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エルガー:交響的習作 ファルスタッフ, Op.68

アンソニー・コリンズ指揮 ロンドン交響楽団 1954年2月22日~25日録音



Elgar:Falstaff - Symphony Study, Op.68 [1.Falstaff and Prince Henry(Allegro)]

Elgar:Falstaff - Symphony Study, Op.68 [2.Falstaff and Prince Henry(Allegro molto]

Elgar:Falstaff - Symphony Study, Op.68 [3.Dream Interlude (Poco allegretto)]

Elgar:Falstaff - Symphony Study, Op.68 [4.Falstaff's march(Allegro)]

Elgar:Falstaff - Symphony Study, Op.68 [5.Interlude: Gloucestershire. Shallow's orchard (Allegretto)]

Elgar:Falstaff - Symphony Study, Op.68 [6.King Henry V's progress ? The repudiation of Falstaff, and his death]


熱烈なシェイクスピア愛好者

この作品は「交響的習作(Symphonic Study)」となっているので、エルガーの若き時代の習作かと勘違いされそうなのですが、作曲されたのは彼がすでに世界的名声を確立した後の1913年のことでした。
では、何故にそんな時代の作品に「習作」などとネーミングしたのかと言えば、これはリストやリヒャルト・シュトラウスの作品を参考にした「交響詩」だったからです。まあ、謙虚と言えば謙虚な話です。

ちなみに、エルガーは熱烈なシェイクスピア愛好者であり、主要作品の科白を暗唱できるほどでした。ですから、彼がシェークスピア作品をもとにした作品を書く意欲は最初から持っていて、特に強い関心を寄せていたのが「ファルスタッフ」でした。

作曲にあたりエルガーは大量のシェイクスピア研究書を読破し、ファルスタッフを「悪意を持たない悪漢、偽らない虚言者、威厳も品位も名誉もない騎士、紳士、戦士」という、矛盾と葛藤に満ちた人物と分析していました。
この作品は単一楽章ですが、エルガーの解説によれば2つの短い間奏を含む4部構成となっています。
フォルスタッフは鷹揚で人間味のある主題、ハル王子は快活で高貴な主題で描かれ、対比的に用いられています。リヒャルト・シュトラウスの影響もみられる色彩豊かなオーケストレーションと、複雑な対位法的な技巧が特徴です。

物語はフォルスタッフとハル王子の関係から始まり(第1部)、フォルスタッフの根城である酒場での出来事(第2部)、若き日の回想(中間部)、そしてヘンリー5世による拒絶とフォルスタッフの死(第4部)へと展開します。
その表現力と深みのある描写は、エルガーの作曲家としての真価を示すものです。


  1. 第1部:フォールスタッフとハル王子
    尊大なファルスタッフとハル王子の快活さをあらわす二つの主題が自由に変形されながら音楽が展開されていきます。

  2. 第2部:イーストチープの猪首亭
    ファルスタッフが根城にする居酒屋での出来事が語られています。居酒屋でふんぞり返るファルスタッフ、手下とともに金塊を強奪するファルスタッフ、そして、ハル王子に出し抜かれて獲物を掠め取られてしまうファルスタッフ、最後に、酒で憂さを晴らすファルスタッフが描かれます。

  3. 間奏曲(1)
    夢若き日のフォールスタッフを回想する音楽。

  4. 第3部:ファルスタッフの行進とロンドンへの急ぎの帰京
    ファルスタッフは手勢を集め怪しげな風体の一団の行進をはじめます。そして、ヘンリー4世が崩御してハル王子が国王に即位することを知ると、王子による引き立てを期待して急いでロンドンに向かいます

  5. 間奏曲(2)
    グロスターシャー州の判事シャローの果樹園で~ロンドンへの帰還

  6. 第4部:ヘンリー5世の行進とフォールスタッフの拒絶とその死
    ヘンリー5世となったハル王子と軍勢が堂々と近づいて来るのですが、ファルスタッフの期待に反しては新国王に冷たく拒絶されてしまいます。



丁寧に作曲家に寄り添った演奏

生粋のイギリス人指揮者というのは、なんだかイギリスの作曲家の作品を演奏し録音する事が一つの義務のようになっているように見えてしまいます。そして、なかにはビーチャムとディーリアスとか、ボールトとヴォーン・ウィリアムズのように、分かちがたく結びついているような組み合わせもあります。
ただし、もう一つ不思議だと思うのですが、イギリス作曲家の作品としては断トツに知名度のあるホルストの「惑星」を録音しているイギリス人指揮者はあまり多くないと言うことです。
ボールトは複数回録音を残していますが、例えばバルビローリやビーチャムという大御所たちはスタジオ録音を残していないのではないかと思います。そして、ここで紹介しているコリンズも録音は残していません。

コリンズに関して言えば、ビゼーの「カルメン組曲」で見せたようなスタンスで「惑星」を録音していれば、随分と面白い、ワクワクするような演奏を残してくれたかもしれません。
さらに言えば、エルガーの一番有名な「威風堂々」などもそれほど熱心には取り上げていないようです。

そして、その代わりと言えばへんですが、大陸側の指揮者が取り上げそうもないイギリス人作曲家の作品は熱心に取り上げるのです。もしかしたら、「惑星」の録音に彼らが熱心でなかったのは、自分たちが取り上げなくても大陸の方でいくらでも録音されると思っていたのかもしれません。
そう言えば、ホルストの「惑星」で大ヒットを記録したカラヤンはエルガーやディーリアスの作品は一つも録音していないはずです。ヴォーン・ウィリアムズに関してはかろうじて「トーマス・タリスの主題による幻想曲」だけを録音していますが、それも1953年の一回だけです。

そう考えれば、イギリスの作曲家の作品が今もそれなりに認知されているのは、そう言うイギリス人指揮者の献身があったからだとも言えそうです。
そう考えれば、日本のオーケストラや指揮者はもう少し日本の作曲家の作品に理解があってもいいのではないかと思われます。

そして、話をコリンズに戻せば、彼もまた熱心にエルガーやディーリアス、ヴォーン・ウィリアムズの作品を取り上げています。
残念ながら、その演奏の一つ一つにコメントをつけられるほどに彼らの作品を聞いていないのですが、間違いがないのは、あのビゼーの「カルメン組曲」で見せたようなエンターテイメント性はバッサリと切り捨てて、実に丁寧に作曲家に寄り添って、いらぬ主観性は排して自らは一歩引いた地点で音楽を形づくってています。
そう言う意味では、ボールトのような厳しさやバルビローリのようなイギリス訛りは薄くて、どこかアメリカの即物的なスタインバーグのようなアプローチだといえるのかもしれません。

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