてドイツ人というだけで追放されたのですから、かなり悲劇的な出来事だったようです。
追放した側にもそれなりの理由はあったのでしょうが、結果として1000万人を超えるドイツ人が生まれ育った地から追放され、その追放の途上で少なく見積もっても210万人が亡くなったとされています。

バンベルク交響楽団のメンバーはその様な過去を背負っていますから、どうしても「ドイツ」と言うことを意識せざるを得なかったのでしょう。結果として、ドイツ国内のどのオケよりもドイツらしいオケになったようです。
もちろん、「ドイツ的」という言葉の曖昧さや安易さはよく分かっています。「ドイツ的」とか「ウィーン風」とか、はたまた「アメリカナイズ」などという言葉で分かったような気になる安易さは警戒しなければなりません。しかし、ドイツのオケには、とりわけコスモポリタン化する以前のドイツのオケには、確かに他の国のオケにはない特徴があったことも事実です。
そして、その特徴を言葉だけで表現するのに困難を覚えたときに、取りあえずこれを聞いてくれと言って提示したくなるのが「カイルベルト&バンベルク交響楽団」がたたき出す響きと造形です。

ちなみに、このコンビでモーツァルトの後期交響曲を以下のように録音しています。


  1. 交響曲第35番「ハフナー」 K385 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1963年録音

  2. 交響曲第36番 ハ長調 「リンツ」 K386 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1963年録音

  3. 交響曲第38番 ニ長調 K.504 「プラハ」 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1955年録音

  4. 交響曲第39番 変ホ長調 K.543 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1955年録音

  5. 交響曲第40番 ト短調 K.550 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音

  6. 交響曲第41番 ハ長調 "Jupiter" K.551 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音



さらにこのコンビの最大の美点は管楽器の伸びやかな美しさです。その美点はこの交響曲の中でも十分に感じ取れますが、それ以上に堪能できるのがセレナードやディヴェルティメントです。曲のあちこちで管楽器が実に楽しげに飛び跳ねます。特に、「ディヴェルティメント第2番」などは出色です。
交響曲では少し重いかなと(かなり重い・・・?^^;)と思ったのですが、この飛び跳ねる管楽器とそれを支える弦楽器の絡み合いは、これぞ古き良きドイツのロマンティックなモーツァルトだと納得させられます。


  1. セレナード第6番 ニ長調 K.239「セレナータ・ノットゥルナ」 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音

  2. セレナード(ノットゥルノ)第8番 ニ長調 K.286(269a) : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音

  3. セレナード第13番 ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音

  4. ディヴェルティメント第2番 ニ長調 K.131 : カイルベルト指揮 バンベルク交響楽団 1959年録音

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