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ワルター(Bruno Walter)|モーツァルト:フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K.477
モーツァルト:フリーメイソンのための葬送音楽 ハ短調 K.477
ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1961年3月録音
Mozart:フリーメーソンのための葬送音楽 ハ短調 K.477
フリーメイソンの音楽

モーツァルトはその晩年にフリーメイソンに加入したことはよく知られています。ただし、その詳細はフリーメイソンの秘密性のためにあまり詳しいことは分かっていませんが、1784年12月14日に「善行ロッジ(分団)」の「徒弟」として入会が認められたことは間違いないようです。そして、翌年の春にはウィーンを訪れた父のレオポルドにも入会を勧め、フリーメイソンもその入会を認めています。モーツァルトはこの結社の分団における様々な儀式のために音楽を書いていて、「フリーメイソンの音楽」とも呼ぶべき一つのジャンルを作り上げています。とりわけ、入会して間もない頃は熱心に書いたようで、その中でもっとも名高いのがこの「フリーメイソンのための葬送音楽」です。
この葬送音楽はモーツァルトが作品カタログに「同志メクレンブルクと同志エステルハージの死去に際してのフリーメイソンの葬送音楽」と記しているので、その作曲の経緯がよく知られています。同志メクレンブルクとはメクレンブルク=シュトレーリッツ大公のことで、同志エステルハージとはエステルハーツィ・フォン・ガランタ伯爵のことで、ともに貴族であり、当時のウィーンのメイソンにおける重要人物でした。メクレンブルク大公は85年の11月6日に亡くなり、その翌日にエステルハージ伯爵が世を去ったのですが、この両者の追悼式が彼らが所属していた「授冠の希望ロッジ(分団)」で17日に行われました。
モーツァルトはこの追悼式のために数ヶ月前に作曲した「親方の音楽」から声楽部をカットして葬送音楽に仕立てあげたのがこの作品です。音楽は驚くほどの厳粛さと悲痛さに満ちていて、最晩年のレクイエムを思い起こさせるほどです。まさにロマン派好みのモーツァルトであり、モーツァルトを代表する有名作としての地位を確立したのもうなずけます。
ワルターの伝統的な美意識とオケの現在的な感覚との絶妙なる融合
この録音は長く棚にしまい込まれていて、パブリックドメインの仲間入りをしている事にも気づかずに放置されていました。こんな事になってしまった背景には、ワルターの真価は最晩年のコロンビア響との録音ではなくて、それ以前のモノラル時代やヨーロッパ時代の録音にこそあるのだという「思いこみ」があったからです。
しかし、今回、パブリックドメインとなったモーツァルトの録音を聴き直してみて、意外なまでの素晴らしさに「うーん」とうなってしまいました。そして、その「うなってしまった」背景には、私が毛嫌いしてきた「ピリオド演奏」の影響があることを否定できないことに気づかされて、いささか複雑な思いに駆られました。
よく知られていることですが、ワルターのために特別に編成されたコロンビア響は通常のオケと比べれば編成がやや小振りでした。そのために、マーラーなどの録音では響きが物足りなくなって、編集の過程でそれらしくなるように手を加えたりしたことが知られています。
しかし、その編成の小ささが、モーツァルトのシンフォニーでは決してマイナスになっていないどころか、「ピリオド演奏」の洗礼を受けた耳には好ましくさえ思えるようになっていることに気づかされたのです。
これは、同じような時期に録音されたクレンペラーの演奏と比べてみればその違いは歴然とします。おそらくは、ほぼ通常の編成で録音したであろうクレンペラーのモーツァルトは、今の耳からすればあまりにも「鈍重」に過ぎます。それは、何もクレンペラーだけでなくこの時代の巨匠たちの録音に共通するスタイルです。ベーム然り、ヨッフムもまた然り、です。
しかし、ワルター&コロンビア響のモーツァルト演奏は、それら同時代の巨匠たちの録音とは全く雰囲気が異なります。それは、この数年前にヨーロッパに里帰りをして、VPOとポルタメントをかけまくったト短調シンフォニーを演奏した人物と同一だとはとうてい信じがたいほどです。
確かに、小編成ではありながら、低声部をしっかりと響かせた音の作り方はワルター特有のものです。その点については、「ピリオド演奏」とは全く真逆の世界です。しかし、低声部が分厚いにもかかわらず響きの透明性が高く、音の立ち上がりがこの上もなくシャープなのです。
そして、おそらくは、後者の「特質」はワルターの指示と言うよりはオケの「特性」が前面に出た結果なのだと思います。
ワルターは声部のバランスとテンポ設定だけを指示しているだけで、細かいところはオケに任せているような雰囲気がします。その結果、オケの編成の小ささも相まって、ワルターが持っている伝統的な美意識とオケが持っている現代的でシャープな造形意識が絶妙に融合して、実に不思議な世界が出来上がることになったようです。
この録音には、この時代の巨匠たちに共通する巨大で重厚な造形はありませんし、後の時代を席巻するピリオド演奏ほどにはクリアでもなければシャープでもありません。世間では、こういう世界を「中途半端」と切って捨ててしまうのですが、しかし、実際に演奏を耳にすると得も言われぬ魅力があることは否定できないので困ってしまいます。
そこで、しばし沈思黙考して気づかされたのが、テンポ設定の妙です。
こんな言い方をすると実にいい加減なので気が引けるのですが、ワルターの手にかかると、すべの部分が「これ以外にはない」と思えるようなテンポで音楽が進められているように思えるのです。それは、メトロノーム記号でいくつというような単純なものではなく、すべてのフレーズがこのような語り口で話されるべきだと得心がいくようなテンポ設定なのです。そして、このような「芸」を身につけていたのは、モーツァルトに関してはワルター以外には存在しなかったことに気づかされるのです。
このテンポ設定があるが故に、この晩年のモーツァルト録音が「中途半端」なものではなく「希有」なものになり得ているのではないと思う次第です。
やはり、ワルターは長生きして幸せだったようです。
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