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ブラームス:ピアノ協奏曲 第1番

P:シュナーベル セル指揮 ロンドンフィル管弦楽団 1938年1月9日・12月18日 録音



Brahms:ピアノ協奏曲第1番「第1楽章」

Brahms:ピアノ協奏曲第1番「第2楽章」

Brahms:ピアノ協奏曲第1番「第3楽章」


交響曲になりそこねた音楽?

木星は太陽になりそこねた惑星だと言われます。その言い方をまねるならば、この協奏曲は交響曲になりそこねた音楽だといえます。

諸説がありますが、この作品はピアノソナタとして着想されたと言われています。それが2台のピアノのための作品に変容し、やがてはその枠にも収まりきらずに、ブラームスはこれを素材として交響曲に仕立て上げようとします。しかし、その試みは挫折をし、結局はピアノ協奏曲という形式におさまったというのです。
実際、第1楽章などではピアノがオケと絡み合うような部分が少ないので、ピアノ伴奏付きの管弦楽曲という雰囲気です。これは、協奏曲と言えば巨匠の名人芸を見せるものと相場が決まっていただけに、当時の人にとっては違和感があったようです。そして、形式的には古典的なたたずまいを持っていたので、新しい音楽を求める進歩的な人々からもそっぽを向かれました。

言ってみれば、流行からも見放され、新しい物好きからも相手にされずで、初演に続くライプティッヒでの演奏会では至って評判が悪かったようです。
より正確に言えば、最悪と言って良い状態だったそうです。
伝えられる話によると演奏終了後に拍手をおくった聴衆はわずか3人だったそうで、その拍手も周囲の制止でかき消されたと言うことですから、ブルックナーの3番以上の悲惨な演奏会だったようです。おまけに、その演奏会のピアニストはブラームス自身だったのですからそのショックたるや大変なものだったようです。
打ちひしがれたブラームスはその後故郷のハンブルクに引きこもってしまったのですからそのショックの大きさがうかがえます。

しかし、初演に続くハンブルクでの演奏会ではそれなりの好評を博し、その後は演奏会を重ねるにつれて評価を高めていくことになりました。因縁のライプティッヒでも14年後に絶賛の拍手で迎えられることになったときのブラームスの胸中はいかばかりだったでしょう。

確かに、大規模なオーケストラを使った作品を書くのはこれが初めてだったので荒っぽい面が残っているのは否定できません。1番の交響曲と比較をすれば、その違いは一目瞭然です。
しかし、そう言う若さゆえの勢いみたいなものが感じ取れるのはブラームスの中ではこの作品ぐらいだけです。ユング君はそう言う荒削りの勢いみたいなものは結構好きなので、ブラームスの作品の中ではかなり「お気に入り」の部類に入る作品です。


双曲線・・・セルとシュナーベル

この二人の軌跡を眺めていて思い浮かんだ言葉が「双曲線」です。二つの線は永遠の彼方から近づいてきても決して交わることはなく、やがては永遠の彼方へと遠ざかっていく双曲線です。

ロンドンでこの録音を仕上げたときに、その翌年にはともにアメリカに亡命を余儀なくされるなどとは想像もしていなかったでしょう。
セルはフーベルマン、カザルス、そしてこのシュナーベルと競演を重ねてキャリアの階段をかけ上っていく最中ですし、シュナーベルもベートーベンのピアノソナタ全集を完成させて、まさにキャリアの絶頂にあった時期です。
しかし、歴史はそんな音楽家の思惑などには頓着することもなく、二人をアメリカへと吹き寄せていきます。ロンドンで競演した二人は数年後にはニューヨークで再び競演することになります。

しかしこの二人の戦後は正反対のものになりました。
セルはご存じのようにクリーブランドに腰を据えて、この地方の2流オケを世界的なオーケストラへと育て上げていきます。それに反して、シュナーベルはアメリカの商業主義的なコンサートシステムにどうしても馴染むことができずに、再びアメリカを後にしてヨーロッパへと引き揚げひっそりと晩年を終えます。
この違いは亡命当時の二人の年齢が大きな要因となっていたのかもしれません。シュナーベルは1882年生まれ、セルは1897年です。40過ぎの男と60前の男では、亡命という大きな人生の転機を同じように受けとめろと言っても無理な話です。

最近シュナーベルの録音をまとめて聞いてみてつくづくと感じたのは、迫力や勢いに頼らずに、丹念に、そして穏やかに歌い上げていく姿勢が一貫していることです。
その意味では第1楽章などは多少物足りなさを感じるのですが、しかし、そこをガンガン弾いたのではシュナーベルではありません。その代わりに第2楽章の何という歌心!!

セルはその後カーゾンとのコンビでこの作品の決定盤とも言うべき録音を残しています。(P:クリフォード・カーゾン セル指揮 ロンドン交響楽団)
そのカーゾンの師がシュナーベルだったというのも何かの因縁を感じる事実です。

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2009-10-07:カンソウ人





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