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ラヴェル:水の戯れ

(P)マルセル・メイエル 1954年3月5日〜8日録音



Ravel:水の戯れ


スイスの時計職人

しつこくもまた繰り返しますが、ラヴェルを印象派の中に入れたい人は、その根拠としてこの作品をあげます。曰く、「音楽の分野におけるフランス印象主義の幕開けとなった作品」。
しかし、そんな言い方をされては印象派の御本尊たるドビュッシーの威光が損なわれると思う人たちは「ドビュッシーよりもラヴェルのほうが印象主義において先んじていた。なぜならば、ドビュッシーにおいて最初に印象主義が明らかとなった作品、組曲『版画』が1903年の作である。」などと反論したりします。
きっと、ラヴェルにとってはどうでもいいことだと思うのですが、とにかく何でもカテゴリーに区切って分類しないと気が済まない人たちにとってはどうでもいいなんて事は言っていられないようです。

しかし、そんな騒ぎにラヴェルはこんな事を書いています。
「拝啓、ドビュッシーが創り出したとあなた(ユング君の注:ピエール・ラロのこと。スペイン交響曲で有名なラロの息子で反ラヴェルの立場を取っていた評論家)がおっしゃるかなり独特な書法について、ずいぶん長々と書いていらっしゃいますが、私は『水の戯れ』を一九〇二年のはじめに書いたのです。その時、ドビュッシーはピアノ曲を三曲(ピアノのために)しか書いていませんでした。いまさら申すまでもありませんが、私はそれらの作品に熱烈な賞賛の念を抱いてはいるのです。しかしながら、ピアノ書法という点からいえば何ら目新しい点はないのです」
まあ、ラヴェルの己への自負が控えめながらも毅然と語られた文章だと思います。

さて、あれこれ賑やかな話題のある作品ですが、初演は「亡き王女へのパヴァーヌ」と一緒だったために、評判は散々なものだったようです。パヴァーヌの上品な響きに対してこの「水の戯れ」は不協和音の塊と酷評されました。人の耳というのはいつの時代も保守的なもので、私たちも自戒しなければいけません。
この作品は見た目は極めてシンプルで、ラヴェル自身も「テンポ、リズムも一定なのが望ましい」と指示しています。しかし、その一見単純な構造のまわりにこの上もなく繊細な響きがまとわれています。その響きの繊細さを生み出しているのは神業とも言うべき精巧な音の組み合わせと積み重ねです。その機械的とも言えるほどの精緻な積み重ねに対してついたあだ名が「スイスの時計職人」でした。スイスというのはラヴェルの父親がスイス人だったことからその関連でつけられたあだ名だったそうです。
ですから、この作品を完璧に弾きこなすのは大変な技術がいるそうです。連続する64分音符を見ていると腕の筋肉を痛めることはないのかと心配になってきたりする作品です。


6人組の女神・・・?

Meyerは「メイエル」と読むそうです。私はすっかり「マイヤー」だと思って、いくらGoogleで検索をかけても出てこないので、かつて掲示板で「ほとんど忘れ去られたピアニストと言えます。」なんて書いてしまいました。(^^;汗汗・・・
しかし、よく調べてみると一部では熱烈なファンが存在するようで、例えば「クラシック名盤 この一枚」なんて本の中では何人かの人たちが熱いオマージュを送っています。

さらに調べてみると彼女には「6人組の女神」というニックネームがあったそうなのです。この「6人組」というのはルイ・デュレ、アルテュール・オネゲル、ダリウス・ミヨー、ジェルメーヌ・タイユフェール、フランシス・プーランク、ジョルジュ・オーリックの事で、フランス音楽の新しい夜明けを告げたグループとして「ロシア5人組」になぞらえて付けられたものです。
メイエルはこの6人組と深い親交があり、彼らの作品を積極的に取り上げました。もちろん、それ以外にもラヴェルやドビュッシーというフランス近代の作品が彼女の得意分野であり、それ以外にはラモーやクープランというフランスの古典作品を好んでいました。要するに、かなりの「ご当地主義」といえるレパートリーです。そして、クラシック音楽の王道(?)とも言うべきドイツ・オーストリア系の音楽は本当にごくわずかしか取り上げないという、この業界ではかなりの異色な存在だったようです。

ここで紹介しているラヴェルの録音は1954年の3月に一気にまとめて録音したもので、どの録音を聞いてもコンサートグランドの能力をフルに発揮したラヴェル作品に相応しい豪快な演奏です。
1897年生まれですからこの時メイエル57歳です。テクニック的には微塵の破綻もなく若々しい精神に満ちあふれています。ところが、この3年後に彼女は亡くなっています。原因は分かりませんが、録音がモノラルからステレオに切り替わるこの時期に亡くなったことが、そしてかなり偏ったレパートリーだったことが、後の彼女の忘却に結びついたことは間違いないでしょう。
もしも、あと数年長生きして(それでも70歳にもなりません!)、ある程度まとまった数のステレオ録音を残していれば、そしてモーツァルト演奏でも素晴らしい演奏を聴かせてくれたことを思えば、そのステレオ録音の中に独墺系の作品がいくつか混じっていれば、疑いもなく彼女の名前はハスキルなどと並んで評価されたはずです。何よりも、彼女にはハスキルがもっていなかったパワフルさがあふれています。
しかし、それはあまりにも贅沢な無い物ねだりなのでしょう。彼女の本質はどこまで行ってもフランス人です。そして、モノラル録音の時代とともにこの世を去ったのです。そんな彼女の業績が50年の時を経てパブリックドメインとなることで復活し、再びこの女性ピアニストに光が当たるようになったことを感謝すべきなのでしょう。

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