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ヴァッシャ・プシホダ(Vasa Prihoda) |ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北西ドイツ放送交響楽団 1950年ライヴ録音
Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53 [1.Allegro ma non troppo]
Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53 [2.Adagio ma non troppo]
Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53 [3.Allegro giocoso, ma non troppo]
何故かマイナーな存在です。
クラシックの世界では有名な作品は「メンコン・チャイコン」みたいに短縮してよばれることがあります。メンコンは言うまでもなくメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のことですし、チャイコンはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の事です。
同じように、「ドヴォコン」という呼ばれ方もあるのですが、こちらはヴァイオリンではなくてチェロ協奏曲のことです。
そうなのです、同じ協奏曲でもチェロの方はドヴォルザークと言うよりもクラシック音楽を代表するほどの有名作品であるのに、こちらのヴァイオリン協奏曲の方は実にマイナーな存在なのです。
ドヴォルザークはピアノ・ヴァイオリン・チェロのための協奏曲をそれぞれ一つずつ書いています。この中で、チョロの協奏曲が突出して有名なのですが、他の協奏曲もドヴォルザークらしい美しい旋律とファンタジーにあふれた作品です。確かに、ブラームスやベートーベンの協奏曲のような緻密で堅固な構成は持っていませんが、次々と湧き出るようにメロディがあふれ出してきて、それらが織物のように作品の中に織り込まれていく様は実に見事と言うしかありません。
英国近代音楽の父とも言うべき、サー・チャールズ・スタンフォードはドヴォルザークを評して「彼は考えるために立ち止まることをせず、思い浮かんだことをまず何よりも五線紙上で述べた」と語りましたが、まさにその言葉ピッタリの作品だといえます。
妖艶な響きが魅力的
プシホダは50年代にはいると急激に衰えたと言われています。しかし、こういう録音を聞いてみると、事はそれほど単純ではないように思います。
あれこれ聞いていて気づいたのは、50年代における変化というのは技術的な衰えが大きな原因ではなくて、演奏家としてどういう方向を目指すのかという根本的なところで迷いが生じたのが最大の原因だったように思えるからです。
その背景には「天性の芸人」であったプシホダが、やがて大きな演奏会場で上品な人たちを相手に演奏会を行うようになるにつれて、彼自身が「変わらなければいけない」と思うようになったことが原因だったのかもしれません。そして、そう言う傾向はすでに30年代頃から見え隠れしていました。
典型的なのは35年に録音したサラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」です。そこでは、20年代の奔放な芸人魂は後退して、何処か作品をスッキリと整理しようとする意識がはっきりと表れていました。そして、それと同じくしてプシホダの人気は凋落していくことになります。
もっとも、それだけでなく、妻のアルマ・ロゼ(マーラーの姪)を離婚したことが「プシホダはナチに魂を売って離婚した」と噂されたことも大きく影響したのかもしれません。どう考えても、この35年の「ツィゴイネルワイゼン」はプシホダにとっては不本意な演奏であることは間違いありません。
しかし、戦後にはいると、彼は己の芸人としての持ち味も生かしながら、それなりの芸術家として認められるような地点を探るようになります。そう言うときに、彼にとってピッタリだったのはドイツ・オーストリア系のクラシックではなくて、その周辺に位置するドヴォルザークやチャイコフスキーのような作曲家が持つロマンティシズム溢れる作品でした。
そして、そこでは芸人魂が炸裂した「麻薬」的な魅力は失ったものの、そこにいささかの芸術的なロマンティシズムを持ち込むことで「妖艶」な響きを手に入れることが出来ました。そして、そう言う響きで演奏されるドヴォルザークやチャイコフスキーの音楽は、他に変わるものを見いだすのが難しいほどの独自の魅力を放つことになります。
おそらく、これに近い魅力を放つヴァイオリニストはイダ・ヘンデルあたりでしょうか。
ミルシテインやオイストラフも、さらにはフランチェスカッティなども「美音系」のヴァイオリニストですが、プシホダはそう言う「美音系」とは全く異なるヴァイオリニストでした。もっとも、ミルシテインもオイストラフもフランテェスカッティにもそれぞれの個性があって、それらを「美音系」などと言う言葉では一括りに出来ないのは当然なのですが、プシホダの「美音」はそう言う「美音」とも隔たりがより大きいと言うことです。
そう言うプシホダの魅力が一番表れているのがドヴォルザークやチャイコフスキーの協奏曲であり、さらにドヴォルザークで言えば「ソナチネ」や「4つの小品」、チャイコフスキーで言えば「憂鬱なセレナード」あたりがあげられるでしょう。おそらく、プシホダはそのあたりの周辺部分の音楽から「芸人」から「芸術家」への道を探ろうとしたのかもしれませんし、それは賢明な選択肢であったともいえます。
それほどに、それらの演奏は他にかえがたい「妖艶」さが漂っていました。
しかし、プシホダにとって不幸だったのは、時代はそう言う「妖艶」な音楽から「即物的」な音楽が評価される時代に変わりつつあったことです。それでも、彼はどうやら最後まで己の信じる世界を突き進んでいったようです。
それは、二つのドヴォルザークの協奏曲のライブ録音を聞けばよく分かります。
50年と56年のライブ録音を聞き比べてみれば、プシホダの美音は確実に硬化していますが、それでも振る舞いは変わりません。そこに彼の技術的な衰えを指摘するのは容易ですが、それでもこれだけ自由自在に思うがままに演奏できれば十分でしょう。
それにしても、このヤロスラフ・クロムホルツという指揮者は何者なのでしょうか。第1楽章の冒頭部分などは独奏ヴァイオリンを押しつぶしてやると言わんばかりの荒々しさで始まります。
それでもプシホダは動ずる事なく己の音楽を貫き通しています。まさに偉大なる芸人です。
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