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ラロ:スペイン交響曲 ニ短調, Op21(Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21)

(Vn)アルフレード・カンポーリ:エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年3月3日~4日録音(Alfredo Campoli:(Con)Eduard van Beinum The London Philharmonic Orchestra Recorded on March 3-4, 1953)

Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21 [1.Allegro non troppo]

Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21 [2.Scherzando]

Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21 [3.Intermezzo; Allegro non troppo]

Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21 [4.Andante]

Lalo:Symphonie espagnole, for violin and orchestra in D minor, Op. 21 [5.Rondo]


遅咲きの一発屋

ラロといえばスペイン交響曲です。そして、それ以外の作品は?と聞かれると思わず言葉に詰まってしまいます。
いわゆる、クラシック音楽界の「一発屋」と言うことなのでしょうが、それでも一世紀を超えて聞きつがれる作品を「一つ」は書けたというのは偉大なことです。

なにしろ、昨今の音楽コンクールにおける作曲部門の「優秀作品」ときたら、演奏されるのはそのコンクールの時だけというていたらくです。そして、そのほとんど(これはかなり控えめな表現、正確には「すべて」に限りなく近い「ほとんど」)が誰にも知られずに消え去っていく作品ばかりなのです。
クリエーターとして、このような現実は虚しいとは思わないのだろうかと不思議に思うのですが、相変わらず人の心の琴線に触れるような作品を作ることは「悪」だと確信しているような作品ばかりが生み出されます。いや、そのような「作品」でないとコンクールでいい成績をとれないがためにそのようなたぐいの作品ばかりを生み出していると表現した方が「正確」なのでしょう。

しかし、音楽はコンクールのために存在するものではありません。
当たり前のことですが、音楽は聴衆のために存在するものです。この当たり前のことに立ち戻れば、己の立ち位置の不自然さにはすぐに気づくはずだと思うのですが現実はいつまでたっても変わりません。相変わらず、「現代音楽」という業界内の小さなパイを奪い合うことにのみ腐心しているといえばあまりにも言葉がきつすぎるでしょうか。

ですから、こういうラロの作品を、異国情緒に寄りかかった「効果ねらい」だけの音楽だと言って馬鹿にしてはいけません。
クラシック音楽というのは人生修養のために存在するのでもなければ、一部のスノッブな人間の「知的好奇心」を満たすために存在するのでもありません。

まずは聞いて楽しいという最低限のラインをクリアしていなければ話にはなりません。

ただ、その「楽しさ」にはいくつかの種類があるということです。
あるものは、このスペイン交響曲のように華やかな演奏効果で人の耳を楽しませるでしょうし、あるものは壮大な音による構築物を築き上げることで喜びを提供するでしょう。はたまた、それが現実への皮肉であったり、抵抗であったりすることへの共感から喜びが生み出されるのかもしれません。
そして、時には均整のとれた透明感に心奪われたり、持続する緊張感に息苦しいまでの美しさを見いだすのかもしれません。

私はポップミュージックに対するクラシック音楽の最大の長所は、そのような「ヨロコビ」の多様性にこそあると思います。
そして、華やかな演奏効果で人の耳を楽しませるという、ポップミュージックが最も得意とする土俵においても、このスペイン交響曲のように、彼らとがっぷり四つに組んでも十分に勝負ができる作品をいくつも持っているのです。
そういう意味において、このような作品はもっともっと丁重に扱わなければなりません。

閑話休題、話があまりにも横道にそれすぎました。(^^;

ラロはスペインと名前のついた作品を生み出しましたが、フランスで生まれてフランスで活躍し、フランスで亡くなった人です。ただし、お祖父さんの代まではスペインで暮らしていたようですから、スペインの血は流れていたようです。

彼は、1823年にフランスのリルという小さな町で生まれて、その後パリに出てパリ国立音楽院でヴァイオリンと作曲を学びました。そして、20代の頃から歌曲や室内楽曲を作曲して作曲家としてのキャリアをスタートさせようとしたのですが、これが全く評価されずに失意の日々を過ごします。
その内に、作曲への夢も破れ、弦楽四重奏団のヴィオラ奏者という実に地味な仕事で生計を立てるようになります。

このようなラロに転機が訪れたのが、アルト歌手だったベルニエと結婚した42歳の時です。
ベルニエはラロを叱咤激励して再び作曲活動に取り組むように励まします。そして、ラロも妻の激励に応えて作曲活動を再開し、ついに47歳の時にオペラ「フィエスク」がコンクールで入賞し、その中のバレー音楽が世間に注目されるようになります。そして、そんな彼をさらに力づけたのが、1874年にヴァイオリン協奏曲がサラサーテによって初演されたことです。

そして、その翌年にこの「スペイン交響曲」が生み出され、同じくサラサーテによって初演されて大成功をおさめます。

彼はこれ以外にも、「ロシア協奏曲」とか「ノルウェー幻想曲」というようなご当地ソングのようなものをたくさん作曲していますが、これは当時流行し始めた異国趣味に便乗した側面もあります。
しかし、華やかな色彩感とあくの強いエキゾチックなメロディはそういう便乗商法を乗り越えて今の私たちの心をとらえるだけの魅力を持っています。


  1. 第1楽章:Allegro non troppo ソナタ形式

  2. 第2楽章:Scherzando. Allegro molto 三部形式

  3. 第3楽章:Intermezzo. Allegro non troppo 三部形式

  4. 第4楽章:Andante 三部形式

  5. 第5楽章:Rondo




ベルカント・ヴァイオリニスト

アルフレド・カンポリ。いつかどこかで取り上げた記憶はあったのですが、演奏家別の弦楽器奏者の一覧を確かめるとどこにも見当たりません。ということは、今まで一度も取り上げていなかったということでしょうか。
Deecaの古いモノラル録音を聞きあさっているときに、久しぶりにこのカンポーリに出会ってそのことに気づきました。

しかし、とある方からカンポーリの録音が「フーベルマン」のリストに紛れ込んでいるという指摘をいただきました。・・・なるほど紛れ込んでいました。ということで、それを切っ掛けと言うことでカンポーリのDeeca録音を少しばかり取り上げていこうかと思います。

カンポーリといえば「ベルカント・ヴァイオリニスト」などと言われていたことが思い出されます。その彫琢された音色による官能的な歌いまわしは、カンポーリの持ち味でした。
ということで、彼の経歴などをざっと調べたのですが、日本語の情報量の少なさに驚きました。そこで、英語の情報なども四苦八苦しながら仕入れてざっとまとめてみました。

彼は、ローマのサンタ・チェチーリア音楽院でヴァイオリンを教えていた父と、声楽家だった母の間に生まれました。彼は、そんな家庭環境の中で5歳から父のもとでヴァイオリンを学び始め、11歳の時にロンドンに移住しました。
そして、13歳の時にロンドン音楽祭のヴァイオリン・コンクールで優勝しメアリー王女から賞を授与されたそうです。
階級社会のイギリスではそれは大きなステイタスになったものと思われます。
そして、1923年、17歳の時にロンドンのウィグモア・ホールでのリサイタルでプロとしてデビューし、その後は順調にキャリアを積み上げていきました。この辺りは早熟な天才にはよくある話です。
ところが、世界恐慌の影響を受けてイギリス経済が低迷し始めると、彼は一転して軽音楽の道に進み、自身のサロン・オーケストラを率いてラジオ放送などで名声を博すようになっていきます。

ここからがいよいよ他にはないカンポーリの世界です。
一般的に、クラシック音楽の聴衆というものは辛抱がいいものです。それと比べると軽音楽の聞き手はそこまで辛抱強くはありません。ぱっと聞いてそこに魅力を感じてもらわなければすぐに飽きられてしまいます。

軽音楽時代のカンポーリはラジオ放送だけでなく小規模な舞台に立つことにも積極的で、そういうスタンスが彼の人気をさらに高めることになりました。
そして、軽音楽の世界でしっかりとしたポジションを確立すると、少しずつクラシック音楽の世界にも戻っていったようで、1938年にはヘンリー・ウッド卿と共にプロムナード・コンサートに出演しています。しかし、あくまでもメインは軽音楽であり、クラシック音楽はそういうメインの活動の妨げにならない範囲だったようです。

第2次世界大戦がはじまるとイギリス軍や国内の工場労働者のためのコンサートを積極的に行うようになりました。最初は、カンポーリが敵国であるイタリア国籍だったためにあれこれ言われたみたいですが、彼の演奏はどこに行っても大好評でした。まさに軽音楽の世界で身につけた芸の為せるところだったのでしょう。またその熱心な活動によってそういう雑音もいつの間にか消えてなくなりました。

戦後になるとカンポーリは再びラジオでも活動を再開し、BBCのレギュラー番組にも1,000回以上も出演するようになります。
そして、いよいよクラシック音楽の世界に帰ってくることになります。
HMVやDECCAなどで録音活動も行うようになり、クラシック演奏家としてのカンポーリの名が広まっていくようになります。

1953年にはアメリカツアーを初めて行い、その活動の場はさらに広がっていきます。アメリカツアーの初日はジョージ・セル指揮のニューヨーク・フィルハーモニックをバックにラロのスペイン交響曲を演奏しました。セルを相手にアメリカデビューというのは怖すぎるのですが、聴衆には好評だったようで、その後は何回もメリカツアーを行うようになります。
ざっとこんな感じでしょうか。1991年まで存命だったようなのですが、1960年代以降はポツリポツリとしか録音は残っておらず、最後の四半世紀ほどは大好きなブリッジで余生を過ごしたのでしょうか。

そんなクラシック音楽の演奏家としてのカンポーリの魅力は何といっても、軽音楽時代に培った「聞かせ上手」ということに尽きるのでしょう。
しかし、その「聞かせ上手」は官能的でありながら聞き手に媚びるような「しな」みたいなものとは無縁でした。色気にはあふれていながら決して形を崩すことはなく、作品が持っている生命力をスポイルすことはありません。

しかし、クライスラーの小品集のようなソロ曲とは違って指揮者とオーケストラがいる協奏曲となると少しばかり雰囲気が異なるようです。

私の手元に今ある録音は以下の3つです。


  1. チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調, Op.35:アタウルフォ・アルヘンタ指揮 ロンドン交響楽団 1956年12月27日~28日録音

  2. ラロ:スペイン交響曲 ニ短調, Op21:エドゥアルド・ヴァン・ベイヌム指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1953年3月3日~4日録音

  3. エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調, Op.61:サー・エードリアン・ボールト指揮 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 1954年10月28日~29日録音



例えば、ボールトのような指揮者を相手にしたときは「形を崩さない」という面がより強く出るようで、「芸術」としてのクラシック音楽を築け上げようという気持ちを共有していたようです。
エルガーの協奏曲などはそういう姿がはっきりと刻み込まれていて、言ってみれば「芸術家」でありたいという思いが強く感じ取れます。それとも、いろいろお世話になったイギリスへのリスペクトのあらわれだったのでしょうか。
それから、怖いセルを相手にした「スペイン交響曲」なんかでは自由に振る舞える余地はほとんどなかったようです。

しかし、ベイヌムと録音した「スペイン交響曲」などになると、まさに「ベルカント・ヴァイオリニスト」と言われたカンポーリならではの色気にあふれていて、妖艶な歌いまわしが存分に楽しめます。アルヘンタと録音したチャイコフスキーの協奏曲なんかも同様です。
確かに、ボールトとのエルガーのヴァイオリン協奏曲などは自然なたたずまいと香りの高さ前面に出ていて、それは疑いもなく立派な音楽になっていることは事実です。否定しません。
しかしながら、個人的には「芸人カンポーリ」らしさにあふれたスペイン交響曲やチャイコフスキーの協奏曲のような演奏に心惹かれます。今となっては絶対に聞くことができない!!、それこそが歴史的録音を聞く大きな喜びだからです。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



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