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マルグリット・ロン(Marguerite Long)|ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21
(P)マルグリット・ロン アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1953年1月19日~20日録音
Chopin:Piano Concerto No.2, Op.21 [1.Maestoso]
Chopin:Piano Concerto No.2, Op.21 [2.Larghetto]
Chopin:Piano Concerto No.2, Op.21 [3.Allegro vivace]
僕は悲しいかな、僕の理想を発見したようだ

ナンバーリングは第2番となっていますが、ショパンにとって最初の協奏曲はこちらの方です。
1829年にウィーンにおいてピアニストデビューをはたしたショパンは、その大成功をうけてこの協奏曲の作曲に着手します。そして、よく知られているようにこの創作の原動力となったのは、ショパンにとっては初恋の女性であったコンスタンティア・グワドコフスカです。
第1番の協奏曲が彼女への追憶の音楽だとすれば、これはまさに彼女への憧れの音楽となっています。
とりわけ第2楽章のラルゲットは若きショパン以外の誰も書き得なかった瑞々しくも純真な憧れに満ちた音楽となっています。
「僕は悲しいかな、僕の理想を発見したようだ。この半年というもの、毎晩彼女を夢見るがまだ彼女とは一言も口をきいていない。あの人のことを想っているあいだに僕は僕の協奏曲のアダージョを書いた」
友人にこう書き送ったおくように、まさにこれこそが青年の初恋の音楽です。
- 第1楽章 Maestoso
- 第2楽章 Larghetto
ショパンが恋心を抱いていた、コンスタンツィヤ・グワトコフスカへの想いを表現されている。まさに「初恋」の音楽です。
- 第3楽章 Allegro vivace
この第2楽章こそは、紛うかたなき「初恋のコンチェルト」です
マルグリット・ロンという名前も次第に忘却の彼方に沈みつつあるような気がします。
若手の登竜門といわれる「ロン=ティボー国際コンクール」も、その名前の「ティボー」がヴァイオリニストのジャック・ティボーに由来することは知られていても、「ロン」がピアニストの「マルグリット・ロン」に由来することはあまり知られていないような気がします。
それにしても、フランスというのは実に素敵な女性を生み出すものです。
ピアニストで言えば、この「マダム・ロン」以外にも「6人組の女神」とあがめられた「マルセル・メイエル」がいました。
ヴァイオリニストならばなんと言っても「ジネット・ヌヴー」でしょうが、「ミッシェル・オークレール」も忘れるわけにはいきません。
渋いところではオルガン奏者の「マリー=クレール・アラン 」も数え上げたいです。
共通するのは、トップに躍り出て目立とうとするような野心とは縁遠いので常に一歩下がったポジションにいるのですが、音楽を聞き込んできた「玄人筋」には至って評判が高いと言う事です。
その「背景」にあるのは「知的」という要素でしょうか。
そう言えば、聞くところによると「マダム・ロン」は「ハイ・フィンガー・テクニック」の信奉者だったそうです。
昨今は至って評判の悪いテクニックらしいのですが、おそらくは「マダム・ロン」が愛した音楽にとってそれはとても有効な演奏法だったのでしょう。
考えても見てください、あの「マダム・ロン」が腕や身体全体を使ってチャイコフスキーやラフマニノフのコンチェルトを演奏している姿が想像できますか。
つまりは、そう言う世界はロンにとっては無縁であって、彼女が愛したフォーレやラヴェル、ドビュッシー、そして何よりもモーツァルトの音楽にとっては、その「ハイ・フィンガー・テクニック」による「ジュー・ベルレ(真珠をころがすようなタッチ)」こそが相応しかったのです。そして、音楽をパワーによってねじ伏せるのではなくて知的に語るためには、その奏法が生み出す繊細な響きが必要不可欠だったのです。
おそらく、そのあたりが、昔の演奏家の偉かったことであり、幸せだったところです。
彼らは自分が愛した音楽しか演奏しませんでしたから、そのテクニックやメカニズムも、その音楽に相応しいスタイルに特化できたのです。
確かに、この奏法でピアノに覆い被さってくるようなオーケストラに対抗するのは無理ですし、もしもその無理を押し通せば必ず腱鞘炎になってしまうでしょう。(^^;
しかし、逆に見れば、そう言うオーケストラに対抗できるような奏法では、ファーレやドビュッシーに必要な繊細な響きを十全に表現するのは無理なのです。
おそらく、今の不幸は、そう言う繊細な問題を無視してオール・マイティが求められることでしょう。
言うまでもないことですが、「マダム・ロン」にしてみれば演奏すべき音楽と演奏するべきでない音楽とは明確であり、どれほどの有名作品であっても、それが「演奏すべきでない音楽」であればプログラムにのることは絶対にないのです。
そう言う彼女の潔さがよくあらわれているのが、このショパンのコンチェルトでしょう。
彼女にとって演奏すべきショパンのコンチェルは「第2番」であって、「第1番」ではなかったのです。
そして、「マダム・ロン」のピアノでこのコンチェルト聞けば、この作品がよりモーツァルトに近くて、「第1番」は明らかにチャイコフスキーやラフマニノフの世界につながっていくことを教えられます。
私にとってこの作品のベストは長きにわたって
コルトーの古い録音だと確信していたのですが、このロンの演奏もそれに劣らないほどに素晴らしいものです。
そして、その素晴らしさはオール・ラウンド・プレーヤーという無理な要求は最初から拒否をして、ひたすら自分の愛した音楽にだけに取り組んできたという「潔さ」が生み出したものでした。
とりわけ、この第2楽章こそは、紛うかたなき「初恋のコンチェルト」です!!
「ジュー・ベルレ」がもたらす響きはあっさりしすぎていると感じるかもしれませんし、もう少し濃厚に歌ってもいいように思うかもしれませんが、そうすればもはや「初恋」の儚さと美しさは失われます。
それにしても、この儚くもみずみずしい情感を聞くとき、それが80才を目前にした人のものだと誰が信じられるでしょうか。
また録音に関しても1953年なので、まさにモノラル録音完成期のものです。
何度も同じ事を繰り返して恐縮なのですが、もしも「モノラル録音」だというだけで聞くべき対象から外してしまえば、それはあまりにも大きな人生における損失だと言わねばなりません。
この演奏を評価してください。
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