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チャイコフスキー:交響曲第4番 ヘ短調 Op.36

バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1957年5月27,28日録音



Tchikovsky:交響曲第4番 ヘ短調 Op.36 「第1楽章」

Tchikovsky:交響曲第4番 ヘ短調 Op.36 「第2楽章」

Tchikovsky:交響曲第4番 ヘ短調 Op.36 「第3楽章」

Tchikovsky:交響曲第4番 ヘ短調 Op.36 「第4楽章」


絶望と希望の間で揺れ動く切なさ

今さら言うまでもないことですが、チャイコフスキーの交響曲は基本的には私小説です。それ故に、彼の人生における最大のターニングポイントとも言うべき時期に作曲されたこの作品は大きな意味を持っています。

まず一つ目のターニングポイントは、フォン・メック夫人との出会いです。
もう一つは、アントニーナ・イヴァノヴナ・ミリュコーヴァなる女性との不幸きわまる結婚です。

両方ともあまりにも有名なエピソードですから詳しくはふれませんが、この二つの出来事はチャイコフスキーの人生における大きな転換点だったことは注意しておいていいでしょう。
そして、その様なごたごたの中で作曲されたのがこの第4番の交響曲です。(この時期に作曲されたもう一つの大作が「エフゲニー・オネーギン」です)

チャイコフスキーの特徴を一言で言えば、絶望と希望の間で揺れ動く切なさとでも言えましょうか。

この傾向は晩年になるにつれて色濃くなりますが、そのような特徴がはっきりとあらわれてくるのが、このターニングポイントの時期です。初期の作品がどちらかと言えば古典的な形式感を追求する方向が強かったのに対して、この転換点の時期を前後してスラブ的な憂愁が前面にでてくるようになります。そしてその変化が、印象の薄かった初期作品の限界をうち破って、チャイコフスキーらしい独自の世界を生み出していくことにつながります。

チャイコフスキーはいわゆる「五人組」に対して「西欧派」と呼ばれることがあって、両者は対立関係にあったように言われます。しかし、この転換点以降の作品を聞いてみれば、両者は驚くほど共通する点を持っていることに気づかされます。
例えば、第1楽章を特徴づける「運命の動機」は、明らかに合理主義だけでは解決できない、ロシアならではなの響きです。それ故に、これを「宿命の動機」と呼ぶ人もいます。西欧の「運命」は、ロシアでは「宿命」となるのです。
第2楽章のいびつな舞曲、いらだちと焦燥に満ちた第3楽章、そして終末楽章における馬鹿騒ぎ!!
これを同時期のブラームスの交響曲と比べてみれば、チャイコフスキーのたっている地点はブラームスよりは「五人組」の方に近いことは誰でも納得するでしょう。

それから、これはあまりふれられませんが、チャイコフスキーの作品にはロシアの社会状況も色濃く反映しているのではとユング君は思っています。
1861年の農奴解放令によって西欧化が進むかに思えたロシアは、その後一転して反動化していきます。解放された農奴が都市に流入して労働者へと変わっていく中で、社会主義運動が高まっていったのが反動化の引き金となったようです。
80年代はその様なロシア的不条理が前面に躍り出て、一部の進歩的知識人の幻想を木っ端微塵にうち砕いた時代です。
ユング君がチャイコフスキーの作品から一貫して感じ取る「切なさ」は、その様なロシアと言う民族と国家の有り様を反映しているのではないでしょうか。


バルビローリの美質が最もよくあらわれた録音

バルビローリはイギリスでは絶対的ともいっていいほどの「評価」を未だに維持しています。亡くなってからすでに40年近い歳月が過ぎ去っているのに、これは考えてみれば驚異的なことです。
グラモフォン誌が世紀末に行ったアンケートでも、20世紀の最も偉大な指揮者としてフルトヴェングラーに続いて堂々の2位に食い込んでいるのです。これなど、他の国では絶対に考えられないことです。特に、日本においてはバルビローリが弦楽器群を磨き抜いて情緒纏綿と歌わせることをもって「ミニカラヤン」みたいな言い方をされることがあることを思えば、その評価の差は天地ほどの違いもあります。
始めに確認しておきますが、カラヤンがあんな風に弦楽器群を演奏させ始めたのは70年代に入ってからで、その時すでにバルビローリはこの世を去っていたのです。まあ、そんなにムキになることではないと思うのですが、あの演奏スタイルはバルビローリがカラヤンをまねたのではないことだけは確認しておきましょう。

さて、そんなバルビローリの隠れた名盤が、50年代の後半にまとめて録音されたドヴォルザークとチャイコフスキーの後期の交響曲です。特に、ドヴォルザークの8番に関しては、今もってこれを「ベスト」と評価する人がいますし、チャイコの5番なども隠れた「裏名盤」としての地位を確保してます。

バルビローリの特徴は、言うまでもなく弦楽器セクションの処理の仕方にあります。
彼は新しい作品と向き合うときは弦楽器のパートの奏法をすべて記入しながら進めていったと言われています。そう言う細部の積み上げが、いわゆる「バルビローリ節」と呼ばれる情緒纏綿たる「歌」を実現していました。ただし、その「歌」は聞けば分かることですが、アンサンブルの精緻さを求めるものではなくて、実に温かみのあるザックリとした風情をもっていると言うことです。この辺は、同じように見えてカラヤンとは大きく異なるところです。
一部では、これらの録音を聞いて「ハレ管があまりにも下手すぎる!」という声もあるのですが、そして、それは決して否定はしませんが、そもそもバルビローリ自身がそう言うことにはあまり拘泥していなかった事もみておいてあげないとちょっとハレ管が可哀想かもしれません。
バルビローリという人は基本的に作品を精緻に分析して、その構造を緊密なアンサンブルでクッキリと描き出すというタイプからは最も遠いところに位置していました。彼にとって大切なことは、そんな「構造」ではなくて、それぞれの作品から彼自身が感じ取った「人間的感情」をいかにして表現するかでした。
その意味では、彼は基本的に職人であったと言えます。
その証拠に、彼のもう一つの特徴は、ここぞと言うところでのたたみ込むようなフォルテの迫力にあったことも思い出しておきましょう。とりわけ、晩年のたおやかさ一辺倒のバルビローリしか知らない人にとっては、この一連の録音で聞ける金管ブチ切れの演奏は未だに若さを失っていなかった頃の職人バルビローリの真骨頂が聞けます。
あの歌とこの迫力があれば、劇場ではブラボーの嵐・・・!!間違いなしです。

もちろん、こういうアプローチに物足りなさを感じる人も多いでしょう。作品の本質にどこまで肉薄しているのか?と問いかけられればいささか食いたりなさを感じてしまうのも事実です。
しかし、職人というのは芸術家のように後世の評価を待つものではなくて、現実の劇場での「ブラボー」を求めるものです。そして、イギリスでは今もって彼にブラボーの声をおくり続けているのです。
そんな職人バルビローリの特徴が最もよくあらわれているのが、この57〜59年に録音されたドヴォルザークとチャイコフスキーの交響曲です。この内の3曲(ドヴォルザークの7番と8番、チャイコの4番)が目出度くパブリックドメインの仲間に入りました。音質的にも申し分なく、新しい年の初めにおくる録音としては申し分なしです。
裏名盤の誉れ高いチャイ5の方はもう一年お待ちください。

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