クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~




Home|アンチェル(Karel Ancerl)|ロッシーニ:「ウィリアム・テル」序曲

ロッシーニ:「ウィリアム・テル」序曲

カレル・アンチェル指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1960年6録音



Rossini:William Tell Overture


序曲だけがあまりにも有名になりました。

オペラそのものはあまり上演されないのに、その序曲だけが有名になると言うことがあります。小学校の音楽の時間には必ず聞かされたスッペの「軽騎兵序曲」などはその典型例ですが、このウィリアム・テル序曲の知名度もオペラ本体と比べると段違いです。
 もっとも、こちらはオペラそのものの出来が悪いと言うよりは、あまりにも規模が大きすぎて上演される機会が少ないことがその原因となっています。現役盤のカタログをくってみても、この全曲盤はムーティによるワンセットだけみたいで(2001年頃の話ですが・・・^^;)、それも限定盤のようです。こうなると、このオペラの全貌を聞く機会はほとんど無いと言うことであり、結果として序曲とオペラ本体とのポピュラリティにますます差が出きると言うことになります。


 この作品はスイス兵の行進を表すテーマがあまりにも有名で、テレビなどではその部分だけが使われる事が多いので、作品そのものも「あのテーマ」からはじまるように思われています。
 それだけに、はじめてこの作品を聞いた人は、いったい何の曲がはじまったのか?と思うようです。
 聞いてもらえば分かるように、この作品は4つの部分からなっています。「夜明けー嵐ー静けさースイス兵の行進」です。
 冒頭の夜明けはウェーバーを連想させるような、まさにゲルマンの森の描写です。まさに「あのテーマ」とは正反対の音楽ですから、「一体何がはじまったんだ?」と思うのも無理はありません。しかし、最後のスイス兵の行進で聞くことができる弾むようなリズムと前進力にあふれる旋律はいかにもロッシーニらしい音楽となっています。

 私は、この序曲を聴くと、変な連想ではありますが、ショスタコーヴィッチの最後のシンフォニーとなった15番を思い出します。
 この作品には、作曲家自身が幼いときに大きな影響を受けた音楽として二つのメロディが引用されています。一つがワーグナーの「ワルキューレ」に出てくる「運命の動機」で、もう一つがウィリアム・テル序曲の「あの有名なテーマ」です。
 序曲の有名なテーマは第1楽章に都合5回も引用されていますが、このテーマがショスタコーヴィッチ自身が生まれてはじめて好きになった旋律だと言うことを息子のマキシムが語っています。幼いショスタコーヴィッチがこのウィリアムテル序曲の有名なテーマを聞いてはキャッキャと喜んでいる姿が浮かんで来るようなエピソードです。
 そして、まさにこのような分かりやすさと親しみやすさこそがロッシーニの真骨頂だったことを考えると、ロッシーニを褒め讃えるのにこれほど素晴らしいエピソードもないように思います。


アンチェルにとってのザッハリヒカイトは音楽の本質に迫るための結果であったのかもしれません

アンチェルの業績を振り返るときに、このような小品の録音はそれほど大きな位置は占めないでしょう。
しかしながら、小品というものはその短い時間の中で完結しているが故に、それを演奏する人の本質的な部分がより凝縮してあらわれるものです。

アンチェルは、敢えて分類するならばザッハリヒカイトなスタイルを踏襲した指揮者と言えるでしょう。
しかしながら、それはトスカニーニからライナー、セルへと繋がっていく系譜とよく似通ってるように見えながら、その本質的な部分において全く異なるようなものを持っているような気もします。
それは、トスカニーニやライナー、セルがヨーロッパに出自をもちながらも、長いアメリカでの活動を通して全く新しいスタイルを確立していったと言うことが影響しているのかもしれません。

しかしながら、それではドイツの「ミニ・トスカニーニ」と言われた若い時代のカラヤンと似ているのかと言えば、それもまた随分と異なります。

アンチェルの音楽を聞いていて、いつも感心させられるのはその純度の高さです。
いや、トスカニーニ以降のザッハリヒカイトの流れというのは、ロマン主義的歪曲を排除することによって音楽の純度を高めることだったのですから、それは当然と言えば当然のことだったのかもしれません。ですから、より正確に言えば、彼らが指向する純度と、アンチェルが指向した純度とでは本質的な部分において違いがあると言うことなのです。

そこで気づくのは、トスカニーニしてもライナーにしてもセルにしても、彼らはまず音楽のアンサンブルを極限まで高めることからスタートしたと言うことです。作曲家の意志に忠実に、楽譜に忠実にと言うことであれば、まずは忠実に演奏できるように徹底的にオケを鍛えることが必要だったのです。
もちろん、彼らはそれで事足れりなどとは思ってはいなかったのですが、とにもかくにも、その事が完璧に実現できなければ一歩も前に進まなかったのです。
それは、セルが手兵のクリーブランド管について「私たちは他のオケならばリハーサルを終える時点からリハーサルを開始する」と豪語したことを思い出させます。

おそらく、若い時代のカラヤンも同様だったと思うのですが、彼らはまずは音楽の外形からアプローチを開始したのです。例えてみれば、それは外堀から埋め立てていって本丸に至ろうとするアプローチだったのかもしれません。
話が脇にそれますが、彼ら以降に星の数ほど生み出された「楽譜に忠実な演奏」の少なくない部分がつまらないのは、そうやって何とか外堀を埋めただけで作業をやめているからです。

しかし、アンチェルが実現した「純度」を吟味してみれば、そのアプローチをは全く異なるものだった事に気づきます。
彼は何よりも音楽の本質を直感的に把握し、そこからスタートしたように見えるのです。
そして、その本質的なものを磨き上げ純度を高めるためにオケのアンサンブルを要求しているように聞こえるのです。

トスカニーニ達にとってザッハリヒカイトというアプローチが音楽の本質に迫るための手段であったとするならば、アンチェルにとってのザッハリヒカイトは結果であったのです。

もちろん、どちらが良いとか悪いとか言う話ではありません。
しかし、そう言うアンチェルのアプローチがもたらす音楽には、彼以外では聞くことのできない魅力に溢れていることは間違いありません。
そして、そう言う魅力がストレートに伝わってくるのがこういう一連の小品の録音なのです。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



3785 Rating: 5.4/10 (166 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント




【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-09-16]

メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 Op.54(Mendelssohn:Variations Serieuses, Op.54)
(P)エリック・ハイドシェック:1957年9月20日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n September 20, 1957)

[2025-09-14]

フランク:天使の糧(Franck:Panis Angelicus)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)

[2025-09-12]

ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 作品55「英雄」(Beethoven:Symphony No.3 in E flat major , Op.55 "Eroica")
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年3月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on March, 1961)

[2025-09-10]

ブラームス:弦楽四重奏曲 第1番 ハ短調(Brahms:String Quartet No.1 in C minor, Op.51 No.1)
アマデウス弦楽四重奏団 1951年録音(Amadeus String Quartet:Recorde in 1951)

[2025-09-08]

フォーレ:夜想曲第2番 ロ長調 作品33-2(Faure:Nocturne No.2 in B major, Op.33 No.2)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-09-06]

バッハ:小フーガ ト短調 BWV.578(Bach:Fugue in G minor, BWV 578)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

[2025-09-04]

レスピーギ:ローマの噴水(Respighi:Fontane Di Roma)
ジョン・バルビローリ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1939年1月21日録音(John Barbirolli:Philharmonic-Symphony Of New York Recorded on January 21, 1939)

[2025-09-01]

フォーレ:夜想曲第1番 変ホ短調 作品33-1(Faure:Nocturne No.1 in E-flat minor, Op.33 No.1)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-08-30]

ベートーベン:交響曲第2番 ニ長調 作品36(Beethoven:Symphony No.2 in D major ,Op.36)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年4月20日録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on April 20, 1961)

[2025-08-28]

ラヴェル:舞踏詩「ラ・ヴァルス」(Ravel:La valse)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団 1960年録音(Rene Leibowitz:Orcheste de la Societe des Concerts du Conservatoire Recorded on 1960)