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ワーグナー:パルジファル

クナッパーツブッシュ指揮 バイロイト管弦楽団&合唱団 ヴィントガッセン・メードル他 1951年8月録音




しびれるような陶酔感こそが最大の魅力

ワーグナーの最後の作品であり「舞台神聖祝祭劇」と呼ばれていることもあって、他のワーグナー作品とは少しばかりことなった雰囲気を持っています。それは、この作品がバイロイトの歌劇場という彼の夢を実現した劇場での上演を前提として作られていることが深く関係しているようです。ですから、ワーグナーの死後、この作品のバイロイト以外での上演を拒否して彼の遺志を守ろうとしたのは妻であるコジマにとっては当然のことだったのかもしれません。
しかし、その様なワーグナーの遺志も彼の死後30年が経過して著作権が切れると、世界中の歌劇場は待ちかねたようにこの作品を取り上げます。1913年の大晦日、その深夜からベルリン、ブダペスト、バルセロナの各歌劇場で『パルジファル』が上演されました。

では、ワーグナーがそこまでしてバイロイトにこだわった理由は何だったのでしょうか?それは、この作品を一度でも耳にすれば誰でもが簡単に納得できるはずです。
このパルジファルを貫いている最大の特徴は、そのしびれるような陶酔感です。そして、その陶酔感は響きの暖かさと、管弦楽と人間の声が渾然一体となったぼかし効果によるものであることは明らかです。そして、このような音響効果がもっとも理想的に実現される場所こそがバイロイトの歌劇場なのです。
全てが木造で作られた劇場は響きの暖かさをもたらしていますし、何よりもオーケストラピットが蓋をされていることで、オーケストラの音が直接観客席に届くのではなくて、一度反射して舞台の上の人間の声とブレンドされ一体化してから届くような仕掛けになっているのです。
このような劇場でパルジファルが上演されるとき、ワーグナーの理想とした響きが実現されるのです。
しかし、ワーグナーが他の劇場での上演を拒否したのは、そう言う理由だけではなかったようです。彼はもともとエキセントリックな人間でしたが、年をとるにつれてますますその様な傾向は増していったようです。そんな彼にとって、己の命を削るようにして作り続けてきた作品が一晩の娯楽として歌劇場で提供されることが許し難いものと思えてきました。さらに、せめて娯楽として提供されるならば我慢が出来たものの、やがて歌劇場は社交の場へと変わっていき、音楽なんかそっちのけでおしゃべりを楽しむだけの場所となっていったのでは、ついにワーグナーの怒りが爆発したと言うことなのでしょう。
彼は、パトロンであるバイエルンの国王をそそのかして、自分の作品専用の劇場をバイロイトに建設させます。そこでは自分の作品を心の底から敬愛するものだけが参加することが許されたのです。
ですから、バイロイトでの演奏は娯楽や社交ではなくて、どこか宗教的な雰囲気がただようものになっていきます。とりわけ、1913年まではパルジファルはここでしか上演できなかったのですから、その演奏はまさに宗教的儀式に近いものだったといえます。ですから、「舞台神聖祝祭劇」というのはこけおどしのコピーなどではなく、まさに言葉通りの神秘的なイベントだったのです。

最後に余談になりますが、ユング君にとってこの作品は数あるワーグナー作品の中で一番抵抗感がなく受け入れることが出来た作品です。それは、一切の予備知識なしでこの作品に接したとしても、この作品がもたらすいい知れない陶酔感に浸っているだけで十分に満足できたからです。
ですから、話のあらすじや、もっとも愚かなものこそが人々に救済をもたらす云々というようなテーマに関わることを全く知らなくても、音楽を楽しむ上では何の制約にもならないと言うことです。
とても長い作品ですが、時間があるときに虚心坦懐に音楽に向き合ってみてください。それで気に入れば、ワーグナーがこの作品に込めた思想などを探ってみてはいかがかと思います。

<主要な登場人物>
* パルジファル(テノール) 無垢で愚かな若者
* グルネマンツ(バス) モンサルヴァート城の老騎士。
* アンフォルタス(バリトン) モンサルヴァート城の王。
* クンドリ(ソプラノ) 呪われた女。
* クリングゾル(バリトン) 魔法使い。
* ティトゥレル(バス) アンフォルタスの父。
* 聖杯守護の騎士2人(テノール、バス)
* 小姓4人(ソプラノ2、テノール2)
* 花の乙女たち6人(ソプラノ、アルト)

<話のあらすじ>
第1幕
 老騎士グルネマンツは小姓たちと傷の治療のために湖へ向かう王を待っています。そこへクンドリが現れてアンフォルタス王の薬を託します。彼女は魔法使いに操られてアンフォルタスを誘惑し、聖槍を奪って王を傷つけた過去を持っています。聖槍によって傷つけられ傷口から癒えることがなく絶えず血が流れ出し、罪の意識を伴ってアンフォルタスを苦しめます。
 グルネマンツは魔法使いクリングゾルの邪悪と、王を救うための神託について語ります。
「ともに悩んで智を得る、無垢な愚者を待て」
 そこへ、湖の白鳥を射落とした若者が引っ立てられてきます。その若者は自らの非は素直に認めるのですが、己の名前も言えない愚か者です。しかし、グルネマンツはこの若者こそ神託の顕現ではないかと期待し、若者を城へと連れて行きます。
 城内では先王ティトゥレルの促しによる聖杯の儀式が執り行われています。その儀式は傷ついているアンフォルタスにとって苦悩を増すものでしかなく、連れてこられた若者も茫然として立ちつくすばかりです。
 失望したグルネマンツはその若者を追い出してしまいます。

第2幕
 魔法使いクリングゾルの呼びかけに応じてクンドリが目覚めます。
 クリングゾルはクンドリに愚か者の若者を誘惑し堕落させるように命じます。やがて魔法使いの城にやってきた若者は襲いかかってくる兵士たちをなぎ倒して進むうちにクリングゾルの魔法によってあたりは花園に変わります。若者はその花園や舞い踊る花の乙女たちに無邪気に驚くのですが、クンドリが「パルジファル!」と呼びかけると、その若者は母が自分につけてくれた名前を思い出します。そして、クンドリはパルジファルの母親の愛を語り接吻すると、パルジファルは知を得てアンフォルタスの苦悩を知ります。
 なおもクンドリはバルジファルに迫り、クンドリの呪われた過去も明らかになります。しかし、パルジファルはこれを退けると、誘惑に失敗したと悟ったクリングゾルが現れて聖槍をパルジファルめがけて投げつけます。しかし、聖槍はパルジファルの頭上で止まり、パルジファルがそれをつかんで十字を切ると城は崩壊して花園は荒野にもどります。

第3幕
 隠者となったグルネマンツは倒れているクンドリを見つけます。そこへ武装したパルジファルがあらわれ、今までの遍歴の経緯を話します。感動したグルネマンツは苦悩する王の様子を語ります。
 いまやアンフォルタスは聖杯の儀式を拒否し、先王ティトゥレルも失意のうちに没し、聖杯の騎士団は崩壊の危機に瀕していました。
 パルジファルはクンドリが汲んできて水で洗礼を行い城に向かいます。城では騎士たちの要請によって、ティトゥレルの葬儀のための儀式が始まろうとしていました。亡き父の棺が開かれるとアンフォルタスは苦悩の頂点に達し「我にも死を与えよ!」と叫びます。そのとき、パルジファルが進み出て聖槍を王の傷口にふれるとたちまち傷が癒えます。新しい王となったパルジファルが聖杯を高く掲げると聖杯は光り輝き、人々は頭を垂れます。その時、クンドリはその場に息絶えて倒れ呪いから解放されます。

バイロイト音楽祭復活の記録


 バイロイト音楽祭は1876年に、ルートヴィヒ2世やドイツ皇帝ヴィルヘルム1世などの国賓や、リスト、ブルックナー、チャイコフスキーなどの音楽家なども観衆として参加する中で『ニーベルングの指環』を上演して始まりました。しかし、この公演は音楽的にも興業的にも失敗します。大きな赤字を抱え込んだワーグナーはひどい鬱状態に陥り、第2回の音楽祭は1882年になってしまいます。その後も、開かれたり開かれなかったりしながらも何とか音楽祭は継続されていきますが、やがてナチスへの接近を強めて行く中で1933年以降は安定して毎年開催されるようになります。
 しかし、この親ナチの姿勢が第2次大戦後に問題となり、さらに戦後もヒトラーへの崇拝をやめなかったウィニフレッド(ワーグナーの息子ジークフリートの妻)の存在も音楽祭復活の障害となりました。戦後バイロイト音楽祭が復活したのはこのウィニフレッドを追放した結果であり、1951年7月29日、フルトヴェングラー指揮の「第九」(あまりにも有名なバイロイトの第九)で音楽祭は再開されます。そして、この年に上演されたのがこのクナッパーツブッシュ指揮によるパルジファルとカラヤンによるマイスタージンガーでした。
 ただし、音楽祭は何とか復活にこぎ着けたものの資金面では非常に苦しい状況であり、十分な舞台装置を用意することが出来ませんでした。リハーサルの時にクナはセットが準備されてないのだと思い込んで、「何だ、舞台がまだ空っぽじゃないか!」と怒鳴ったという逸話も残っているほどです。しかし、出来る限り簡素な舞台装置と照明を駆使して暗示的に舞台を構成していくというこの苦肉の策が「新バイロイト様式」として戦後のオペラ界を席巻していくのですから世の中何が幸いするか分かりません。
 ただし、クナの方はこの舞台装置は全く気に入らず、本番では舞台の方は全く見ないで指揮をしたのでみんな大変困ってしまったという話も伝わっています。その後、クナと音楽祭の事務局は何度かこの演出をめぐって衝突するのですが、最終的にはヴィーラントとヴォルフガングがクナに詫びを入れて決着をつけ、クナ自身も死の前年まで出演を続けることになります。
 それにしても、クナという人は本当に常人の感性では到底はかりきれいほどの巨人性をもった人でした。それは、数々の破天荒なエピソードで彩られた生き方だけでなく、何より彼が作り出すも音楽の巨大さにこそ驚かされます。そして、その巨大さが遺憾なく発揮されるのはワーグナーとブルックナーにおいてでした。とりわけ、このパルジファルのような凄いワーグナーを聴かされると、年寄りのように「昔は良かった」とぼやくことも少しは許されるかな・・・と、思ってしまいます。

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