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メニューヒン(Yehudi Menuhin)|ベートーベン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
ベートーベン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
(Vn)メニューヒン フルトヴェングラー指揮 ルツェルン祝祭管弦楽団 1947年8月日28日~29日録音
Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61 [1.Allegro ma non troppo]
Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61 [2.Larghetto]
Beethoven:Violin Concerto in D major, Op.61 [3.Rondo]
忘却の淵からすくい上げられた作品

ベートーベンはこのジャンルの作品をこれ一つしか残しませんでした。しかし、そのたった一つの作品が、中期の傑作の森を代表するする堂々たるコンチェルトであることに感謝したいと思います。
このバイオリン協奏曲は初演当時、かなり冷たい反応と評価を受けています。
「若干の美しさはあるものの時には前後のつながりが全く断ち切られてしまったり、いくつかの平凡な個所を果てしなく繰り返すだけですぐ飽きてしまう。」
「ベートーベンがこのような曲を書き続けるならば、聴衆は音楽会に来て疲れて帰るだけである。」
全く持って糞味噌なけなされかたです。
こう言うのを読むと、「評論家」というものの本質は何百年たっても変わらないものだと感心させられます。
ただし、こういう批評のためかその後この作品はほとんど忘却されてしまい、演奏会で演奏されることもほとんどありませんでした。その様な忘却の淵からこの作品をすくい上げたのが、当時13才であった天才ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムでした。
1844年のイギリスへの演奏旅行でこの作品を取り上げて大成功をおさめ、それがきっかけとなって多くの人にも認められるようになりました。
この曲は初演以来、40年ほどの間に数回しか演奏されなかったと言われています。そして1844年に13歳のヨアヒムがこの曲を演奏してやっと一般に受け入れられるようになりました。
第一楽章 アレグロ・マ・ノン・トロッポ
第二楽章 ラルゲット
第三楽章 ロンド アレグロ
歴史的価値のある録音
メニューインとフルトヴェングラーによるベートーベンのヴァイオリン協奏曲をアップしていなかったという事実に今さらながら驚いています。
このコンビによる「ロマンス」の録音があまりにも話題になっていない事実に驚いてあれこれ調べているうちに、何と肝心の協奏曲の方もアップしていないという事実に気づいたときには我ながら驚いてしまいました。そして、さらについでながらに言えば、このコンビによるバルトークのコンチェルトもアップしていなかったのです。
確かに、一時は寝ても覚めてもフルトヴェングラー!!と言う時期があったことは事実です。しかし、それもまた一種の熱病のようなもので(なんて書き方をするとフルヴェンファンからお叱りを受けるのですが^^;)、一段落ついてしまえば今度はかえって縁が遠くなってしまうというものです。その縁の遠さのゆえに、こういうサイトであればアップしておくべき音源まで見過ごしていたと言うことになってしまうようです。
ただ、ある時までは絶対的な名演とされていたこの録音も、今となってみればいろいろある優れた録音の中の一つというポジションというのが妥当なところでしょう。
ただ、ナチス協力者として戦後は演奏活動が禁じられていたフルトヴェングラーに対して救いの手を差し伸べたメニューインの話はあまりにも有名です。また、漸く音楽活動に復帰したフルトヴェングラーと共演しようとするソリストがいないときに、共演を名乗り出たのもメニューインでした。
しかし、このような活動が原因となってメニューインはアメリカの音楽界から閉め出されてしまい、やがて、彼はアメリカのユダヤ社会と訣別することになります。
50年代には活動の拠点をアメリカからイギリスに移し、1985年にはイギリス国籍を取得しています。
このあたりがメニューインという人の偉いところで、自分の頭で考えて正しいと思ったことは、一切の損得勘定を度外視して貫き通す潔さを持っていました。
こういう事は、言葉にすれば当たり前のことなのですが、その当たり前のことを実際に実行するとなるとどれほど難しいかは、宮仕えをされている方ならば痛いほどに分かるはずです。
メニューインと言えば若くして神童と謳われ、その後は成熟するにつれて「ただの人」になってしまったと言うことがよく言われます。そして、年を重ねるにつれてテクニックの衰えが酷くなったことを鬼の首を取ったように指摘して己の「偉さ」を誇示するような文章にあちこちで出会います。
確かに、音楽の「価値」というものが、それを保障するためのテクニックに依存していることは否定しません。しかし、それと同じくらいに、テクニックだけでは音楽の本当の素晴らしさは担保されないと言うこともみておかなければなりません。
例えば、ピアノのキーをどれほど間違いなしに叩くことが出来てもそれだけでは音楽にはならないのです。例え1万を超える音符があって、その全ての音符を間違いなしに叩くことが出来たとしても、それだけでは音楽になり得ません。
音楽の世界は基本的に体育会系の世界ですから、現場の演奏家からすればこういう物言いはあまりにも素人臭い文学的受容と言われるのでしょう。
しかし、音楽を再現する上で最も大切なことは音符を正確に音に変換する事ではなく、音符の向こう側にある音楽を音楽たらしめている本質的なものを感じとる感性です。
その様な感性の欠片も無しに音符を音に変換したとしても、それはもはや音楽とは呼べないただの雑音になってしまいます。
指はハートに仕えるべきであって、そのハートが表現したいものを現実の音に変換する指こそが本当に意味でのテクニックと呼べるのです。
メニューインほどの男が、その様なテクニックを失ってまでヴァイオリンに固執したなどとは私には到底思えないのです。
今さら言うまでもないことですが、47年の録音はフルトヴェングラーにとっては戦後初のスタジオ録音です。オケのルツェルン祝祭管弦楽団というのは、スイス国内からメンバーを選んで臨時編成されるオケなのですが、なかなか言い響きを醸し出すオケです。
冒頭部分からちょっと驚くほどの遅いテンポで始まるのですが、そのテンポのまま最後まで押し切るあたりがさすがはフルトヴェングラーです。とりわけ、中間のラルゲット楽章は深い感情に満たされていて聞くものの心に染み渡ってきます。残念ながら、録音的には恵まれないのですが疑いもなく「感動的」な演奏です
それと比べれば、53年のEMI録音はフルトヴェングラーがいささか全体のバランスを考えすぎて不完全燃焼だとよく言われます。
確かに、フルヴェンを聞きたい人にとってはいささか不満は残るのでしょうが、オケの響きには透明感があり、何よりもメニューインのソロが実に美しくすくい取られています。「ロマンス」のところでも言いましたが、ベートーベンのヴァイオリン協奏曲を聞くための演奏としては優れた録音です。
この演奏を評価してください。
- よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
- いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
- まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
- なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
- 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10
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よせられたコメント
2022-11-12:yk
- 先ごろハイフェッツ/トスカニーニによるこの協奏曲の録音がアップされ、懐かしさの余りコメント欄に駄文を投稿してしまいました。そのついで・・・と言っては何ですが、この曲でコレと対ともなるメニューイン/フルトヴェングラー盤の項を拝見すると、ここにはコメントが一つも無いうえに星評価が5にも満たないのに意外の感があり、なるほどクラシック音楽の世界にも”時代”と言うものがある・・・と改めて実感いたしました。
私はここん十年一貫してフルトヴェングラー命の旧人類なので”今さら・・・”の感もありますが、一言場外からこのメニューイン/フルトヴェングラーにもエールをば・・・・。
この組み合わせの録音にはルツェルン盤、フィルハーモニア盤ともう一つ1947年10月24日のベルリン・フィル盤があり、いずれも聴くべきものがあると思いますが、私個人的にはベルリン盤に一番胸熱くなるものがあります(機会が有れば是時ここでもアップしてください)。音楽を聴くのに演奏のバックグラウンドにある”文学”を持ち出すのは確かにフェアとは言えないものがありますが、それでもこの時期のメニューイン・フルトヴェングラーの組み合わせによるベートーベンの協奏曲から”第二次世界大戦後”・・・という時代を排して聴くことは、音楽の持つ意味・機能の重要な要素を見落とすことになると私は考えています。
五千万人ともそれ以上とも言われる戦争犠牲者の記憶も生々しかったこの時期に、ホロコーストの重い罪を背負ったドイツーフルトヴェングラーの指揮のもとユダヤ人のメニューインが(未だ廃墟の跡も生々しいベルリンで)ベートヴェンを演奏する・・・と言う場面・記録の意味はやはり(演奏に対する好悪は別にしても)格別のものがあり、実際注意して聞けばオーケストラ、独奏ヴァイオリンの一瞬一瞬、一音一音に演奏家たちが意味を込めようとする憧れにも似た平和への渇望が聞こえて、それはロシアによるウクライナ侵攻の現代にあっても通じるところが有るのではないかと思います。
メニューイン/フルトヴェングラーの演奏はハイフェッツ/トスカニーニとは全く異なる文脈の上での演奏とも言えますが、これほど異なる文脈の上にあって尚且つ全く矛盾なく両者を聴くことが出来る・・・という事実自身がベートーヴェンが音楽に求めた意味・普遍性だったのではないかと思えば、これらの将に”歴史的録音”が残されたことに深く感謝する次第。
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