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モーツァルト:ヴァイオリンソナタ第38番 ハ長調 K.403(385c)


(P)リリー・クラウス (Vn)ボスコフスキー 1957年5月3日録音を再生する

Mozart:Sonata in C for Keyboard and Violin, K. 403 [1st movement]

Mozart:Sonata in C for Keyboard and Violin, K. 403 [2nd movement]

未完に終わった一連のヴァイオリンソナタ

ケッヘル番号で言うと、K.402,K.403,K.396,K.404の4作品はモーツァルトが3曲、もしくは6曲からなるソナタを書こうとしながら放棄されたものと考えられています。

作曲されたのは自筆楽譜に使われている用紙から1784年だろうと推測されています。
モーツァルトにとって1784年という年はウィーンに移り住んで4年目にあたる年です。そのころのモーツァルトと言えば売れっ子のピアニストとして人気が絶頂に達した頃でした。おそらく、あまりにも忙しすぎて、こんな小品を仕上げている余裕がなかったのでしょう。
その事は、この年に完成された唯一のヴァイオリンソナタであるK.454についてエピソードからも垣間見られます。

は、モーツァルトは父親に宛てた手紙でふれていますからその成立状況はよく分かっています。そして、それはモーツァルトの「天才伝説」を彩るエピソードの一つでもあります。
K.454のヴァイオリンソナタは、当時ウィーンを訪れていたストリナサッキというヴァイオリニストのために作曲されたものなのですが、皇帝列席の演奏会で披露されることになりました。しかし、あまりの忙しさ故に演奏会当日までにはヴァイオリンのパートしか楽譜が完成しなかったために、モーツァルトは白紙の楽譜を前にピアノを演奏したというのです。
もしも、皇帝列席の演奏会で演奏されることがなければ、K.454のソナタも未完成作品の仲間入りをしていたかもしれません。

なお、これらの未完のソナタは、モーツァルトの死後、妻コンスタンツェの求めによってシュタードラーが完成させています。ですから、K.55~K.61までのような「偽作」とは違うのですが、少なくない部分に他人の手が入っていることは承知しておく必要があります。

ヴァイオリンソナタ第37番 イ長調 K.402(385e)


  1. 第1楽章: Andante ma un poco adagio

  2. 第2楽章:Fuga(Allegro moderato)



第1楽章の「Andante」はモーツァルトによって完成されていますが、第2楽章の「Fuga」は後ろ半分がシュタードラーによって補筆されています。

ヴァイオリンソナタ第38番 ハ長調 K.403(385c)


  1. 第1楽章:Allegro moderato

  2. 第2楽章:Andante

  3. 第3楽章:Allegretto



最初の2楽章はモーツァルトによって完成されていますが、最後の楽章は冒頭の20小節だけが記されているだけでした。ですから、最終楽章はほぼシュタードラーによる作品と見るべきです。

ヴァイオリンソナタ第39番 ハ長調 K.404(385d)


  1. 第1楽章:Andante - Allegretto



この作品はアンドレーによって「やさしいアンダンテとアレグレット」として出版されたものですが、モーツァルトの自筆譜が全く見つかっていません。そのために、一部にアンドレーの手が加わっているのではないかという疑惑は消えません。
また、もしかしたら、K.396を第1楽章とした残りの2つの楽章として構想されたのではないかという説も出されています。


忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音

リリー・クラウスによるモーツァルトと言えば、真っ先に思い浮かぶのはゴールドベルグとのコンビで録音されたSP盤の方です。あのパチパチノイズ満載の録音をいつまで聞いているの?と突っ込まれながら、それでも未だに捨てきれぬ愛着を感じている人は少なくありません。
それと比べると、この50年代の中葉にウィーンフィルのコンサートマスターとして名をはせていたボスコフスキーとのコンビで録音したソナタ集は話題になることが少ないように思われます。しかし、今では「偽作」と断定されている「k.17~k22」の6作品や子供時代の2作品も収録されているのは興味深いです。
特に、「k.17~k22」のような「偽作」と断定された作品を今さら録音する人はほとんどいないので、それを実際の音として聞ける価値は大きいと思います。
何故ならば、この偽作を通して、モーツァルトがマンハイムで出会ったシュスターのヴァイオリンソナタがどのようなものであったかを垣間見ることができるからです。ただし、この偽作がもしかしたら、モーツァルトをして「悪くありません」と言わしめたシュスターの作品そのものではないか?と言う見方は否定されているようです。

しかし、演奏に関して言えば、これはある意味でモーツァルトの時代にふさわしいものになっています。

この時代のヴァイオリンソナタというのは従来のピアノが「主」でヴァイオリンが「従」であるというのが慣例でした。そして、モーツァルトはシュスターの作品などにも影響を受けながらこの慣例を打ち破っていくのですが、ボスコフスキーのヴァイオリンはどこまで行ってもリリー・クラウスのピアノに付き従っていくのです。
音色的に自己主張の少ないふんわりとした雰囲気で、その面でも芯の強いクラウスのピアノをサポートしています。

つまりは、この二人の演奏はどこまで行ってもクラウスのピアノが「主」でありボスコフスキーのヴァイオリンは「従」なのです。初期作品ならばこれでいいのかもしれませんが、ピアノとヴァイオリンがただ単に交替するだけでなく、この二つの楽器が密接に絡み合いながら人間の奥底に眠る深い感情を語り始めるようになってくると、いささか物足りなさを覚えるのは事実です。

しかし、聞きようによっては、クラウスの絶頂期のピアノが堪能できるという風にとらえることもできます。

昨今のピアニストはは右手と左手がほぼ均等に響きます。これは、ギーゼキング以来の「伝統」です。
しかし、リリーの演奏では左手は基本的に控えめで、ここぞと言うところになると深々と響かせて前に出てきます。そこには、彼女なりのモーツァルト解釈とそれにもとづく演奏設計があって、右手と左手が絶妙のバランスで鳴り響きます。その結果として、モーツァルトが音符を使って書いた「心のドラマ」、深い感情がリリーの演奏からはヒシヒシと伝わってきます。

そう言う意味では、これもまた忘却の淵に落とし込むには勿体ない録音だと言えます。

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