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リパッティ(Dinu Lipatti)|ショパン:舟歌
ショパン:舟歌
(P)リパッティ 1948年録音
Chopin:舟歌
Chopin:舟歌
二つの舟歌
(注:この文章はMIDIで作品紹介をしていたころに二つの舟歌を同時にアップして比較して論じた文章です)
ほとんど同じ時代に生まれ、同じ時代を過ごし、そして同じ時代に若くして没した二人の音楽家。しかし、その人生は極端に違います。
メンデルスゾーンは資産家の息子として生まれ、物質的にはこの上もなく恵まれた一生をすごしました。彼の音楽にはそのような幸せな雰囲気をいたるところで聞き取ることができます。もちろん、その内面においては、様々な苦悩はあったでしょうが、この時代の音楽家としては、例外的と言っていいほどの恵まれた一生を送りました。
それに反して、ショパンの一生は波瀾と激動に満ちたものでした。エチュード「革命」に聞こえる祖国喪失の悲しみ、そして、ジョルジュ・サンドとの「愛と別れ」、そして結核にむしばまれての「のたれ死」同然の最後。
まさに、悲劇の人生を送ることの多かったロマン派の音楽家の中でも、とりわけ痛苦に満ちた一生を送った人、それがショパンでした。
この二つの舟歌を聴くと、そんな二人の男の人生が透けて見えてくるような気がします。
それにしても、ショパンの舟歌のなんと素晴らしいこと!舟歌というのは聴いてもらえればすぐに分かるように、常に揺れ続けるような伴奏音型を持っているのだが、その上で歌い継がれる「歌」の何と美しいことか。
ユング君はショパンのピアノ曲で一つだけ選べと言われれば、躊躇なくこの一曲を選びます。
しかし、誤解のないように最後に一言。
だからといって、メンデルスゾーンがショパンに劣ると言っているのではありません。
歴史に埋もれていたバッハを再発見し、「マタイ受難曲」の復活をはたしたのは彼です。また、クレンペラー指揮、フィルハーモニア管による交響曲3番「スコットランド」の演奏を聴いてみてください。そのすぐ横に、あのブルックナーの壮大な音楽が佇んでいることがはっきりと分かるはずです。
メンデルスゾーンの音楽には、そのような後の時代へとつながっていく系譜をしっかり感じ取ることができます。
それに反して、ショパンは先駆者も持たず、後継者も持たなかった孤立した存在です。
しかし、天才というものが、軽々しく模倣を許さないが故に後継者を持たないものであるなら、それも仕方のないことです。
その意味で「天才」と呼べ事のできるのは、モーツァルトをのぞけば、あとはショパンただ一人。
これは確かなことです。
リパッティのショパン演奏を代表する一枚
リパッティが残したショパンの中ではワルツ集の演奏が一番素晴らしいものであることは誰しもが同意するでしょう。そして、ユング君の私見では、この舟歌はそれにつぐ素晴らしい出来ではないかと考えています。
録音が48年という事で決して万全なものではありませんが、そのノイズの向こうから繊細で透明なロマンティシズムがあふれ出してきます。
この演奏を評価してください。
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よせられたコメント
2008-04-13:亜季
- もちろん、他のピアニストの舟歌がダメなわけではありません。
ポリー二の音色は繊細で美しいですし、コルトーの演奏は盛り上がります。
でも、リパッティの舟歌の自然さには、ただ驚嘆するのみです。
他の人の演奏では、どうしてもピアニストの解釈と個性がにじみますが、(当然ですよね)リパッティの舟歌を聞くと、もはやピアニストの存在すら透明になっているようです。
眼前に広がるのは、静かにゆらぐ水面…気がつくと自分は小船の中にいます。
一切の恣意的なコントロールから解き放たれたピアノの音が、とめどなく溢れ出し、ゆらぎ、そっと小船を押してゆくのです。
2010-02-07:らくひろ
- この演奏を聴いてると辻井伸行さんの演奏を思い浮かべます。曲の感じが似ているからです。けれど辻井さんの演奏はこの録音よりもドラマチックな演奏で、この演奏は船に乗っている人の気持ちになって弾いているという感じがします。
目を閉じて聴いていると、霧に包まれた船が少し波立っている川を下っていく感じがします。
お気に入りの曲の一つです。
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