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クリュイタンス(Andre Cluytens)|ラヴェル:「ダフニスとクロエ」組曲(Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.1 & No.2)
ラヴェル:「ダフニスとクロエ」組曲(Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.1 & No.2)
アンドレ・クリュイタンス指揮 フランス国立放送管弦楽団 1953年6月22日~23日&25日録音(Andre Cluytens:Orchestre National de l'ORTF Recorded on June 22-23&25, 1953)
Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.1 [1.Nocturne]
Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.1 [2.Interlude et Danse guerriere]
Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.2 [3.Lever de jour]
Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.2 [4.Pantomime]
Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.2 [5.Danse generale]
3部分からなる舞踏交響曲
「ダフニスとクロエ」は、ロシア・バレエ団を率いるセルゲイ・ディアギレフの依頼を受けて作曲したバレエ音楽だったのですが、出来上がった音楽にディアギレフはかなり不満があったようなのです。
それは、ディアギレフは「バレエ音楽」を依頼したににもかかわらず、出来上がった作品は「立派な管弦楽曲」だったからです。
確かに、ラヴェル自身もこの出来上がったバレエ音楽のことを3部分からなる舞踏交響曲と呼んでいたようです。
「私が目指したものは、古代趣味よりも私の夢想の中にあるギリシャに忠実であるような、音楽の巨大な壁画を作曲することだった。
その壁画は、18世紀末のフランス画家達が夢想し描いたものに、いわはおのずと似通っている。
作品はきわめて厳格な調の設計に基づき、少数の、展開が作品全体の交響的な均質性確かなものにする動機によって、交響音楽として組み上げられている。」
つまりは、コンサートのプログラムとして聞くには相応しくても、バレエ音楽を注文したつもりのディアギレフにとっては満足のいくものではなかったのです。
実際、現在は「第1組曲」と言われる部分だけが完成して、ピエルネ指揮のコロンヌ管弦楽団で初演されたというのそのあたりの事情を反映しています。そして、その「第1組曲」初演の翌年に全曲が漸くにして完成したのですが、「バレエ」の上演としてはかなり不満足な結果に終わってしまいます。
なお、ラヴェル自身が3つの部分と呼んだのは以下の通りです。
第1部 パンの神とニンフの祭壇の前
- 序奏~宗教的な踊り
- 全員の踊り
- ダフニスの踊り~ドルコンのグロテスクな踊り
- 優美な踊り~ヴェールの踊り~海賊の来襲
- 夜想曲~3人のニンフの神秘的な踊り
- 間奏曲
第2部 海賊ブリュアクシスの陣営
- 戦いの踊り
- やさしい踊り
- 森の神の登場
第3部 第1部と同じ祭壇の前
- 夜明け
- 無言劇
- 全員の踊り
先に完成した「第1組曲」は、第1部の「夜想曲」と「間奏曲」、そして第2部の「戦いの踊り」までが演奏され、組曲と言ってもそれらが一気に演奏されます。
そして、全曲が完成した翌年に「第2組曲」が完成するのですが、それもまた第3部がノーカットで演奏されるもので、違いがあるとすれば第2部から第3部へ移行する10小節がカットされているだけです。
ですから「第1組曲」も「第2組曲」も、組曲とはなっているのですが本体のバレエ音楽から抜粋したり、再構成したりというような事は一切していないのです。
つまりは、それだけ本体のバレエ音楽が交響的な音楽になっていると言うことの裏返しでもあるのです。
なお、「ダフニスとクロエ」のあらすじは以下のようなものです。
第1部 パンの神とニンフの祭壇の前
序奏に続いて祭壇に供える「宗教的な踊り」が捧げられます。
ダフニスとクロエが登場すると、娘達はダフニスを、若者達はクロエを囲んで踊り、やがて「全員の踊り」となります。
やがて、クロエに言い寄る牛飼いのドルコンをダフニスが遮ると、ダフニスとドルコンは踊りで勝負をすることになります。
まずは、ドルコンの「グロテスクな踊り」、続いてダフニスの「優美な踊り」が踊られ、勝ったダフニスはクロエからキスされて恍惚となります。
やがてクロエは一同と連れだって退場するのですが、一人に残った夢見心地のダフニスに年増女のリュセイオンが「ヴェールの踊り」で誘惑をします。
すると、突如「海賊の主題」が鳴り響いて海賊が襲来します。
クロエを気遣うダフニスト入れ違いにクロエが登場し、祭壇に額ずく彼女を海賊は連れ去ってしまいます。
再びその場に戻ってきたダフニスはクロエの靴を発見して絶望のあまりに卒倒してしまいます。
やがて「夜想曲」が流れ、3人のニンフが「神秘的な踊り」を踊っていると倒れているダフニスを発見して助け起こします。
3人のニンフがダフニスに神に祈らせるのですが、パンの神が姿を現すとダフニスはその場にひれ伏し、合唱を伴った「間奏曲」が流れてきます。
ちなみに、こんな所に「合唱」を使うのは「バレエ」には不要な無駄遣いだとしてディアギレフは全く気に入らなかったようです。
第2部 海賊ブリュアクシスの陣営
間奏曲から切れ目なしに粗野であっても活気に溢れた海賊達の「戦いの踊り」が演奏されます。
そして、海賊の首領の前に連れて来られたクロエは「やさしい踊り」で許しを乞います。そして、脱出の機会をうかがうのですが失敗してしまいます。
ところが、まさにあわやというところで、突然山羊の脚をした森の神が登場すると雰囲気は一変し、さらには大地が裂けてパンの神の巨大な幻影が現れると海賊たちは先を争うようにして逃げ去ってしまうのです。
第3部 第1部と同じ祭壇の前
「夜明け」の歌によって夜はまさに明けようとし、小鳥は歌い出します。そして、この音楽の後にダフニスとクロエの感動的な再会を果たします。
老いた羊飼いは、パンの神はかつて愛したシリンクスの思い出ゆえにクロエを助けた事を教えます。
そこで、ダフニスとクロエは「無言劇」を演じます。
パンの神が吹く蘆笛にシラーンクスの心は高まり、やがて彼女の方から神の胸に飛び込むというストーリーを演じてみせたのです。
そして、ダフニストクロエは祭壇の前で愛を誓うと、全員がパンの神とニンフを讃えて「全員の踊り」を沸き立つような熱狂の中で踊るのです。
モノラル時代の録音があったとは・・・
クリュイタンスのラヴェル録音と言えば61年から62年にかけてまとめて録音したものが思い浮かびます。あの録音は英コロンビアはが4枚セットの箱入りとして発売したのですが、この初期盤は音の素晴らしさもあって今ではとんでもない貴重品となっているようです。
しかし、あの録音には、今となってはいろいろとエクスキューズがつくようになっています。
そのエクスキューズとは何かと言えば、「オケが下手すぎる」に尽きます。
例えば、歴史的名演と言われる「ボレロ」などを聞けばすぐに気がつくのですが、管楽器があちこちで音を外しています。酷いのになると「酔ったオジチャンが、ろれつがまわっていない」という極めて的確な評価が下されていたりします。
そうなんです、昨今の演奏と録音になれてしまった耳からすればあまりにも緩いのです。
しかし、そこにはフランスのオケが持っているかけがえのない美質と、宿命的に背負わざる得ない弱点が表裏一体になっていました。
フランスのオケというのは、プレーヤー一人一人の腕は確かです。しかし、彼らはその腕を全体のために奉仕するという気はあまり持ち合わせていません。
ですから、リハーサルをしっかりと積み上げて縦のラインをキチンと揃えることにはあまり興味を持っていませんし、そもそもそう言うことに価値を感じないのです。さらに言えば、現在でもフランスのオケのプレーヤーは事前にスコアに目を通すような「面倒くさい」事はやらないようで、慣れていない曲をやるときは変なところで飛び出したりしてもあまり気にしないそうです。
素晴らしい響きで演奏してくれる対価としてアンサンブルの緩さが避けられないというこの二律背反の中にあって、絶妙なバランスでラヴェルを録音したのが件の4枚組セットであり、それはクリュイタンス以外には到底為し得ないわざだったのです。
クリュイタンスという人はそう言うオケの気質を知り尽くして、それをコントロールする術を身につけた人でした。
俺が俺がと前に出たがる管楽器奏者を自由に泳がせながら、それをギリギリのラインで一つにまとめていく腕と懐の深さを持っていました。
結果として、トンデモ演奏になる一歩手前で踏ん張りながら、そう言うフランスのオケならではの美質があふれた演奏を実現できました。
そんなクリュイタンスに、50年代前半にモノラルで録音したラヴェルがあったことに最近気づきとても驚かされました。
そして、その素晴らしさに驚くとともに、新しいものが出てくれば過去の古いものは捨てられてしまうと言うこの業界の罪深さを思わずにはおれませんでした。
モノラル録音で注目すべきは、オーケストラがコンセルヴァトワールのオケではなくて、フランス国立放送管弦楽団だということです。これは非常に大きな意味を持ちます。
それは、フランス国立放送管弦楽団がコンセルヴァトワールのように最初から合わせることに意義を見いださないというオケとはその性質を大きく違えていることです。
それはそうでしょう。
フランス国立放送管弦楽団はその名の通りフランスラジオ放送(RDF)専属のオーケストラとして創立された楽団で、幅広いレパートリーに挑戦する必要のあるオケでした。
ですから、最初から合わせることに意味を感じないというオケではありません。しかも、歴代の指揮者がフランス音楽を得意とした事もあって、フランスのオケならではの色気も色濃く持っています。
アンサンブル的に見れば、疑いもなく60年代のコンセルヴァトワールよりははるかに優れています。おそらく、難点はステレオではなくてモノラル録音だということくらいなのでしょうが、ラヴェルの管弦楽作品にってはその差は小さくありません。
しかし、モノラル録音としては申し分のないクオリティは持っています。そして、スイスの時計職人とよばれたラヴェルの精緻なオーケストレーションを味わうには不足はありません。何といっても、オケの響きそのものがコンセルヴァトワールよりははるかに精緻だからです。
いやはや、おそらく知っている人から見れば今さら何を言っているんだと言うところなのでしょうが、こういう埋もれた録音を発掘して紹介できるのはこういうサイト運営しているもにとっての一番の醍醐味です。
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よせられたコメント
2024-06-16:べんじー
- ォー、合唱入りの録音だったのですね!!
モノラルゆえに音量の制約はあれど、ラヴェルの音楽が持つ、香気と精緻さの両方とを兼ね備えた、素晴らしい演奏だと感じます。
アンサンブルの中に溶け込みながらも、時に煌めきながら浮き上がるフルートの音色は、もしかして名手・デュフレーヌ?と、楽しく想像しています(^^♪