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ハイドン:協奏的交響曲 変ロ長調, Hob.I:105(Haydn:Sinfonia concertante in B-flat major, Hob.I:105)

イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 1957年10月29日~30日録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Recorded on October 29-30, 1957)

Haydn:Sinfonia concertante in B-flat major, Hob.I:105 [1.Allegro]

Haydn:Sinfonia concertante in B-flat major, Hob.I:105 [2.Andante]

Haydn:Sinfonia concertante in B-flat major, Hob.I:105 [3.Allegro con spirito]


師匠と弟子の間で血みどろの調和の戦争

ハイドンがこの作品を書くきっかけとなったのは、1792年のロンドンで巻き起こった「師弟対決」という興行上の争いでした。
時ロンドンでは、ハイドンを招いた興行主ザロモンと、それに対抗する「プロフェッショナル・コンサート」が激しい集客合戦を繰り広げていました。
ロンドンにおけるハイドンの人気は絶大なものでしたので、、「プロフェッショナル・コンサート」その状況を何とか挽回すくハイドンのかつての弟子だったイグナツ・プレイエルをパリから招いて、「若き天才」として売り出したのです。

弟子のプレイエルは当時パリで大流行していた「協奏交響曲」を得意としていて、「プロフェッショナル・コンサート」の思惑通りロンドンでもその華やかな作風が人気を博しました。
その様な状況を見たザロモンは、ハイドンに「自分たちも協奏交響曲を作ってほしい」と依頼したのでした。

この出来事を、ハイドンはウィーンへの手紙で「師匠と弟子の間で血みどろの調和の戦争(harmonious war)が始まる」とユーモアを交えて報告しています。
彼は流行のスタイルを取り入れつつも、弟子を圧倒するような深みと独創性を詰め込んだ本作をわずか数週間で書き上げました。1792年3月の初演は大成功を収め、ハイドンは「流行のジャンルでも第一人者である」ことを証明したのでした。

オーケストラが伴奏を務める中、4つの独奏楽器(ヴァイオリン、チェロ、オーボエ、ファゴット)が対話を繰り広げる、室内楽的な親密さと交響曲の華やかさが融合した作品です。

  1. 第1楽章:Allegro
    オーケストラによる提示部で始まり、その後に独奏楽器群が登場します。4つの楽器が入れ替わり立ち替わり主役を務め、精緻なアンサンブルを展開します。
    展開部では、チェロが奏でる主題が変ニ長調へと転調するなど、色彩豊かな変化が見られます。楽章の終盤には、ハイドン自身が書き下ろした4つの楽器のための華麗なカデンツァが置かれています。

  2. 第2楽章:Andante
    パストラール風の穏やかなリズムが特徴の楽章です。トランペットやティンパニが休み、オーケストラの編成が縮小されることで、独奏楽器の繊細な響きが際立ちます。
    まるで大規模な室内楽のような親密な対話が続き、時折オーケストラが優しく介入する構成が非常に優美です。

  3. 第3楽章:Allegro con spirito
    躍動感あふれる軽快な楽章ですが、冒頭に驚きの仕掛けがあります。 冒頭の力強い合奏の直後、ソロ・ヴァイオリンがオペラのレチタティーヴォを奏でて進行を遮ります。
    この「レチタティーヴォ」のユーモラスな演出を経て、4人の独奏者による名人芸的な超絶技巧(フィギュレーション)が繰り広げられ、最後は華やかに全曲を締めくくります。


また、注目すべきはヴァイオリン・ソロは、興行主であり優れたヴァイオリニストでもあったザロモン自身が演奏することを想定して書かれていることです。
第3楽章のレチタティーヴォなど、ザロモンの腕前を存分に披露できる仕掛けが施されています。
ハイドンもなかなかかに「商売人」だったのですね。


「凄絶」という表現をせざるをえないほどの唯一無二の演奏

ハイドンが「流行のジャンルでも第一人者である」ことを証明した作品ですから、この演奏に「凄絶」という言葉はあまり相応しくないでしょう。しかし、行儀の悪いフランスのオケと4人のソロをきっちりまとめ上げているのは見事なものです。

この一連のハイドン演奏はラムルー管にしてみれば誇りともすべき、そして名誉ともなるべき演奏であり録音です。
まさに「凄絶」なハイドンです。ただし、ハイドンの交響曲に「凄絶」という形容詞が誉め言葉になるのかどうかは分かりませんが、それでもそう表現せざるをえないほどの唯一無二の演奏です。

ハイドンに対するアプローチは、ワーグナーの管弦楽曲の時にも感じたように、基本的には知的で明晰あり、その分析したものを常に冷静に表現しています。その点では、これもまたジョージ・セルとクリーブランド管のハイドンと似通った部分があります。
よく、セルの音楽は精緻であっても冷たいと言うことがよく言われましたが、彼の演奏をじっくりと聞いてみれば、そのとりつくシマもない「笑わん殿下」のような表情の下に、古き良きウィーンの伝統に根ざしたロマンティシズムが潜んでいることに気づくはずです。そして、セル自身も己への手綱を緩めればそのロマンティシズムが奔馬のようにあふれ出すことをよく知っていました。
ですから、そう言う己をコントロールする強い意志が時にはオケに対する強引なドライブという形で表面化することが50年代の頃までは時々ありました。しかし、セルのしごきに耐えて、60年代にはいるとクリーブランド管は完璧な合奏能力を備えた希有の存在へと成長し、今度はその完成したサウンドにセル自身が安心して己をまかせられるようになり、結果としてかつての強引さは姿を消して「白磁」に例えられるような音楽を生み出していくことになりました。

しかし、マルケヴィッチの場合は、そう言う知的で明晰な底にうごめいているのは、セルのような古き良きウィーンのロマンティシズムではなくて、何処かロシアの大地に根ざしたある種の狂気をはらんだような野蛮さでした。
ラムルー管はマルケヴィッチの棒に必死で食らいついています。もしも彼らにベルリン・フィルやクリーブランド管のような機能性があればある程度の余裕を持ってその要求に応えることが出来たでしょう。しかし、その必死なオケの姿を前にして、マルケヴィッチがニヤリとその野蛮さが頭をもたげていく様子が手に取るように窺えるのです。

おそらく、これはラムルー管とマルケヴィッチという極限状態の緊張感のなかだからこそ為し得たある種の狂気をはらんだ演奏だったと言えます。
そう言う意味では、これがハイドン演奏のスタンダードにあることは絶対にないでしょうが、そんなものを全て蹴散らしてしまうほどの「凄絶さ」に満ちた音楽が生まれることになったのです。

恐るべし、マルケヴィッチ!!

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