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プシホダ(Vasa Prihoda)|パガニーニ小品集
パガニーニ小品集
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)シャルル・セルネ、(P)イツコ・オルロヴェツキー 1924年~1957年録音
Paganini:Introduction and Variations, Op38 on "Nel cor piu mi sento" from Paisiello's "La Molinara"(Arr.Prihoda)
Paganini:Sonatine for unaccompanied violin(Arr.Prihoda)
Paganini:Adagio from Violin Concerto No. 1
Paganini:Sonatine Op.3-6
Paganini:The Dance of the Witches, Op8
Paganini:Capriccio a Violino Solo "Nel cor piu non mi sento"(Arr.Prihoda)
パガニーニの小品は彼にとっては必須のレパートリー
当然の事ながら、「現在のパガニーニ:と言うトスカニーニからの賞賛によって世に出たプシホダですから、パガニーニの小品は彼にとっては必須のレパートリーだったでしょう。
そして、そのパガニーニの小品をさらにプシホダ自身がさらに演奏効果を高めるために編曲した作品も数多くあります。
- パガニーニ(プシホダ編):パイジェルロの「水車屋の娘」の「わが心もはやうつろになりて」による序奏と変奏曲
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)イツコ・オルロヴェツキー 1957年録音
- パガニーニ(プシホダ編):無伴奏ヴァイオリンのためのソナチネ
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)イツコ・オルロヴェツキー 1957年録音
- パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番よりアダージョ
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:ヴェルナー・シュミット=ベルケ指揮 ミュンヘン放送管弦楽団 1953録音
- パガニーニ:ソナチネOp.3-6
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)オットー・アルフォンス・グレーフ 1952年録音
- パガニーニ:魔女たちの踊り
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:シャルル・セルネ 1926年録音
- パガニーニ(プシホダ編):「わが心もはやうつろになりて」による奇想曲
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)シャルル・セルネ 1926年録音
プシホダは50年代にはいると急激に衰えていったと言われます。確かに、50年代の録音には20年代の様な「麻薬」的な美音と歌い回しの魅力はありません。
しかし、こういう小品の演奏だけに限れば「生気を失って形骸だけをとどめている老残のプシホダの姿がある」とまで酷評されるほどの哀れさは感じないどころか、細身の音で無味乾燥に正確に演奏するだけの演奏よりははるかに魅力的です。
また、取り上げている作品も恥ずかしながらほとんど聞いたこともないものがほとんどだったので、パガニーニという人の本質を考える上でも興味深いものがありました。
彼が突き当たるであろう「壁」
プシホダは第一次世界大戦後の1919年から本格的に演奏活動をするも評判はあまり良くなかったようです。そこで、生活費を稼ぐためにイタリアに向かい、ミラノのいくつかのカフェでヴァイオリン弾きのアルバイトをすることになります。
ところが、そのアルバイトが彼に思わぬ幸運を運んでくることになります。それは、有名なエピソードなのですが、彼がヴァイオリンを演奏していたカフェにたまたまトスカニーニが客としてきていたのです。
そして、その無名のヴァイオリニストの演奏にトスカニーニはすっかり魅了されてしまい、「現代のパガニーニだ!」と激賞したのです。
このエピソードは瞬く間に世に広がり、その後は「現在のパガニーニ」というトスカニーニの「お墨付き」のおかげでパガニーニの遺品の一つであるグァルネリ・デル・ジェズを貸与され、主にドイツ語圏を中心に活動することになります。
しかし、この「現代のパガニーニ」というトスカニーニの評価は色々な意味で、このヴァイオリニストの本質を言い当てたものだといえます。
コンサートホールに足を運ぶ聴衆は今も昔も行儀が良くて、最初はどんなにつまらなくても辛抱強く聞き続けてくれるものです。そして、その傾向は時代が下がるに連れてより強くなっていきます。そして、演奏家の多くはそう言う聴衆の行儀良さに甘えて、最初だけでなく最後までつまらない演奏を繰り広げても生卵をぶつけられるような目にあったのを残念ながら私は見たことがありません。
ヨーロッパの劇場では時々ブーイングを聞いたことがあるのですが、日本の劇場ではそれもほぼ皆無です。私にしても、せいぜいが、アンコールを無視してそそくさと席を立つくらいが関の山ですから偉そうなことはいえません。
しかし、カフェや酒場で演奏する芸人となると、勝負は最初の一瞬で決まりますし、その一瞬を上手くとらえても、その興味を最後まで維持させるには大変な努力が必要です。そして、その努力の質は、立派なコンサートホールで芸術的な演奏を成し遂げるのとは全く別の努力とスキルが必要なのです。
そして、パガニーニに代表される名人芸が持て囃された時代のコンサートは、本質的にはカフェや酒場の客を相手にするのと本質的には同じだったはずです。おそらく、トスカニーニがプシホダの演奏を聞いて「現代のパガニーニ」と賞賛したのは、彼の中にその様な資質が見事なまでに備わっていることを感じとったからでしょう。
そう言えば、SP盤の時代に野村あらえびすが彼のことを「普通のヴァイオリンから出る音とは、どうしても想像することのできない妖艶極まる音色が、エルマンやクライスラーをレコードで聴き慣れた我々にとっては、全くひとつの驚きにほかならなかった。」と評していたのは、プシポダの中にあったパガニーニ的な魅力を見事に言い当てたものだったと言えます。
まさに、そのヴァイオリンから発せられているとは思えないような音色の魅力が、聞くものの心を一瞬にしてとらえたことでしょう。
それは、もはや「妖艶」などと言う言葉では追いつかないほどの響きであり、まさに「麻薬」的な魅力を持った響きであり、歌い回しでした。
そして、その事は、ヴァイオリンという楽器がいかに広くて底深い世界を内包しているかということを教えてくれるのです。
しかし、20年代の「麻薬」的な演奏をまずは心に刻みつけてから、それ以降のプシポダの演奏を聞けば、やがて彼が突き当たるであろう「壁」についてもトスカニーニの言葉は見すえていたことにも気づかされるはずです。
おそらく、その一端はパガニーニの小品やプシホダ自身の小品の演奏を時代を追って聞いていけば何となく見えてくるはずです。
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