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ラロ:スペイン交響曲 ニ短調, Op21(Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21)

(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1957年4月22日録音(Zino Francescatti:(Con)Dimitris Mitropoulos New York Philharmonic Recorded on April 22, 1957)

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [1.Allegro non troppo]

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [2.Scherzando. Allegro molto]

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [3.Andante]

Edouard Lalo:Symphonie espagnole in D minor, Op.21 [4.Rondo]


遅咲きの一発屋

ラロといえばスペイン交響曲です。そして、それ以外の作品は?と聞かれると思わず言葉に詰まってしまいます。
いわゆる、クラシック音楽界の「一発屋」と言うことなのでしょうが、それでも一世紀を超えて聞きつがれる作品を「一つ」は書けたというのは偉大なことです。

なにしろ、昨今の音楽コンクールにおける作曲部門の「優秀作品」ときたら、演奏されるのはそのコンクールの時だけというていたらくです。そして、そのほとんど(これはかなり控えめな表現、正確には「すべて」に限りなく近い「ほとんど」)が誰にも知られずに消え去っていく作品ばかりなのです。
クリエーターとして、このような現実は虚しいとは思わないのだろうかと不思議に思うのですが、相変わらず人の心の琴線に触れるような作品を作ることは「悪」だと確信しているような作品ばかりが生み出されます。いや、そのような「作品」でないとコンクールでいい成績をとれないがためにそのようなたぐいの作品ばかりを生み出していると表現した方が「正確」なのでしょう。

しかし、音楽はコンクールのために存在するものではありません。
当たり前のことですが、音楽は聴衆のために存在するものです。この当たり前のことに立ち戻れば、己の立ち位置の不自然さにはすぐに気づくはずだと思うのですが現実はいつまでたっても変わりません。相変わらず、「現代音楽」という業界内の小さなパイを奪い合うことにのみ腐心しているといえばあまりにも言葉がきつすぎるでしょうか。

ですから、こういうラロの作品を、異国情緒に寄りかかった「効果ねらい」だけの音楽だと言って馬鹿にしてはいけません。
クラシック音楽というのは人生修養のために存在するのでもなければ、一部のスノッブな人間の「知的好奇心」を満たすために存在するのでもありません。

まずは聞いて楽しいという最低限のラインをクリアしていなければ話にはなりません。

ただ、その「楽しさ」にはいくつかの種類があるということです。
あるものは、このスペイン交響曲のように華やかな演奏効果で人の耳を楽しませるでしょうし、あるものは壮大な音による構築物を築き上げることで喜びを提供するでしょう。はたまた、それが現実への皮肉であったり、抵抗であったりすることへの共感から喜びが生み出されるのかもしれません。
そして、時には均整のとれた透明感に心奪われたり、持続する緊張感に息苦しいまでの美しさを見いだすのかもしれません。

私はポップミュージックに対するクラシック音楽の最大の長所は、そのような「ヨロコビ」の多様性にこそあると思います。
そして、華やかな演奏効果で人の耳を楽しませるという、ポップミュージックが最も得意とする土俵においても、このスペイン交響曲のように、彼らとがっぷり四つに組んでも十分に勝負ができる作品をいくつも持っているのです。
そういう意味において、このような作品はもっともっと丁重に扱わなければなりません。

閑話休題、話があまりにも横道にそれすぎました。(^^;

ラロはスペインと名前のついた作品を生み出しましたが、フランスで生まれてフランスで活躍し、フランスで亡くなった人です。ただし、お祖父さんの代まではスペインで暮らしていたようですから、スペインの血は流れていたようです。

彼は、1823年にフランスのリルという小さな町で生まれて、その後パリに出てパリ国立音楽院でヴァイオリンと作曲を学びました。そして、20代の頃から歌曲や室内楽曲を作曲して作曲家としてのキャリアをスタートさせようとしたのですが、これが全く評価されずに失意の日々を過ごします。
その内に、作曲への夢も破れ、弦楽四重奏団のヴィオラ奏者という実に地味な仕事で生計を立てるようになります。

このようなラロに転機が訪れたのが、アルト歌手だったベルニエと結婚した42歳の時です。
ベルニエはラロを叱咤激励して再び作曲活動に取り組むように励まします。そして、ラロも妻の激励に応えて作曲活動を再開し、ついに47歳の時にオペラ「フィエスク」がコンクールで入賞し、その中のバレー音楽が世間に注目されるようになります。そして、そんな彼をさらに力づけたのが、1874年にヴァイオリン協奏曲がサラサーテによって初演されたことです。

そして、その翌年にこの「スペイン交響曲」が生み出され、同じくサラサーテによって初演されて大成功をおさめます。

彼はこれ以外にも、「ロシア協奏曲」とか「ノルウェー幻想曲」というようなご当地ソングのようなものをたくさん作曲していますが、これは当時流行し始めた異国趣味に便乗した側面もあります。
しかし、華やかな色彩感とあくの強いエキゾチックなメロディはそういう便乗商法を乗り越えて今の私たちの心をとらえるだけの魅力を持っています。


  1. 第1楽章:Allegro non troppo ソナタ形式

  2. 第2楽章:Scherzando. Allegro molto 三部形式

  3. 第3楽章:Intermezzo. Allegro non troppo 三部形式

  4. 第4楽章:Andante 三部形式

  5. 第5楽章:Rondo





「色気」と「テクニック」の両方を過不足なしに兼ね備えている

ぜひあの録音をアップしてほしいというリクエストのメールはよくいただきます。ただし、その要望の大部分にこたえられていません。
まあ、シンプルに手元に音源がないという場合もありますが、そこまで手が回らないという場合が大部分です。ということで、申し訳ない限りなのですが、心の片隅にはとどめていますのでいつかアップされる時があるかもしれない、くらいで気長にお待ちください。

ということなのですが、今回は頂いたリクエストにかなり早く反応した紹介です。
そのリクエストというのが、フランチェスカッティによるラロのスペイン交響曲とパガニーニの協奏曲に対するものです。
フランチェスカッティのスペイン交響曲はすでに紹介しているだろうにと思ったのですが、調べてみれば抜け落ちています。ありゃりゃ、という感じなのですが、いただいたリクエストに早目に反応するのはほとんどこのパターンです。
さらに言えば、パガニーニの協奏曲に関してはあまり気が回っていなかったのですが、スペイン交響曲からの流れで私が聞いてみたくなりました。(^^v

できれば、このあたりの事情をおくみいただいて、リクエストに対する対応の違いをご寛恕ください。

ということで、フランチェスカッティのスペイン交響曲なのですが、リクエストをいただいた方もご指摘されているように、フランチェスカッティという稀有なるヴァイオリニストを語る上でも、そして、スペイン交響曲という作品を語る上でも絶対に見落としてはいけない演奏です。
フランチェスカッティというヴァイオリニストは基本的には「色気」で勝負するヴァイオリニストだといっていいでしょう。ですから、ベートーベンとかブラームスとかいうような、あまりにも立派すぎる作品よりは、ラロとかパガニーニとか、さらにはブルッフとかみたいな、言葉は悪いかもしれませんが、いわゆる「色物」の傾向が強い作品のほうがぴったりくることは確かです。

しかし、フランチェスカッティという人はそういう色物志向を本線として持ちながら、テクニック的にもかなり高いレベルを持っていたということは忘れてはいけません。
おそらくほとんどの人が同意いただけると思うのですが、そういう色物路線のコンチェルトというのはテクニックを前面に出してバリバリ弾き倒されてもつまらないものです。それは、テクニックご披露のパガニーニであっても、どうにもそれだけでは物足りません。やはり、そういう色物には色気が必要なのです。
しかし、この世のなかとは難しいもので、そういう色気を優先するヴァイオリニストにはテクニック的に今一つという場合が多いです。いわゆるラテン系といわれるヴァイオリニストはそういう傾向が強いように思えます。そして、その弱点故に「色気」が妙に泥臭くなったりわざとらしくなったりして、「色気」ではなくて「色」だけになったりします。

そういう意味で、フランチェスカッティというのはそういう「色気」と「テクニック」の両方を過不足なしに兼ね備えたヴァイオリニストであり、そういう得難い資質を最も素晴らしい形で表現できたのがラロやパガニーニだったように思えるのです。
おそらく、これらの演奏の価値はこれからも消えることはないでしょう。

さらにもう一つ追記しておくと、この調べ物の中でフランチェスカッティは1946年にクリュイタンスとスペイン交響曲を録音していることに気づきました。
聞いてみれば、1946年という録年念を考えれば申し分のないほどに音質は素晴らしくて、もちろん演奏のほうも悪くはありません。いや、テクニック的にはこの古い録音のほうがさえわたっているように思えます。
もちろん、この時44歳だったフランチェスカッティには十分な色気も備えていました。

古い録音ということで忘却の彼方に沈んでいるかもしれませんが、これもまた忘れずに拾い上げて紹介しておかなければならないでしょう。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



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