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ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」

クリップス指揮 ロンドン交響楽団 1961年1月録音

Beethoven:Symphony No 3 in E-Flat major, Op.55 "Eroica" [1st movement]

Beethoven:Symphony No 3 in E-Flat major, Op.55 "Eroica" [2nd movement]

Beethoven:Symphony No 3 in E-Flat major, Op.55 "Eroica" [3rd movement]

Beethoven:Symphony No 3 in E-Flat major, Op.55 "Eroica" [4th movement]


音楽史における最大の奇跡

今日のコンサートプログラムにおいて「交響曲」というジャンルはそのもっとも重要なポジションを占めています。しかし、この音楽形式が誕生のはじめからそのような地位を占めていたわけではありません。
 浅学にして、その歴史を詳細につづる力はありませんが、ハイドンがその様式を確立し、モーツァルトがそれを受け継ぎ、ベートーベンが完成させたといって大きな間違いはないでしょう。

 特に重要なのが、この「エロイカ」と呼ばれるベートーベンの第3交響曲です。
 ハイリゲンシュタットの遺書とセットになって語られることが多い作品です。人生における危機的状況をくぐり抜けた一人の男が、そこで味わった人生の重みをすべて投げ込んだ音楽となっています。

 ハイドンからモーツァルト、そしてベートーベンの1,2番の交響曲を概観してみると、そこには着実な連続性をみることができます。たとえば、ベートーベンの第1交響曲を聞けば、それは疑いもなくモーツァルトのジュピターの後継者であることを誰もが納得できます。
 そして第2交響曲は1番をさらに発展させた立派な交響曲であることに異論はないでしょう。

 ところが、このエロイカが第2交響曲を継承させ発展させたものかと問われれば躊躇せざるを得ません。それほどまでに、この二つの間には大きな溝が横たわっています。

 エロイカにおいては、形式や様式というものは二次的な意味しか与えられていません。優先されているのは、そこで表現されるべき「人間的真実」であり、その目的のためにはいかなる表現方法も辞さないという確固たる姿勢が貫かれています。
 たとえば、第2楽章の中間部で鳴り響くトランペットの音は、当時の聴衆には何かの間違いとしか思えなかったようです。第1、第2というすばらしい「傑作」を書き上げたベートーベンが、どうして急にこんな「へんてこりんな音楽」を書いたのかと訝ったという話も伝わっています。

 それほどまでに、この作品は時代の常識を突き抜けていました。
 しかし、この飛躍によってこそ、交響曲がクラシック音楽における最も重要な音楽形式の一つとなりました。いや、それどことろか、クラシック音楽という芸術そのものを新しい時代へと飛躍させました。
 事物というものは着実な積み重ねと前進だけで壁を突破するのではなく、時にこのような劇的な飛躍によって新しい局面が切り開かれるものだという事を改めて確認させてくれます。

 その事を思えば、エロイカこそが交響曲というジャンルにおける最高の作品であり、それどころか、クラシック音楽という芸術分野における最高の作品であることを確信しています。
 それも、「One of the Best」ではなく、「The Best」であると確信しています。


ウィーンへの意趣返し

クリップスのベートーベンはこの時代の巨匠たちのような強烈な個性は全くありません。始めから終わりまで、至って自然体で、楽譜をそのまま音にしただけのような演奏に聞こえます。しかし、何も考えずに楽譜を音にしただけではこのような自然体で音楽は実現できません。ここには、音楽をあるがままの自然体で構築しようという強い意志が貫徹しています。


クリップスはウィーン生まれの指揮者であり、ワインガルトナーの弟子と言うことになれば、これはもうドイツ・オーストリア系の正当派指揮者というイメージが浮かび上がります。
しかし、ヨーロッパでの評価はあまり高くありません。
特に、ルーペルト・シェトレの「舞台裏の神々 指揮者と楽員の楽屋話」に紹介されているエピソードなどを見る限りでは、随分とオケ(ウィーンフィル)のメンバーからいじめられたようです。特に、絶対音感がないというコンプレックスを標的にした嫌がらせは、読んでいてあまり気持ちの良いものではありません。

考えてみれば、これは不思議なことです。
何故ならば、ナチスによって迫害された経歴を持ちながら、そのナチスとの関係で苦境に立たされたウィーンの歌劇場に救いの手をさしのべたのがクリップスだったからです。
ところが、困った時に差し伸べてくれた手は有り難く握りしめても、一息つければそんな手にすがった己の過去を「恥」と考えて、今度はそう言う「恥」を覆い隠すために悪し様に扱って追い出してしまったのです。
もちろん、考えようによってはそれが「都市」というものの本性であり、まさにそのような振る舞いこそがウィーンという街なのでしょう。

しかし、最近のネット事情を見てみると、日本の、それもどちらかといえば専門家筋のあたりからクリップス再評価の動きがあるようです。特に、61年の1月に集中的にスタジオ録音されたベートーベンの交響曲全集の評価が意外なほど高いのです。
なおこの録音はデッカやEMIのような老舗レーベルではなくEVERESTという新興レーベルによって企画されました。

EVERESTは1950年代後半に35ミリ磁気テープを用いた録音で驚異的な音の良さを実現したことで知られているのですが、こういう手堅い指揮者を登用することで、演奏の方にも十分な気配りをしていたあたりは偉いものです。

クリップスのベートーベンはこの時代の巨匠たちのような、聞けばすぐに誰の演奏かが分かるような強烈な個性は全くありません。
始めから終わりまで、至って自然体で、楽譜をそのまま音にしただけのような演奏に聞こえます。しかし、これは注意が必要なことなのですが、何も考えずに楽譜を音にしただけの演奏だと、このような自然体で音楽が気持ちよく流れていくことはありません。
音楽をあるがままの自然体で流そうと思えば、そうなるような意志が貫徹していなければいけませんし、そのような意志が希薄になるととたんに音楽は不自然なものになってしまうのです。

そう言う意味では、この演奏をウィーン風の典雅で滋味あふれるベートーベンだと書いている人もいるのですが、私にはどちらかというアメリカ的な、それもセルのような方向性が感じ取れるのです。
ただし、ここにはセル&クリーブランド管のような「凄み」はありませんから、聞く方にしてみればもう少し気楽構えて聞いていられます。

深読みかもしれませんが、なんだかこの録音は、クリップスなりのウィーンへの意趣返しのような気がします。

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