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オットー・クレンペラー(Otto Klemperer) |ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93
ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93
クレンペラー指揮 フィルハーモニア管 1957年10月録音
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第1楽章」
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第2楽章」
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第3楽章」
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第4楽章」
谷間に咲く花、なんて言わないでください。
初期の1番・2番をのぞけば、もっとも影が薄いのがこの8番の交響曲です。どうも大曲にはさまれると分が悪いようで、4番の交響曲にもにたようなことがいえます。
しかし、4番の方は、カルロス・クライバーによるすばらしい演奏によって、その真価が多くの人に知られるようになりました。それだけが原因とは思いませんが、最近ではけっこうな人気曲になっています。
たしかに、第一楽章の瞑想的な序奏部分から、第1主題が一気にはじけ出すところなど、もっと早くから人気が出ても不思議でない華やかな要素をもっています。
それに比べると、8番は地味なだけにますます影の薄さが目立ちます。
おまけに、交響曲の世界で8番という数字は、大曲、人気曲が多い数字です。
マーラーの8番は「千人の交響曲」というとんでもない大編成の曲です。
ブルックナーの8番についてはなんの説明もいりません。
シューベルトやドヴォルザークの8番は、ともに大変な人気曲です。
8番という数字は野球にたとえれば、3番、4番バッターに匹敵するようなスター選手が並んでいます。そんな中で、ベートーベンの8番はその番号通りの8番バッターです。これで守備位置がライトだったら最低です。
しかし、ユング君の見るところ、彼は「8番、ライト」ではなく、守備の要であるショートかセカンドを守っているようです。
確かに、野球チーム「ベートーベン」を代表するスター選手ではありませんが、玄人をうならせる渋いプレーを確実にこなす「いぶし銀」の選手であることは間違いありません。
急に話がシビアになりますが、この作品の真価は、リズム動機による交響曲の構築という命題に対する、もう一つの解答だと言う点にあります。
もちろん、第1の解答は7番の交響曲ですが、この8番もそれに劣らぬすばらしい解答となっています。ただし、7番がこの上もなく華やかな解答だったのに対して、8番は分かる人にしか分からないと言う玄人好みの作品になっているところに、両者の違いがあります。
そして、「スター指揮者」と呼ばれるような人よりは、いわゆる「玄人好みの指揮者」の方が、この曲ですばらしい演奏を聞かせてくれると言うのも興味深い事実です。
そして、そう言う人の演奏でこの8番を聞くと、決してこの曲が「小粋でしゃれた交響曲」などではなく、疑いもなく後期のベートーベンを代表する堂々たるシンフォニーであることに気づかせてくれます。
一度はココロして正面から向かい合いたい音楽
クレンペラーとフィルハーモニア管は1955年にベートーベンの録音を始めるのですが、途中からステレオ録音の時代に突入したために、1957年からあらためてセッションを開始します。
ただし、3番・5番・7番はモノラルでの録音をすましているので、集中して録音された1957年の10月と11月には残りの交響曲を一気に録音しています。おそらく、クレンペラーにしてみればこれで全ての交響曲の録音は終了した思いだったでしょうが、プロデューサーにしてみれば3曲がモノラルのままでは営業上まずいのは明らかなので、59年に3番と5番、60年に7番を改めてステレオで録音し直してめでたく「全集」が完成します。
そのせいで、55年のモノラル録音が継子扱いされる不幸については既に述べました。
クレンペラーのベートーベンは「厳かなまでの厳しさ」に貫かれているのが特徴であり、それはクレンペラー以外の指揮者では絶対になしえないであろう強い個性が刻印されています。
基本的にはインテンポで推し進められていくあたりはクリュイタンスと同じなのですが、音楽のたたずまいは随分と異なります。
クリュイタンスのインテンポは、その事によって作品の内部構造がくっきりと浮かび上がってくるような明晰さをもたらします。しかし、クレンペラーのインテンポは、全ての障害物をなぎ倒して押し進んでいく重戦車のような迫力をもたらします。そして、その突撃が喊声を上げて突き進むような「動的」なものでなく、厳かなまでの「静けさ」の中で成し遂げられていくので、何とも言えない「凄味」が醸し出だされます。
そのもっとも素晴らしい例が、最後に録音された第7番の演奏です。
あそこには、インテンポの鬼とも言うべきクレンペラーの凄さがもっともはっきりとした形で刻印されています。まさに氷りづけにされた情熱です。
クレンペラーの音楽は官能に訴えるような分かりやすさとは最も遠いところにある演奏です。そして、人の感情に訴えかけるような「下品」な振る舞いはひたすら避けて、結果として聞き手の前に見上げるような巨大な構築物を組み上げてくれます。
素っ気ないと言えば素っ気なく、厳しいと言えば厳しい音楽であり、作品によってはもう少し愛想があってもいいのではないかと思うときもありますが、それがベートーベンであれば不満はありません。
決して、聞きやすく、耳になじみやすい音楽ではありませんが、一度はココロして正面から向かい合いたい音楽であることは間違いありません。
<8番について>
一言で言えば、立派なシンフォニーに仕上がっています・・・に尽きます。
この交響曲は、「小粋でしゃれた交響曲」という位置づけで、曲線的に演奏されることが少なくありませんし、それはそれで悪くはありません。しかし、本質的には「後期のベートーベンを代表する堂々たるシンフォニー」なのですから、こういう風に演奏するのが正解であることは言うまでもありません。
ただ不思議なのは、普通の人が普通に指揮をしたのではこんなにも「立派」にはならないのです。
それが実に不思議です。
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