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ウィリアム・スタインバーグ(William Steinberg) |ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(管弦楽曲版)
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(管弦楽曲版)
スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1958年10月29日録音 Ravel:Pavane Pour une Infante Defunte
シャブリエの顕著な影響と,貧弱な曲形式
ラヴェルは後にこの作品について次のように述べています。
「悲しいかな!私にはこの曲の持つ至らなさが手に取るように見えてしまう。
シャブリエの顕著な影響と,貧弱な曲形式。
思うに,この不完全かつ冒険心のない曲が成功を収めたのは,演奏家の卓越した曲解釈が大きく寄与していたからではないか。」
ただし、いわゆる人格破綻者の群れとしか思えないような大作曲家の中では、珍しくも「いい人」だったラベルと言う人の特質は割り引いて考える必要があります。しかし、そう言う自己批判力の強さを割り引いたとしても、後のラヴェルのピアノ作品と比べればあまりにもサロン的な作品だとは言えます。
しかし、その「サロン的」な雰囲気と、思わせぶりなタイトルの効用もあって、発表当時も、そして今もなおボレロなどと並んでなかなかの人気を博しているという現実はなかなかに皮肉です。
ラヴェルは単なる語呂合わせで「亡き王女のためのパヴァーヌ」・・・「infante défunte」と付けたらしいのですが、この作品を発表してからは会う人ごとに「この王女とは誰なのか」と言う質問を挨拶代わりのようにぶつけられてすっかり閉口してしまったようです。確かに、この作品の甘く夢見るような雰囲気とこのタイトルは実にピッタリで、誰しもが作曲家はどの様な王女をイメージして今作品を書いたのだろうと思わせずにはおれない魅力を持っています。
明るくて健康的な音楽
スタインバーグと言えば協奏曲の伴奏をやっている地味な指揮者というイメージがあります。そのイメージの原因となったのがミルシテインとのコンビで録音した数多くのコンチェルトでしょう。
ミルシテインは今も20世紀を代表するヴァイオリニストとして認知されていますから、それらの録音の多くは今も現役盤です。つまりは半世紀以上の時間が経過してもそれらの録音は多くの人の目に触れる機会があり、その目にふれた録音のクレジットを眺めるといつもスタインバーグ指揮、ピッツバーグ交響楽団という記述があるというわけです。
そして、不幸なことに、現役盤を眺めまして見ても「スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団」だけで録音された演奏がほとんど存在しないのです。
結果として、スタインバーグという指揮者に「地味な伴奏指揮者」というイメージができあがってしまったわけです。
しかし、「ああ、あのミルシテインの伴奏をいつもやっていた人ね」みたいな認識がある方がまだしもましで、「スタインバーグって誰?」という反応の方が一般的かもしれません。
もしかしたら、熱心にPCオーディオに取り組んできた人なら、「知っているよ!ASIO規格を作ったドイツの会社でしょう!!」なんて言われてしまうかもしれません。実際、Googleで「スタインバーグ」と検索すれば一番にヒットするのはそのスタインバーグ社の方です。
スタインバーグという指揮者は典型的な職人タイプの指揮者でした。
いますね、こういう人。
結構いい仕事をしてきたのに、そして、元気に活躍していたときはあちこちからたくさんのお仕事が殺到していたのに、何故か亡くなってしまうと一気に認知度が下がってしまうと言うタイプです。そして、その忘れ去られた録音を久しぶりに引っ張り出して聞き直してみると、これまた不思議なことにどれもこれも「いい仕事」をしているのです。
不思議と言えば不思議、理不尽と言えば理不尽なのですが、それが「芸の世界」というものなのでしょう。
スタインバーグの音楽は基本的にはトスカニーニのスタイルなのでしょうが、あの頑固親父みたいに屈折していないのが素敵でもあり、残念でもあるのです。もしも、彼がもっと屈折していれば、セルやライナーのようになっていたかもしれません。しかし、彼はああいう変人になるには人がよすぎたみたいです。
彼が1952年から1976年まで率いたピッツバーグ響のことを「二流オーケストラ」と書いている人がいますが、それはあまりにも聞く耳がなさすぎます。四半世紀にもわたってこの職人的オーケストラビルダーに率いられたオケが二流であるはずがありません。50年代のモノラル録音を聞いても楽器間のバランス感覚は抜群で、内部の見通しのよいすっきりとした音楽に仕上げる能力を有していたことは誰でもすぐに分かるはずです。
言うまでもないことですが、当時の録音技術では後から楽器間の音量バランスを調整するなどと言うことは不可能ですから、この見通しのよい響きが実際のコンサートホールで鳴り響いていたはずです。
確かに、90年代以降のハイテクオケと比べれば精緻さには欠けるかもしれませんが、この時代の水準を考えれば見事なものです。
ただし、スタインバーグは自らが鍛え上げたこのオケをさらに変質的なまでに締め上げて、「セル&クリーブランド響」や「ライナー&シカゴ響」のようにしようとは思わなかったようです。結果として、彼の音楽にはセルやライナーのような凄みはなかったかわりに、何とも言えない明るくて健康的な直線性を獲得しました。
言葉をかえればあまりにも「脳天気」だと批判することも可能なのでしょうが(たとえばブルックナー)、ある意味ではアメリカの「黄金の50年代」に最もふさわしい音楽になっています。そして、あまりにも屈折しすぎた今という時代にそのような音楽を聞くことは一つの「癒し」でもあります。
その意味では、ベートーベンやブラームスみたいな音楽よりはヘンデルの「水上の音楽」やラヴェルの「ボレロ」「ラ・ヴァルス」みたいな音楽の方が相性がいいように思います。また、ベートーベンならば「皇帝」、ブラームスならば「ピアノ協奏曲第1番」のような外連味あふれる作品の方が好ましく思えます。
ただし、誤解の起きないように言い添えておきますは、それは決して彼のベートーベンやブラームスの交響曲がつまらないと言っているわけではありません。それらもまた、屈託のないトスカニーニのように響きます。もしかしたら、音楽の形としてはシューリヒトに近いのかもしれませんが、スタインバーグの音楽はあれほど淡彩ではありません。その意味では、トスカニーニやシューリヒトの亜流ではない、スタインバーグならではの音楽になっています。
それから、もう一つ加えておくと、ブルックナーのロマンティックやチャイコフスキーのイタリア奇想曲みたいに、「なんだこりゃ??」みたいな演奏もあります。そう言うのを聞くと、面白いと言えば面白い、なかなかに一筋縄ではいかない指揮者だったんだなとニヤリとさせられます。もちろん、そう言うのは許せない!と言う人もいるでしょうが、私は決して嫌いではありません。
なお、聞くところによるとこのコンビによる録音はテープ録音が一般的でなかった時代に「35mmマグネチックフィルム」なるものを使って録音されたこともあるそうです。映画用に作られたテープですからコスト的には10倍以上かかったそうですが、録音できる「情報量」が圧倒的に多かったために音質的なメリットは大きかったようです。
デジタルマスタリングされた状態で聞いても、50年代の初期のモノラル録音としては極上といえる音質です。
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