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スッペ:「詩人と農夫」序曲

フランツ・アンドレ指揮 ベルギー国立放送管弦楽団 1966年発行



Suppe:Dichter und Bauer, Overture


オペレッタの序曲と言われるのですが、じつは正体不明の音楽です

スッペの作品と言えば、こんな風に書かれるのが一般的です。

存命中はウィーンを中心に指揮活動を展開し、100を超えるオペレッタやバレエ音楽を作曲しました。
実はウィーンでオペレッタを作曲した最初の人はこのスッペであって、「ウィーンオペレッタの父」と呼ばれることもあります。しかし、彼の死後、それらの作品のほとんどは忘れ去られ、現在では演奏される機会はほとんどありません。
おそらくは、「詩人と農夫」や「軽騎兵」序曲などで一般によく知られているくらいです。


しかしながら、実際はヨーロッパの劇場ではけっこうしぶとく上演される機会があるようです。気楽な一夜の楽しみとしては十分なクオリティは持っていると言うことなのでしょう。
「軽騎兵」序曲に代表されるように、オーケストラの威力を誇示するにはピッタリの音楽もたくさん書いているので、大衆受けする能力にも溢れていたと言うことです。

そんなスッペの人気曲の一つがこの「詩人と農夫」です。
そして、この作品もまたオペレッタは忘れ去られたものの「序曲」だけは今もコンサートで取り上げられますと言われるのですが、実のところを言えばその正体が実に曖昧なのです。

なぜならば、本体のオペレッタの方は「忘れ去られる」どころか「楽譜」そのものが残っていないのです。
そして、残っているのがこの「序曲」と「ワルツ」だけなので、この作品はオペレッタではなくて「詩人と農夫」という「劇」につけられた付随音楽だったのではないかという人もいます。
ところが、そうだったとしても、その肝心の「詩人と農夫」なる「劇」のストーリーすらも不明なのです。

創作年代を見てみると、彼が本格的にオペレッタを書き始める前の作品なので、今では全く忘れられ散逸してしまった劇作品に対して習作的に音楽をつけたものだったのかもしれません。
全体は6つの部分に分かれた「接続曲」というスタイルをとっているのですが、耳に心地よい魅力的な旋律やオケが豪快になる場面などがふんだんに用意されていて、聞くものの心をとらえる術に長けたスッペの姿がはっきりと刻み込まれています。


音楽をすることの楽しさが溢れている

オペレッタというのは一般的には「喜歌劇」と訳されます。しかし、その中味は喜劇だけではなく、ラヴロマンスや風刺劇、さらには涙をさそう悲劇というものもあります。ですから、本来は「小さな歌劇」と訳した方が妥当なのかもしれません、
しかし、オペラとオペレッタの一番の違いは、オペラは貴族や裕福な市民層によって支えられていたのに対して、オペレッタは一般庶民によって支えられていたという点です。ですから、オペレッタには小難しい約束事や、それくらいは知っていて当然だろうというような素養などが一切求められなません。
ですから、お高くとまった教養よりはユーモアやウィットに富んだ洒落て楽しい舞台であることが求められました。

それ故に一般的にはオペレッタはオペラよりも一段低いものと見なされ、私がよくヨーロッパを訪れていた1990年代頃までは、例えばウィーンの国立歌劇場などではヨハン・シュトラウスの「こうもり」だけを例外として、オペレッタは一切上演しないという不文律がありました。ただし、今はどうなっているのかは承知していません。
さらに言えば、オペレッタのアリアを録音したシュヴァルツコップをマリア・カラスが批判したのも有名な話です。カラスにしてみれば、いやしくも、歌劇場の舞台に立つプリマがオペレッタのアリアを歌うなどと言う行為は論外だったのでしょう。

しかし、音楽なんてものは精神性がどうのこうのと言ったところで、聞いて楽しくなければ客は集まりません。ですから、ヨーロッパの歌劇場の全ては国や行政からの支援なしでは成り立たない構造になっているのに対して、各地方にある小さなオペレッタの劇場はそういう支援なしに自前で運営しているところも少なくありませんでした。
ただし、これも今はどうなっているのかは知りません。
しかし、かつてはそう言うオペレッタの歌劇場は数多くあったことは事実であり、それは、多くの一般庶民が聞きたいのはそう言う楽しくてお洒落で明るい音楽だったと言うことです。

さすがに、歌手とは違ってオーケストラの場合は名のあるコンサート・オーケストラであっても、なんの躊躇いもなくオペレッタの序曲などは演奏しますし、録音もします。
しかし、こういう録音を聞くと、そう言う上品な演奏とは違うので、きっとヨーロッパの地方の劇場で日々演奏されている音楽はこういう感じなんだろうなと納得させられます。とにかく、音楽をする事が楽しくて楽しくて仕方がないという雰囲気がひしひしと伝わってきます。
おそらく、指揮者も小難しいことは言わないのでしょう。みんなが一緒になって音楽を楽しんでいるという雰囲気がたまりません。

もちろん、ウィーンフィルやベルリンフィルのようなエリート・オーケストラによる録音と演奏等はさすがと思わせる輝きがあることは否定できないのですが、音を楽しむ「音楽」という点ではこういう録音も侮れません。

なお、指揮者に関してはほとんど知らない人たちです。
それでも、フランツ・アンドレはベルギーを代表する指揮者で、1951年から1964年までエリザベート王妃国際音楽コンクールの伴奏指揮という骨の折れる仕事をつとめた指揮者でした。
アルトゥール・ローターは世界初のステレオ録音であるギーゼキングとの「皇帝」の伴奏指揮者として知られているのですが、戦後はかなり不遇でB級指揮者扱いのようでした。
ハンスゲオルク・オットーに至ってはほとんど情報がありません。

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