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ビーチャム(Thomas Beecham)|ベートーベン:交響曲第7番 イ長調 作品92
ベートーベン:交響曲第7番 イ長調 作品92
ビーチャム指揮 ロイヤルフィル 1958年10月20日、22日&31、1959年4月29日、7月14日?6日録音日録音
Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第1楽章」
Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第2楽章」
Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第3楽章」
Beethoven:交響曲第7番 イ長調 作品92 「第4楽章」
深くて、高い後期の世界への入り口
「不滅の恋人」は「アマデウス」と比べるとそれほど話題にもなりませんでしたし、映画の出来そのものもいささか落ちると言わなければなりません。しかし、いくつか印象的な場面もあります。(ユング君が特に気に入ったのは、クロイツェル・ソナタの効果的な使い方です。ユング君はこの曲が余りよく分からなかったのですが、この映画を見てすっかりお気に入りの曲になりました。これだけでも、映画を見た値打ちがあるというものです。)
それにしても、「アマデウス」でえがかれたモーツァルトもひどかったが、「不滅の恋人」でえがかれたベートーベンはそれに輪をかけたひどさでした。
第9で、「人類みな兄弟!!」と歌いあげた人間とは思えないほどに、「自分勝手」で「傲慢」、そしてどうしようもないほどの「エキセントリック」な人間としてえがかれていました。一部では、あまりにもひどすぎると言う声もあったようですが、ユング君は実像はもっとひどかったのではないかと思っています。
偉大な音楽家達というものは、その伝記を調べてみるとはっきり言って「人格破綻者」の集まりです。その人格破綻者の群の中でも、とびきりの破綻者がモーツァルトとベートーベンです。
最晩年のぼろ屑のような格好でお疾呼を垂れ流して地面にうずくまるベートーベンの姿は、そのような人格破綻者のなれの果てをえがいて見事なものでした。
不幸と幸せを足すとちょうど零になるのが人生だと言った人がいました。これを才能にあてはめると、何か偉大なものを生み出す人は、どこかで多くのものを犠牲にする必要があるのかもしれません。
この交響曲の第7番は、傑作の森と言われる実り豊かな中期の時期をくぐりぬけ、深刻なスランプに陥ったベートーベンが、その壁を突き破って、後期の重要な作品を生み出していく入り口にたたずむ作品です。
ここでは、単純きわまるリズム動機をもとに、かくも偉大なシンフォニーを構築するという離れ業を演じています。(この課題に対するもう一つの回答が第8交響曲です。)
特にこの第2楽章はその特徴のあるリズムの推進力によって、一つの楽章が生成発展してさまをまざまざと見せつけてくれます。
この楽章を「舞踏の祝祭」と呼んだのはワーグナーですが、やはり大したものです。
そしてベートーベンはこれ以後、凡人には伺うこともできないような「深くて」「高い」後期の世界へと分け入っていくことになります。
「何でもないような」演奏
ビーチャムと言えば、「軽妙洒脱」という言葉が浮かぶのですが、このベートーベンの録音ではかなり豪快にオケを鳴らしきっています。そして、そのオケの音色が実にザックリとした生成の魅力にあふれていて、実に好ましく思えます。
そして、何よりも、ここからは音楽をする「喜び」みたいなものがあふれ出してきます。それは、ドイツの「3大B」(バッハ、ベートーヴェン、ブラームス)のことを音楽史上の「3大退屈男」と呼んだ男が、「こういう風に演奏すれば退屈しないですむんじゃよ・・・(^□^)」と言っているかのような演奏です。
確かに、今回アップした第2番にしても第7番にしても、深刻さのかけらもありません。実に伸びやかに、そして楽しく演奏されています。そして、注目すべきは、ともに歌心にあふれた第2楽章では、決して深刻ぶることはないもののしみじみと心にしみいる音楽になっていることです。実に聞かせどころを押さえた「上手い演奏」だなと思います。
確かに、己の新しい解釈を世に問うというような「ギラギラとした野心」にあふれた演奏も魅力的です。作品に込められた深い情念を抉り出すような演奏もいいでしょう。
しかし、そのような演奏ばかりでは、時には疲れてしまうことも事実です。
そんな時に、こういうビーチャムのような演奏で音楽を聴かせてくれると、しみじみと「音楽っていいなぁ・・・」と思わせてくれます。そして、そう言うたぐいの演奏は、この国では「名演」と呼ばれることはなく、どこか一段低い芸術と見なされてきたことは事実です。いや、この国でなくても事情は大差ないかもしれません。
しかし、振り返ってみれば、こういう「何でもないような」演奏を聴かせてくれる指揮者はビーチャム以降ではほとんどいなかったことに気づかされます。何人かあげようと思ったのですが、どうしても指を折ることができません。
敢えて挙げるとするならば、その晩年において自分のやりたいことだけをやりたいように指揮したバーンスタインが、その心の有り様としては共通点があったのかもしれません。ただし、マーラーを全く認めなかったビーチャムとでは音楽に対する方向性が全く異なりますし、情念をさらけ出すことこそが自分のやりたいことだったバーンスタインとでは、その方向性は真逆です。
やはり、この比較には無理がありますね。
そう言えば、レッグがビーチャムのことを「イギリスが生んだ最後の偉大な変人」と評したことは有名な話です。
これは、何とも言えず逆説的な話になるのですが、生き馬の目を抜くようなこの世界において、何の野心も持たずひたすら音楽の楽しさを前面に押し出したような「何でもない演奏」をし続けるには「偉大な変人」である必要があると言うことなのでしょう。
もちろん、彼が「偉大な変人」であり続けることができた背景には、ほとんど無尽蔵とも言える財力があったからこそです。なるほど、お金というものは、使いようによっては実に偉いものだと感心させられます。
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