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リヒター(Karl Richter)|バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
リヒター指揮 ミュンヘン・バッハ管弦楽団 1960年6月録音
Bach:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066 「序曲」
Bach:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066 「クーラント」
Bach:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066 「ガボット」
Bach:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066 「フォルラーヌ」
Bach:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066 「メヌエット」
Bach:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066 「ブーレ」
Bach:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066 「パスピエ」
ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品
ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。
そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。
ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。
ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。
疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。
第1番:荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。
第2番:パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。
第3番:この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。
第4番:序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。
私の中では今でもバッハはリヒターを模倣します。
リヒターの管弦楽組曲もパブリックドメインの仲間に入りました。感慨深いモノがあります。
何故ならば、私にとってのこの作品の刷り込みはこのリヒター盤だからです。いや、この組曲だけでなく、マタイもロ短調ミサも、そしてブランデンブルグ協奏曲も、つまりは管弦楽や合唱を伴うバッハの作品は全てリヒターが最初だったのです。
ですから、バッハというのはこのように「厳しいモノ」だという刷り込みができてしまいました。鋭い響きで輪郭線がクッキリと浮かび上がるのがバッハの音楽だったのです。
私がオリジナル楽器による演奏にどうしてもなじめなかったのは、このような刷り込みが原因だったのかもしれません。あの青白く病気のような響きで弱々しく演奏されるバッハには最後まで納得することができませんでした。
確かに、バッハは自分の書いた音楽がこのように荘重に、そして厳しく演奏されることは想像していなかったでしょう。しかし、リヒターにとってバッハとはこのような音楽だったのです。そう言えば、未だ無名だった時代にリヒターは演奏会の合唱メンバーを集めるためにミュンヘンの街角でチラシを配り続けたそうです。とにかく、彼は己の信ずるバッハを演奏したかったのです。
そして、やがて時代は彼のバッハを支持し、彼が信じたバッハの姿が一つのスタンダードとして定着していくまでになります。
彼のバッハ演奏が一つのスタンダードとして定着していっても、彼の演奏の中には何時までも無名時代の良き意味でのアマチュア精神が息づいていました。彼の演奏には常にある種のひたむきさと清冽さが感じられました。
しかし、時代はやがて彼を置き去りにして前に進んでいきます。リヒターは己のバッハ像が次第に時代遅れのモノになるのを感じながらも、それでも新しいバッハ像を納得して受け入れることはできなかったようです。そして、「音楽的能力のない音楽学者があまりにも多すぎる」と批判したことも、彼の焦りといらだちの表れだったのかもしれません。
しかし、「自然は芸術を模倣する」という言い方を援用するならば、私のなかでは何時までもバッハはリヒターを模倣します。
進歩のない男だと言われればそれまでですが・・・。
リヒターとはあまり関係が良くなかったと言われるフィッシャー=ディースカウでさえ「私は多くの人が、リヒターの時代が過ぎ去ってしまったのを嘆いているのを聞きます。」と述べています。
オリジナル楽器による演奏が普通となった時代に育った人々にとっては、この演奏はあまりにも暑苦しく聞こえるかもしれません。金管楽器の響きも鋭すぎて耳障りかもしれません。
しかし、これもまた演奏史において見過ごすことのできない一コマです。
一度は心して、しっかりと聞いてほし演奏だと思います。
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よせられたコメント
2013-04-10:蔵田 誠
- 私もユングさんの感想に賛同します。
リヒターのバッハは厳しいものですが、この偉大な芸術家に対する彼の敬虔なまでの崇拝が感じられ、私は「バッハはかくあるべし」としてスタンダードたる価値がある思います。
これは確かに一つのスタンダードです。
2016-12-08:Sammy
- 私はむしろ、リヒターからバッハを聴きはじめたものの、古楽器演奏に魅了され、もう今さらリヒターでもあるまい、という思いが自分の中で強まっている中で、この演奏をあえて聴いてみました。
確かに出だしこそ重さを感じたものの、聴きすすむうちに、この演奏が目指したのはそういう方向ではなかった、ということを思い起こしました。基本的にこの演奏は端正で、作品の構造と展開を生き生きと明らかにすることを目指しています。録音もスタイルも古くなってしまったとはいえ、その基本的な姿勢はこの演奏からもはっきり聞こえてきます。それはこれが演奏された当時、とても新鮮なものであっただろうということを、聴きながら生々しく感じさせられました。
それが故にやはりこの演奏は、作品の魅力をまっすぐにそして風格をもって明らかにしようとした古典的な名演として残っていく価値が十二分にあると、改めて感嘆したのでした。
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